3

「ねえ、詩音は今どうしてる?」


 とにかくそれが心残りだ。あの子の事が分からないと、たぶん私は何もできない。

 いい結果でも悪い結果でも、せめてこれだけは聞いておきたい。まあ、悪い結果だと一ヶ月は立ち直れないと思うけど。


「何度か様子を見に行ったけど、何とか立ち直って勉強頑張ってたわよ。最後に見た時は、もうすぐ受験だからってずっと勉強漬け。お姉ちゃんと同じ高校を受けるんだってね」

「そっか、頑張ってるんだね……。ちなみに、どうやって見に行ったの?」

「私は神様だからね。そっちの――日本の最高神に頼んで、ちょっと様子見してたのよ。だから、ルナちゃんは行けないわ」

「そっか……。でも、うん、よかった。詩音は大丈夫なんだね。じゃあ、全く思い残すことがないわけじゃないけど……うん、大丈夫。詩音が頑張ってるんだから、私も頑張って生きる。あ、そういえばあっちは今何月くらい?」

「今だと……二月か三月あたりじゃないかしら。琴音ちゃんがルナちゃんになるまで、けっこう時間かかったから」

「ってことは受験が終わった頃か。詩音志望校受かったかな。受験で緊張しすぎてとかないよね……昔から本番に弱いタイプだったからちょっと心配だな。でももう高校生になるんだし大丈夫かな……」


 詩音ももうすぐ高校生になるんだもん、大丈夫だよね。それに私がいなくなってからも、頑張ってたんだから。あの子が出来ないわけがない。だって、私の妹なんだし……。


「……ダメだ、詩音のこと考えたら泣いちゃう」

「それじゃ、気分転換に美味しいものを作ってあげよう。ちょっと待っててね、食材狩って来るから」

「うん……」


 寂しいけど、もう考えてもどうしようもないことなのだ。

 やっぱりすぐには呑み込めないけど、テミちゃんだってこう言っているのだ。今は、何とか前向きになろう。

 そうだ、テミちゃんの作ってくれたご飯を食べて気分転換しよう。


「――かって……もしかして現地調達?」

「そうだよー。やっぱり肉も野菜も新鮮なのが一番だからね」

「その、皮剝いだり血抜きしたりも……」

「そりゃ出来るよー。狩るだけ狩って放置するのは良くないから」

「おぉ、流石狩猟の女神だ」


 目の前のゲームでよく見た可愛らしい少女も、本当に女神なんだなぁ。立場がどうのというよりも、空想上の存在だと思っていたから、中々実感が湧かない。

 けど、そっか。この子は本物のアルテミスで、私の最推し。

 今はまだ推しにファンサを求めるような気分でもないけど、やっぱり嬉しいものは嬉しい。

 ……詩音に『推しと楽しくやってるよ』って言ったら安心してくれるかな。


「それじゃあ行ってくるわ。お昼までには戻るから。ちゃんと、大人しく待ってるのよ?」


 そう言って、テミちゃんは私の頭をぽんぽんした。


「美味しいもの作ってあげるからね。それと、私はこっちじゃセレネ・アルテミシアって名乗ってるからそれでよろしく!」

「セレネね。わかった。じゃあ、いってらっしゃい」


 テミちゃん改めセレネを見送って、私は部屋に戻った。勢い億ベッドに飛び込んで、ぼーっと天井を見つめる。

 ……まだ目が覚めて半日もたっていないけど、色々ありすぎて疲れたな。

 特に私がどうしてこうなったのか聞かされた時は悲しかったり苛立ったりしたけど、詩音が元気だと聞けたので、これで後腐れなく第二の人生を楽しめそうだ。


 まあ、あの子のドレス姿を見たかったとか、入学式で一緒に写真を撮りたかったとかそういうのはあるけど、それはもう仕方ない。私はシスコンを自負しているのでそれは悔やまれるが、悲しいかな物事を割り切るのは得意だ。そうやって生きてきたし。


 ――そう思うことにして、私は第二の人生を歩み始めた。

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