12

 朝、私は鳥のさえずりで目を覚ました。

 隣にいるはずのノエルがいないので、先に起きたのだろう。

 結局昨日もやってしまった。なんか、寝る直前にとんでもない甘え方をした気がする。いい年してとかじゃなくて、もっと別の恥ずかしさが込み上げてくる。


 甘えるのは心地いいけど、ずっとお姉ちゃんをしてきたので、まだ慣れない。というか、小学生の頃から両親共働きで父は出張が多く、母も夜勤で人に甘えること自体なかった気がする。流石に病気でしんどい時は母の手を握って「寝るまでいて」なんて言ってたけど——あれも小学校低学年までだ。


 自分で言うのもなんだけど、前世はなかなかハードだし、そのせいか私も達観というか、諦めていたところがあったから、反動なのだろうか。

 ——考えるのをやめよう。賢者タイムみたいになっている。

 私は軽く頬を叩いて、ベッドから出た。

 とりあえずパジャマから運動用の服に着替える。それから厨房で簡単に朝食——パンと珈琲——の用意をして隣の食堂に行くと、先に起きたノエルが朝食をとっていた。


「ノエル。おはよう。昨日はその……ごめんね?」

「いえ、務めですので。それに、おかげさまで私もよく眠れました」

「あはは、ならよかった」


 彼女はまだ私に仕えるようになって短いけど、扱いがうまい気がする。なんというか、ご主人様を理解しているというより、年下の扱いがうまい? 多分、妹かそれに近い存在がいたのだろう。


「あ、でもお風呂入れなかったよね」

「はい。なので朝食を取ったら入ろうかと。ご主人様も?」

「私はトレーニングしてから入るかな。汗かくだろうし」

「そうですか。では、今日はご一緒しても?」

「もちろん。あ、動きやすい服ある? なかったら貸せる服……は、ないかも、ごめん」


 ノエルは頭一つ分くらい私より背が高いし、胸も私より大きい。多分、私が持っている服はどれもサイズが合わないだろう。


「大丈夫ですよ。一応、動きやすい服は買ってあるので」

「そうだったんだ。じゃあ大丈夫だね」


 きっと私がお小遣いを渡して「私には選びかねるから自分で服買ってね!」と言った日に買ったのだろう。にしても動きやすい服を買ったってことは、ノエルも割と運動するのだろうか。



 朝食を食べ終え、ノエルとのトレーニングも終え、私たちは脱衣所に直行した。


「久々にいい汗をかいた気がします。やはり、運動はいいものですね」

「これからはノエルも一緒にやる?」

「それは仕事の時間的に厳しいかもしれませんが、朝少し早く起きて走り込みをするくらいはいいかもしれません」


 そう言いながら、ノエルは服を脱ぐ。運動しやすいように少しぴっちりした服を着ていたので、それはもうすごかった。何がって、胸が。ぶるんと。

 ノエルは脱ぐとすごい。胸は勿論、元々体を動かす何かをしていたのか、まあスタイルがいい。ただ細いだけではなく、しっかり鍛えて引き締まった細さ。程よく筋肉が付いており、腹筋も薄っすら割れている。


「……あれ?」


 彼女の綺麗な体を眺めていて、ふと気づいた。奴隷紋がない。


「ねえノエル、奴隷紋がない……」

「どういうことです?」

「言った通りだよ。奴隷紋がなくなってる。ほら」


 私はノエルの下腹部を指さすが、彼女は「申し訳ありません、胸が邪魔で……」などとのたまった。許せない。


「当てつけか? いや、それはともかくマジでなくなってんの。なんでだろ、私何かやらかしたかな……」


 ノエルの下腹部をツンツンしながら必死に記憶を探る。やらかしたなら、おそらく昨日だ。


「……もしや、昨日吸血されたからではないでしょうか」

「吸血? それって、吸血鬼がちゅーちゅーするやつ? 私したっけ……」

「はい。その、ご主人様が寝てしまう直前に……」

「え、それ、痛くなかった? 今変な感じするとか……」

「いえ、それは大丈夫です」

「なら、奴隷紋が消えた以外影響はないってこと、なのかな……」

「おそらくは」


 なら問題ない、のだろうか。漫画じゃ眷属にするだとか血を吸って干からびるとか、そんなイメージがあるので不安だ。一応、今日街に出てそういう事が書いてありそうな本を探しておこう。あと、セレネにも何か聞いておいた方がいいかな。


「ノエル、その、給料はちゃんと払うから、やめたりしないでね?」

「しませんよ。今更、行く当てもありませんから」

「そっか……」


 それは良い事なのかわからないけど、このまま一緒に居てくれるというなら安心だ。

 けど、本当にお酒には気を付けるようにしよう。

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