第3話 剣を極めてみた
1000年。
そう、1000年だ。
100年でも200年でもなく1000年。
それだけの期間を、俺は【時空の狭間】で過ごしていた。
心が折れそうになった回数など、10000を超えてからはもう分からない。
アリスティアから差し伸べられる救いの手を待ちながら、ただただ無心で剣を振り続けていた。
ここに至るまでの経緯を振り返ろう。
「ハアッ! シィッ! フッ!」
50年を経過した頃から、一振りで2本以上の剣閃を放てるようになった。
そこからさらに100年も経つと、その数は10本を超え始めていた。
それでもアリスティアからの連絡は来ない。
300年を経過した頃から、意識を切り替え基礎を鍛え直すことにした。
いったん剣を置き、ひたすら身体能力の向上を目指す。
約200年間それだけに費やした結果、瞬間移動じみた速さでの移動や、空間を蹴ることで空を駆けることすら可能となっていた。
500年を経過した頃から、再び剣を握ることにした。
その時にはもう俺の中から疲労という概念は消え去り、一切の休息も取らずに剣を振り続けた。
剣閃の数が千を超え、【時空の狭間】全てを満たせるようになったのは、ここに来てから1000年が経過したタイミングだった。
――その日、俺は妙な確信を抱いた。
「……今日は不思議と、いつもより剣が手に馴染むな」
これに似た感覚は、この1000年間で幾度とあった。
そういう時は決まって、近いうちに大きな壁を乗り越えることができた。
すなわち、これはある種の予兆。
俺がまた一つ、自分の限界を突破できるという直感そのものなのだ。
「ただ、今回はいつもと少し違うな」
これまでが階段を1段だけのぼるような予感だとすれば、今回は一気に100段以上飛び越えてしまいそうなほどの強力な確信。
かつてない限界突破が待ち構えていることを、俺は直感的に理解した。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ」
深く息を吐き、両手で剣を高く構える。
そのまま目を閉じると、俺は静かに“その瞬間を待った”。
その体勢のまま果たして何時間――否、何日・何か月が経過しただろうか。
それだけの間、俺は意識を切らすことなく集中し続けていた。
そしてとうとう、その瞬間はやってきた。
「――――――――――」
まるで雷が自分に落ちたかのような
刃は音速を超越し、そして光速をも凌駕し――【時空の狭間】ごと切り裂いた。
「……成功したな」
たった一振り――
されどその一振りは、これまでに振るってきた数百億全てを合わせても敵わない程の価値を有していた。
俺はゆっくりと目を開く。
するとそこには、驚くべきものが存在していた。
「これは……空間のゆがみ?」
そう。それは1000年前、俺が【時空の狭間】に入ってくるときに通ったゆがみそのものだった。
その光景を見た俺は感慨深く頷く。
「そうか。ようやく、この時が来たんだな」
そして、確信と共にこう告げた。
「――これでやっと、低級モンスターに勝てるだけの実力がついたのか!」
間違いない。このゆがみが何よりの証拠だ。
俺がそれだけの実力を身に着けたからこそ、ようやくアリスティアがここから連れ出すためのゆがみを用意してくれたのだろう。
よく見てみると、ゆがみの先は別の世界に繋がっているようだ。
恐らくそこは異世界。アリスティアはゆがみを通り、異世界に足を踏み入れろと言いたいのだろう。
本人が直接迎えに来てくれないのは少し悲しい気がするが、今はそれ以上の興奮と喜びが胸中を埋め尽くしていた。
「ようやくだ。ようやく俺は【
もちろん、1000年鍛えてようやく低級程度の力しか持たない俺にとって、異世界は厳しく過酷な環境だろう。
それでも、こんな何もない空間に一人で過ごすよりかは何倍も素晴らしいはずだ。
「じゃあな、行ってくるよ」
俺は【時空の狭間】に別れを告げるとともに、輝かしい未来に向けて足を踏み出すのだった――
◇◆◇
アリスティアがその異変を感じ取ったのは、ユーリの捜索を開始してから一か月と少しが経過したタイミングだった。
「これはいったい!? 突然、無限の空間の一部から膨大な反応を感じましたが……」
アリスティアは悩んだ末、その反応があった場所に向かうことにした。
ただでさえ手がかりがない今、どんな些細な違和感でも彼女にとっては貴重だったからだ。
「っ! やりました、ここは間違いなく私がユーリさんを送った……え?」
そんなアリスティアの判断は正しく、彼女は見事に自分がユーリを送り込んだ【時空の狭間】にたどり着いた。
ただし――
今、彼女の前にあるのはユーリの姿ではなく――異世界へと続く巨大なゆがみだけが残された空っぽの空間だった。
その光景を前にし、アリスティアは混乱に陥った。
「あ、あれ? ユーリさんの姿はどこに? いえ、それ以前になぜゲートが開いているんでしょう? 私が開いたものとは違うようですが……はっ、まさか!」
そこでようやく、アリスティアの中に一つの可能性が浮かび上がる。
「まさか……ユーリさんが自分自身の手で、このゲートを開いた!?」
しかしアリスティアはすぐに首を横に振る。
「い、いえ、ありえません。魔力を持たないユーリさんにそんなことができるはずもありませんし。しかし、それならこのゲートはいったい……」
何はともあれまずは確認。
そう思い
「あっ、ああっ! 待ってください!」
――タイミングが悪いことに、ちょうどゲートが閉じてしまった。
これではゲートがどこに繋がっていたのかすら分からない。
アリスティアは思わず、両手で自分の頭を抱えた。
「……いったい、どこに行ってしまったんですか!? ユーリさ~ん!」
何はともあれ、こんな風にして。
もうしばらく、アリスティアによるユーリ捜索は続こうとしているのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
次回より、とうとう異世界に突入です!
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