5

 私にできることもなく、厨房でお喋りしていると、すぐに夕飯の支度が終わった。

 食事をワゴンに乗せて食堂に運んでから食べ始める。


「「いただきます」」


 メニューはパンとビーフシチューとコーンスープ。メニューに新鮮味はないが、入っている野菜がよく見ると違って、その辺はしっかり異世界らしさがある。

 そして味のほうは——


「んむぅ~、おいしい~!」

「レアな肉が買えたから使ってみたんだけど、どう?」

「うーん、なんていうんだろう、鶏肉に近い食感な気がする。あと、程よく味が染みてて美味しいね。何の肉なの、これ?」

「デッドホーンボア」

「デッドホーンボア⁉」


 って言ったら、ゲーム序盤のダンジョンにいるボスの名前じゃないか。

 ボスというだけあって角の生えた筋肉隆々の猪で、とても食べれる見た目じゃないけど。


「あれの肉、こんな柔らかくなるんだ……」

「部位によるけどね。比較的柔らかい部位なら調理法次第で食べやすくなるの」

「へぇ。って言うか、アレを食べるって逞しいなこの世界」

「ああいう大物の肉を食べる機会は少ないけどね。危険だからわざわざ狩りに行かないし」

「逆に、どういう時に食べれるの?」

「魔物の肉だと、まあ生活圏に出て危険だからって狩られた分がちらほら店に並ぶくらいね」

「そうなんだ。って、そりゃあんな明らかにヤバい魔物を食べるためだけに狩ったりしないか」


 例えばデッドホーンボアは、ゲーム通りならば直線的だが破壊力の高そうな突進攻撃をしてくるし、他の食べられそうなボス——何ならダンジョンの雑魚も実際戦うとなると強そうだ。それを食事のためだけに狩るのは、流石に無謀だろう。けど、それをわかって狩るのが人類でもあるし、意外といたりするのかな。


「普通はそうなんだけどね。たまにいるのよ、食べたいから狩猟してくれって貴族が。それで、狩ればおこぼれで食べられるから喜んで狩る冒険者も少なくないわ」


 本当にいるのか……。


「やっぱり、人間は美味しいものには勝てないんだね。まあわかるけど、ヤバい依頼する人もいるんだねぇ」

「困ったもんだよ。まあ、ああいう依頼があるからこそ腕も鈍らなくていいんだけど」


 愚痴っぽいけど、話しているセレネは割と楽しそうだ。


「そういう依頼ってさ、やっぱり冒険者ギルド的なところから来るの?」

「変な依頼は私に直で来るかな。でも、基本はギルド経由だよ。ちゃんとギルドが取り纏めないと、無法地帯になっちゃうから。だからまあ、いきなりルナちゃんに変な依頼が来るとかはないから、安心して」

「それはよかった? って、それじゃあゲームのあのシステムって——」

「現実じゃただの面倒ごと」


 ゲームだと、依頼は基本ギルドではなく依頼主から直接引き受けるシステムだった。

 一応ギルドは存在していたし、そこ経由で受注する依頼もあったけど、アレは経験値が渋いからと見向きもされないものだ。


「あぁでも、報酬がおいしいのはゲーム通りかな。個人で依頼を出せるくらいだから、報酬も弾んでくれるの」

「それはこの世界がゲームっぽいのか、ゲームが上手かったのか……」

「現地を参考にして作ったゲームだから、再現が上手かったのよ」

「現地を知ったうえでって言ったら、ゲーム内にあった料理もやっぱり実在する感じ?」

「ものによるけど、基本はね。ビーフシチューもあったでしょ?」

「言われてみればあったような……。ってことは、この世界の料理って意外と地球と似てるんだ」

「結構ね。しかも、今の時代交易も盛んだから所謂中華料理とか、日本料理もあるわよ」

「へぇ、異世界って中世ヨーロッパみたいなの想像してたけど、進んでるんだ」

「もちろんエスニックな料理もあるわよ」

「そういうのも食べてみたいなー」

「それじゃあ、明日作ってあげるわよ」

「明日もいいの?」

「ええ。私もいい気分転換になって楽しいから」

「えへへ、楽しみー。じゃあ、その次は私が何か作るね」

「それは楽しみね」


 私たちは会話に花を咲かせて、楽しい夕食の時間を過ごした。

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