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転生から三週間が経って、すっかりこの生活も板についてきた。
あれから私は順調に魔術を習得していき、使える魔術の種類は勿論、属性も増えた。
ちなみに属性は、火、水、風、地、光、聖、無の三属性がある。
五属性はそのままだが、その他二属性の聖、無の二つは特殊だ。無属性は謂わば魔力そのものを扱うのに近い。魔力弾とかそういうものだ。
そして聖属性は文字通り、聖なる魔力。扱える人が少ない希少な属性であり、使いこなすには加護が——神に認められる必要がある魔術。そんな特殊な魔術なのに、魔族や魔人、魔剣などを相手にするには必須な属性である。
ゲームでも使い手が少ないせいでそれらに滅ぼされた村が何個もあった。
閑話休題。私は水と光、そして聖の三属性に関してはセンスがあるのか、特に順調に成長している。
レベルで言えば、多分十段階中の三か四くらい。
セレネ曰く、独学でこれだけ使えるようになれば十分らしい。
あとは体力づくりの走り込みと剣の素振りで、体力と力が付いてきた。目に見えて筋肉が付いたわけではないけど、いいスタイルを維持できている。
とまあ私自身の能力は順調に成長している。
それから、少し変わった事が一つ。ノエルとの距離が縮んだ。
「ご主人様、夕食の材料の買い出しに行ってまいります」
庭に設置したハンモックに揺られながら本を読んでいると、奴隷の中では最年長のノエルが報告しにやってきた。
これから買い物に行くので、白いブラウスに紺色のハイウエストスカート、髪型はハーフアップと、大人っぽい私服に着替えている。うん、いい目の保養だ。
「——待ってノエル、私もついてく」
暇を持て余していた私は、ノエルの買い出しについて行くことにした。せっかくだし、美人なお姉さん系奴隷メイドとデートしようじゃないか。
「はい。それでしたら、日傘を用意してきますね」
「うん、お願い」
ノエル買ってから一週間だが、私が良く話しかけているので、彼女も私の事をちゃんと知ってくれている。
なので、出かけるとなれば日傘を用意してくれるし、嫌いな食べ物は食べやすいように調理してくれる。
「お待たせしました。では、行きましょう」
私はノエルから受け取った日傘をさして、屋敷を出た。
「ノエル、今日はお酒買っていい??」
買い物について行くので、私はノエルにそう聞いてみる。主人でありながら奴隷に許可を取るのは、好き勝手して自制心がなくならないようにするためだ。
「いいですけど、飲むのは少しだけですよ」
「わかってるよ」
もはや立場が逆転しているような気もするけど、これは私が許したからだ。
ノエルが年上ということもあって、さっそく奴隷とかメイドというより、もはや世話を焼いてくれるお姉ちゃんである。
「そうだ。今日はノエルも飲む?」
「そうですね。仕事も片付いていますし」
「やっと一緒に飲めるんだ。ふふふ、ノエルがどんな酔い方するのか楽しみだ」
「私、お酒には強いのであまりご主人様の機体には答えられないですよ。むしろ私はご主人様がまた酔ってやらかすのではと心配ですよ」
「うっ、大丈夫、ほどほどにするから……」
私は一回家で飲んで失敗している。ノエルが買って来てくれたものが美味しくて、つい飲みすぎてノエルに甘え散らかした。
いくら相手が年上とはいえ『ねぇ、一緒に寝よ?』なんて、思い出しただけで恥ずかしい。
「うぐっ」
恥ずかしすぎて死にそう。
「ご主人様……。まあ、飲みたいときは言ってくださればお酌も介抱も致しますよ」
またあんなことにはなりたくないので、酔う前に止めてと頼むと、彼女は「お任せください」と私に優しく言ってくれた。
その日の夜、私はバルコニーでノエルと飲んでいた。
セレネと初めて飲んだ日から妙に酒にハマって、よく夜に飲んでいる。別に酔いたいわけではなく、純粋に美味しいからだ。
私が飲む酒は度数が低くフルーティーで、ジュース感覚で飲めるものばかり。一度強いものを一口飲んだが、あれはアルコールっぽさがダメだった。
あとは雰囲気。お酒は二十歳になってから、と言われていたので、飲んでいると何となくちょっと大人になった気分になる。気分も何も、実年齢的にはこの国じゃもう大人だけど。
「んくっ……ん~、美味しい! 始めて飲むけど、これなんてゆーの?」
「ディオラ酒ですね」
ディオラは確か王都の南にある森で採れる果実だったっけ。実物は見たことないけど、味は甘いりんごっぽくて、結構飲みやすい。
「へぇ。やっぱり果実酒は飲みやすくていいね。あと、ゆで卵がなかなか合うね」
「定番の組み合わせなんですよ。あとは、塩分多めの薄切り肉なんかも会いますよ」
「そうなんだ。じゃあ明日はそれお願い!」
「わかりました。買っておきますね」
明日のおつまみに思いを馳せながら、私はまた一口ディオラ酒を呷った。
◆◇◆
輝く星空を眺めながら、ルナは顔を赤くしてふらふらしていた。
飲み始めて一時間ほど。普段であればまだ少し頭がふわふわしている頃だが、今日はもう限界に近い。
今日飲んでいた酒が飲みやすく、それでいて普段飲んでいるものより度数が高いからだろう。
「ノエルぅ~、わたしそろそろ寝るかも~」
ルナは普段より少しとろんとした、眠そうな声でそう告げる。
「そうですか。一人で歩けそうですか?」
「うん……」
椅子から立ち上がると、すぐふらついてテーブルに手を着いた。
「やっぱり無理かも。連れてって」
ルナは抱っこしろとでも言いたげに、ノエルに手を伸ばす。
「わかりました。ちゃんと捕まってくださいね」
ノエルはふらつくルナを抱きかかえ、そのままルナの私室のベッドまで運び、ゆっくりとおろした。
「ノエル~」
前回の悪酔いの具合を知っていたノエルは、一緒に寝ろと言っているのだろうと察して、ルナのベッドに入る。
「ん~、ノエル柔らかい……」
ルナはノエルをぎゅっと抱きしめて、胸に顔を埋める。
するとふわりと甘い香りがルナの鼻腔をくすぐった。
服から香る洗剤の香や香水の香りではない。ルナだけが分かる、ノエルから漂う甘い香りだ。
「お腹すいた……」
香りに釣られて、ルナは口元を首筋に近づける。
「ご、ご主人様、もしかして——」
言い切る前に、かぷっと首筋にキバを立て、ちゅうちゅうと血を吸う。
「っ、ご主人様……」
「おいしい……」
ルナは少しの間ノエルの血を吸うと、首筋から口を離して、そのまま眠ってしまった。
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