第43話 ペットができました
しかし、なぜこんなことになっているのか。
俺はそのまま周囲を見渡す。
様相が違うのは巨樹だけではない。
周囲に生え茂る木々や草花のことごとくが、大量のダメージを受けたように荒れ果てた姿となっていた。
これだけ見れば、理由はおおよそ予想がつく。
先ほどまでここら一帯は、神を名乗る不審者(もう今度は不審者だけでいいか)が呼び出した低級魔物たちが
恐らくここは、その魔物たちの被害を受けたのだろう。
思えば、イヌと再会したのもここからは少し距離があった。
住処を壊された後、大量の魔物たちから逃げるために移動していたのだとすれば全てに辻褄がつく。
にしても……
(あの不審者野郎、イヌの住処をこんな風にしやがって。もっとコテンパンに痛めつけてやればよかった……)
そんな考えが浮かぶが、今さら後悔しても仕方ない。
先のことについて考えなければ。
とりあえず俺の最優先事項としては、イヌの安全を守りつつ、新しい住処となる場所を提供することだが……
(っ、そうだ!)
ここで俺は一つの解決策を閃く。
「なあ、お前さえよかったら、俺と一緒に町まで来るか?」
「「「「えっ!?」」」」
しかしなぜか、イヌではなくアリシアたちが先に反応する。
この驚きよう。まさか――!
「もしかしてグラントリーでは、ペット禁止だったりするのか?」
「ペッ!? い、いえ、決してそのようなことはないかと。ただ……」
何かを付けたそうとするアリシアだったが、ここでフルフルと首を左右に振る。
「いえ、これ以上は無粋でしたね。大丈夫ですよ、ユーリさん。そちらの方を連れて帰ることは問題ありません。いいえ、私たちが問題にはしません」
「…………?」
何やら表現が引っかかったが、とにかくOKみたいだ。
それさえ分かればあとは何でもいい。
「ってなわけだ。イヌ、一緒に来るか?」
『ワフッ!』
力強く唸り声を上げ、俺の差し出した手にお手をするイヌ。
こうして俺は新しくペットを飼うことになったのだった。
――――しかし、それから数十分後。
町に戻ってきたタイミングで、門番とひと悶着が発生した。
「おかえりなさいませ、『晴天の四象』の皆さん。森では異常があったようですが、全員ご無事なようで何よりです――っておい、そこのお前! どさくさに紛れて、いったい何を町に入れようとしているんだ!?」
門番の視線は、俺たちとともに歩くイヌに向けられていた。
やはり外からの持ち込みには制限があったりするのだろうか? だが、それはそれとして、イヌを指して『何』と言われるのは心外だ。
「何って……説明するまでもなく、見れば分かるだろう。コイツは犬だ!」
「い、犬? いったい何を言って。もしかして、どこかで頭を打ったんじゃ……」
何やら失礼なことを言ってくる門番。
するとそこで、アリシアたち四人がグッと前に出る。
「いえ、彼の言う通りそちらは犬です」
「ああ、フェンリ――じゃなかった、犬だ」
「ええ、確かに犬よ」
「イッヌ」
四人の説明を受け、門番は困惑した様子ながらもコクリと頷く。
「せ、『晴天の四象』の皆様がそう仰られるということは、何か事情がおありなのでしょう。分かりました、中に入って構いません。あっ、それとそこの君、ここに書かれた住所にはこの町一番の治癒術士がいるから、一度頭を見てもらった方が……」
失礼だな。
とまあそんな些細なトラブルも発生しつつ、俺たちは無事『グラントリー』に帰還するのだった。
1匹のペットを連れて。
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