第25話 魔脈の異常 【晴天の四象】Side

 ワイリーデーモンが出現した翌日。

 【晴天の四象】一行は、呼び出しを受けて冒険者ギルドにやってきていた。


 応接室にはギルドマスターであるレヴィン・ジオネルスターが待っており、アリシアは代表してワイリーデーモンの一件について報告した。


 報告を聞いたレヴィンは困ったように頭をかいた。


「そうか、また例の魔力なしが現れたのか……姿を見せないことといい異常な実力といい、何を考えてるのか分からない奴だな」


「そうですね。私個人の意見としては、とても悪い方のようには思えませんが」


「……まあ、おかげで人的被害を0に抑えることができたんだ。俺としても感謝自体はしてるけどな」


 そう告げた後、レヴィンは「こほん」と一つ咳払いする。


「まあその件については後でいい。ここからが本題だ」


「本題? ワイリーデーモンの一件を報告するために呼び出されたわけではなかったのですか?」


「それ以上に厄介な事態が起きたんだ。まあ、正確にいえばワイリーデーモンや先日のスカイドラゴンも関係していることではあるんだが……」


「っ、聞かせてください」


 姿勢を整えるアリシアを見て、レヴィンは続ける。


「まず大前提なんだが、【デッドリーの大森林】には魔脈が通っていることは知っているな」


「うん、当然」


 レヴィンの問いに頷いたのは、この中で最も魔術に造詣があるモニカだった。


 魔脈とは、大地深くに存在する魔力を生み出す筋の総称。

 魔脈が通った場所では強力な魔物が出現する他、動植物が異常成長すると言われている。


 そんな魔脈が【デッドリーの大森林】に通っていることは冒険者にとっての常識。

 奥地にいくほどその影響は大きく、そのためSランク魔物が多く生息していると言われているのだ。

 反面、町に近い入り口付近になるほどその影響は小さく、出現する魔物が弱くなることが一般的だ。


 しかし、ここ最近は状況が少し異なっている。


「お前たちも知っての通り、最近は奥地に生息しているはずの魔物が大森林の手前で目撃されることが多くなっている。スカイドラゴンやワイリーデーモンなんかがその最たる例だ」


「そうね。こんな異常、私たちがこの町で活動し始めてからの数年間で一度としてなかったわ」


 ティオの呟きに、レヴィンはこくりと頷く。


「ああ。それでその原因をギルド総出で調べてたんだが、ようやく検討がついた」


「何が原因なんですか?」


「話の流れから予測出来てるかもしれないが、だ。大森林奥地の魔力濃度が急激に上昇し、それに影響を受けた魔物たちが異常行動を始めたんだ」


「……なるほど、確かにそれなら辻褄が合ってますね」


 納得したアリシアは小さく頷きつつ、状況の厳しさを悟った。


「なら、一刻も早くその異常を正さなければ、さらに多くの魔物たちが襲撃してくるかもしれないんですね」


「ああ。そこでお前たちには魔脈の正常化を依頼したい……んだが、原因となっている箇所があるのは森の奥地。Aランク前後の魔物がうじゃうじゃいるし、現実的には他の町からの救援を待ち、合同でクエストに当たるべきだろう」


 そう言いながらも、レヴィンの表情は暗い。

 その理由はアリシアにもよく分かっていた。


「私たちと合同で依頼をこなすなら、少なくともAランク以上……できればSランクが望ましい。ですがそのレベルのパーティーとなると王都くらいにしかいません。そこに救援を求めても、実際に『グラントリー』に到着するまで10日以上はかかるでしょう。その間に、魔脈の異常が進行する可能性の方が高いはずです」


「……ああ、お前さんの言う通りだ。ただ暴走した魔物が襲ってくるだけならマシな方。最悪の場合、魔物大暴走スタンピードが発生する恐れがある」


「なら、答えは初めから一つしかないでしょう」


 断言するアリシア。

 彼女の言葉に応じるように、各々が反応する。


「大森林の奥地なら、アタシたちだって何回も行ったことがある。それに休養期間を開けてひと暴れしたかったところだ、ちょうどいい」


 セレスは血気盛んな様子で、


「アンタは毎日魔物を狩ってたでしょうが。まあ、早めに向かうの自体はあたしも賛成よ。これ以上被害が広まらないようにしないとね」


 ティオは冷静に状況を分析して、


「任せて。今回は役立ってみせる」


 モニカはスカイドラゴン戦で離脱してしまったことを思い出し、改めて意気込みながら、


 そして――



「私たちがこれから、大森林の異常を正してきます」



 リーダーのアリシアは確固たる意志と共に、そう宣言した。

 先に待ち受けるも知らないまま。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る