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 夕飯を食べ終えた私は、セレネに頼んでお風呂に湯を張ってもらった。

 やはり魔石に魔力を流し込むことでお湯を貯められるらしい。

 しかも我が家の浴場用のあの魔石はなんと豪華仕様、浄化魔術なるもので常に清潔、何なら浸かるだけで清潔になるそうだ。


 それとはまた別で、ちゃんとヘアケア用品的なものも存在するようで、セレネが持ってきてくれた。髪を洗った後、言い感じにオイルを塗り込めばいいらしい。

 まあ、それはともかく。

 セレネの裸が芸術的なまでに綺麗で、どうしても見てしまう。

 小柄で童顔で、見た目だけなら今のわたしより年下にも見える。しかし、顔つきや体つきがあまりにも美しい。黄金比と言えばいいだろうか。小柄で華奢な体に、小ぶりでありながら確かに膨らんだ形のいい胸と、可愛らしくぷっくりとしたピンクの乳首。

 お腹から腰回り、太腿にかけてのラインも綺麗だし、ふと見えたそれも、作り物のように綺麗だった。

 これが女神の体……本当に美しい。もはや、触れてはいけないもののような感じがする。

 そんなセレネは、「なーにじっと見てんの~」と私の脇腹を突っついてきた。


「うひゃうっ⁉ ちょ、ちょっと、セレネの体が綺麗すぎたから、見惚れてただけだよ」

「どうよ、女神の体は? でも、そういうルナちゃんだって綺麗じゃない」

「そりゃまあ、時間かけて作ったから」


 セレネの体も綺麗だけど、私もなかなかのものだと思う。

 背丈はセレネより少し大きいくらで、十四くらいの見た目をしている。私もか弱い乙女のような華奢な体だけど、胸はそこそこある。測ってないから分からないけど、CかDくらいはあるんじゃなかろうか。前は驚くほどぺったんこだったからなぁ。自分でも見惚れちゃうね。


「そういえば、私の体って完全再現されてるけど、どうしたの?」

「気に入ってるみたいだったから、こっちの神様に頼んで作ってもらったの」

「それで吸血鬼みたいなことになってるんだ」

「というか、吸血鬼よ」

「え、うそ。マジ……?」

「ええ。まあルナちゃんの場合、限りなく真祖に近いから即言われてる苦手なものも大した弱点にはならないから大丈夫よ。お昼ご飯にもにんにく入れてたし」

「そういえば、太陽も別になんともなかったもんね。じゃあ、いいのか」

「あ、でも太陽の元を歩いても灰にはならないけど、日焼けしたら痛いから気を付けてね。あとはおおむね大丈夫よ」


 少なくとも、この感じであれば吸血鬼だからって日常生活に問題はなさそうだ。


「あ、ちなみに吸血鬼って一応魔族なんでしょ? 浄化魔法大丈夫なの?」

「アンデッドじゃないから大丈夫よ。聖属性ともなると別だけど……まあ真祖に近いなら問題ないわ」


 つまり、普通に色白な人間と大差ないってことか。


「ならよかった。じゃ、お風呂入ろ~」


 セレネと腕を組んで、浴室に入る。


「セレネ、背中流して~」

「いいわよ。素手と体、どっちがいい?」

「え、あっ、んなっ、えっ——」


 やべ、鼻血出てきた。確かにセレネはゲームじゃ結婚システムで結婚した後『奥さんとして、いっぱい尽くしてあげちゃうわよ!』とか言ってたけど……!


「うふふ、揶揄うには刺激が強すぎたかしら」


 妄想ばかりで男の子はおろか、女の子の裸すら妄想の世界のものだった。見るだけならともかく、そんな……。


「大丈夫、普通にするわよ。ほら、とりあえずその血を流すわよ」


 鼻血を流した後、私は普通に背中を流しあった。

 セレネの手、ぷにぷにだったな。



 髪と体を洗って、私たちは大きな湯船につかった。もはや、温泉レベルの広さだ。

 少し肌がピリッと痛む程度の熱さも、日本人的には心地良い。


「うあああ、あったかぁぁ~」

「やっぱり大浴場っていいわね~。疲れが取れるわ~」


 ふあぁぁ~、と二人で大きな溜息をついて、少しの間沈黙が続く。

 黙っている間、私はふと前世の事を思い出した。

 病弱で不健康な体が原因で妹とすら一緒に風呂に入ることは少なく、当然お泊りで友達と、という経験もない。というか友達いなかったし。

 数少ない旅行の時も、体がコンプレックスで部屋の風呂に入っていたので、こういう大浴場で誰かと一緒というのは初めてだ。

 その相手が推しなので嬉しすぎて気を抜いたら死んじゃいそうだけど。

 そんな推しがいるからこその嬉しさはもちろん、やはりコンプレックスを気にせず脱げるのが嬉しい。


「これで詩音がいたらなぁ……」


 リラックスしすぎていたからか、ついぽろっと口に出してしまった。

 やはり、姉として姉妹でやってみたかったことをほとんど出来ずに死んでしまったので、ふとした時に考えてしまう。


「叶えてあげたいけど流石に難しいわね……」


 そう言ってセレネは私の肩に頭を寄せてきた。


「なんとか方法は探してみるけど。でも、今は私で我慢してちょうだい」


 その言葉に甘えて、私もセレネに頭を寄せる。

 せめてこの場に彼女がいてくれてよかった。たぶん、セレネがいなかったら立ち上がれなかっただろう。詩音が頑張っていると聞けたのも大きいけど——それでも、セレネの存在は大きい。

 だからなのか、セレネに甘えて風呂で長話しすぎたせいでのぼせてまた鼻血が出た。


  ◇◆◇


 朝が来た。

 カーテンを開けっぱなしにしていた窓から差し込む朝日と、鳥の鳴き声で目を覚ました私の隣には、セレネがいる。

 彼女はすぅ、すぅと可愛らしく寝息を立てながら、まだぐっすり眠っている。

 昨日は遅くまで話を聞いてくれていたので、眠たいのだろう。


 しかし、まさか私がこうもすっきり起きられるとは。前は低血圧やら起立性調節障害でものすごく朝に弱かったので、なんだか新鮮だ。

 せっかく気持ちよく目が覚めたのだし、セレネの可愛い寝顔でも眺めているとしよう。

 やはりセレネは顔がいい。ゲームじゃ初期実装キャラということもあって、最新キャラに比べたらモデルがまあ微妙だったけど、生で見ると物凄く可愛い。流石は十周年人気ランキング第一位。


 大きな瞳、長いまつげ、すっと通った鼻梁、小さい口にぷくっとした唇。ほっぺはすべすべぷにぷにで——おっと、つい触っちゃった。


「んっ……うぅん……」


 ほっぺを突いていると、セレネは可愛く唸りながら寝返りを打って、反対を向いてしまった。

 もうちょっと寝顔を見てみたかったなぁ。いやでも、うなじもなかなか——ううん、これ以上は流石にキモいからやめておこう。ただの変態になってしまう。

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