第26話 SSランク魔物 【晴天の四象】Side
冒険者ギルドでのやりとりから数時間後。
【晴天の四象】の4人は魔脈の異常を正すため、大森林の奥地へと足を踏み入れていた。
無論、その道のりは決して容易いものではない。
『ガルゥゥゥウウウウ!!!』
『キシャァァァアアア!!!』
『GieeeeEEEEE!』
鋭い白色の毛並みが特徴的な猛虎。
鋼鉄をも軽々と溶かす毒を吐く大蛇。
次々と配下を生み出しながら、数多の軍勢で迫りくる悪魔。
異常を起こした魔脈から漏れる瘴気に当てられ暴走した、Bランク以上の魔物たちが次々と襲い掛かってくるからだ。
「セレス!」
「ああ――――【
魔力と闘気を組み合わせた身体強化により、セレスは自身の背丈ほどある大剣を力強く振るう。
それによって生み出された風の大壁が、迫りくる全ての魔物を吹き飛ばした。
「今のうちです!」
それを確認したアリシアは素早く指示を出し、他3人はスピードを上げた。
今回の目標はあくまで魔脈の異常を正すこと。
必要以上の戦闘は避ける方針だった。
その目論見がうまくいったのか。
途中、数体のAランク魔物と遭遇する危機に見舞われたものの、ほとんど魔力を消費することなくアリシアたちは目的地にたどり着いた。
「……どうやら、無事にたどり着いたようですね」
「だな」「ええ」「うん」
【デッドリーの大森林】の最深部にたどり着いたアリシアたちの前に現れたのは、地面に開いた一つの大きな穴と、渦巻くようにして溜まる漆黒の魔力。
ここが魔脈が暴走を起こした現場だと一目で分かるほど、禍々しい光景だった。
「なるほどね。確かにこれだけの瘴気が漏れていたら、魔物たちが我を失うのも納得できるわ」
ティオの呟きを聞き、アリシアも同意するように頷く。
「そうですね。しかもこの様子だと、もう数日も経てば【魔人】へと昇華していたかもしれません。救援を待たず私たちだけで先に来たのは正解でしたね」
【魔人】――それは高濃度の魔力から成る生命体の総称。
物理攻撃に高い耐性を持ち、倒すには強力な魔術を使うしかないとされている。
さらに長年生きた個体ともなると高い知能を備えているとされ、最低でもSランクと認定される。
そんな強敵と戦うことも想定していたアリシアたちだったが、とりあえず最悪の状態は避けられたことに全員がホッと胸を撫でおろした。
「では、正常化を始めましょう。お願いします、モニカ」
「わかった」
アリシアの言葉に応じ、モニカが詠唱を開始する。
この中で魔脈の正常化を行えるのはモニカのみ。
まず神聖魔術で瘴気を浄化した後、復元魔術で魔脈をもとに戻すのだが、このどちらも最高峰の魔術師にか使用できない。
まさに『賢者』の面目躍如だ。
しかし、モニカが浄化を始めた直後だった。
「全員、警戒! 周囲に魔物が集まってきているわ!」
「――ッ」
ティオの『気配感知』が複数の魔物の気配を捕らえた。
数秒後、タイミングを合わせたように10体以上の魔物が姿を見せる。
最低でもBランク、最高ではなんとSランクにも達する魔物の集団だった。
「おいおい、何だこれ。まさかコイツら群れてやがんのか!?」
種類の異なる魔物が群れを成すことは珍しい。
だが、状況からはそうとしか考えられない。
その理由をアリシアは瞬時に見抜いた。
「恐らくこれも瘴気のせいでしょう。自身の浄化を嫌った瘴気が、影響下にある魔物を操って私たちを排除しようとしているのでしょう」
「ちっ、たかが瘴気のくせに面倒な奴だな!」
「……まあ、やるしかないわよね」
状況はまずいが、今から撤退はありえない。
ここで何とか、モニカが正常化を終えるまで時間を稼ぐのが最善だと考えた3人はそれぞれの武器を構えた。
しかし、その時だった。
「待って、違う。この瘴気の狙いは……」
「モニカ? 今は分析より、正常化を進めて――」
「みんな、伏せて!」
「「「――――――」」」
普段のモニカからはありえない叫び声を聞き、3人は反射的に身をかがめた。
直後、そんな3人の頭上を魔力の糸が伸び――周囲にいる魔物たちを全て捕えた。
必死に抗おうとする魔物たちだったが、抵抗虚しく魔力溜まりの中心に吸い込まれていく。
そして、
ゴキュ、グチュ、ガキッ、グジュッ――――
そんな気味悪い音を鳴らしながら、魔物たちは瘴気に飲み込まれた。
同時に瘴気が放つ禍々しいオーラが一層膨れ上がる。
「おいおい、これってまずいんじゃねえか……」
「魔物を餌にして、どんどん瘴気が強くなってるわよ!?」
セレスやティオの言葉は正しい。
瘴気は明らかに自分たちという天敵を前にし、防衛反応に出たのだ。
今すぐ天敵を排除するための力を手に入れるため。
『■■■■■■ォォォォォォ!』
そしてとうとう、それは成った。
十数体分の魔力を吸収した瘴気は、瞬く間に新しい形に変化していく。
まず、大樹のような巨大な胴が生まれた。
いや、違う。あれは胴ではなく足――ですらなく、一本の足趾だ。
それだけ規格外の魔物がいま目の前で生まれつつあった。
最終的にできあがったその姿を見て、この場にいる全員が目を丸くする。
「冗談だろ……!?」
「なんて大きさなの!?」
「うん、これはまずい」
高さはおよそ50メートルにも及ぶだろうか。
形は人間のようだが、全身が黒い靄のようなもので覆われている。
一歩踏み出すごとに大地が凹み、周囲が大きく揺れ動く。
それから察するに重量も増えた体積分あるのかもしれない。
まさしく、常識を軽々と超越した怪物だ。
そして何より、その身を占める魔力量は以前アリシアたちが敗北したスカイドラゴンすら上回っている。
――SSランク魔物。ほとんど伝説の存在に等しいそんなワードが、彼女たちの脳裏を過った。
普通に考えて、勝ち目などあるはずがない。
弱気になりかけたアリシアは、慌てて首を左右に振った。
(いいえ、落ち着きなさいアリシア。確かにこの魔物……いいえ、【魔人】は圧倒的な魔力量を有しています。しかしあれだけ歪な成長過程を経たからには、何らかの欠陥も生まれているはず。絶対に倒せない敵という訳ではありません)
あと数日はかかると思われていた魔人化をこの一瞬で終えたのだ。
その弊害は必ずどこかに現れる。
それに何より――
「
そんなアリシアの喝を聞いた全員から、一斉に迷いがなくなった。
「へっ、上等! スカイドラゴンといいワイリーデーモンといい、ずっと不完全燃焼が続いてたんだ! このデカい的相手に発散させてもらうとするか!」
「それにサイズは大したものだけど、知能はそこまででもなさそうね。足場を崩す方法くらい幾らでもあるわ」
「うん、わたしも全力を出す」
覚悟を決める3人。
そして、
『…………■■■■ァァァァ!!!』
圧倒的な力を持つ自分を前にしても、戦意を失おうとしない敵を見た【魔人】は全身全霊をかけて排除するべきだと判断した。
かくして、【晴天の四象】と【魔人】による戦闘が幕を開けた。
◇◆◇
――その一方、ほんの数時間前。
「そうだ、森に行こう!」
宿屋で目覚めたユーリは、そう叫んでいたのだった。
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