第32話 γウイルスプログラム

 それって里音先輩のことなんじゃ。

 

 藤宮君、ここは抑えて。

 

 わかってますよ。

 

「そのβは今どこにいるんだ?」

 

「あ? 何言ってんだお前。この先の中央制御室だろうが。α様からここを見張っとけって言われたから俺たちがここに来てんだろ?」

 

「そ、そうでしたね」

 

 これは朗報だ、里音先輩はこの先の部屋にいる。

 

「じゃあ、俺は中間制御室に行くわ」

 

「ああ、よろしく頼んだ。おりゃあ疲れたからもう寝るわ」

 

「うん? いつから監視を?」

 

「昨日の夜からずっとだよ。夜勤なんてするもんじゃねえな」

 

「そりゃあお疲れさまなことで」

 

「じゃあな」

 

 ナノの見張りをうまくかわし俺たちは中央制御室に向かう。

 

「どうですか国城さん。ここから先のセキュリティは」

 

「私の腕をなめるんじゃないわよ。既にすべてのセキュリティゲートを制圧した。このまますすめば中央制御室だわ」

 

「分かりました」

 

「春樹、それ光ってない?」

 

「うん?」

 

 里音先輩からもらった携帯式仮想領域が光を放っている。近くに里音先輩がいるということだ。

 

「待っててください里音先輩。もうすぐそっちに行きます」







 

「うん? ここは」

 

「お、お目覚めかいβ?」

 

「あなたはα。じゃあ私は負けたのね」

 

「そうそう、君は堀本凜にまけたんだ。ここは君の意識空間、ちょっと侵入させてもらったよ」

 

「何者なの彼女は」

 

「何者? 彼女も1年前のゲームの生き残りだよ」

 

「1年前のゲーム……」

 

「そう君がβとなったあのゲームだ」

 

「……」

 

「由愛……」

 

「はっはっはっ、まだその子のことを覚えていたのか? 笑える友情だね」

 

「貴方には分からないでしょうね」

 

「そう、分からない。β君はもう用済みだ。堀本凜という新たなプログラムウイルスγが生まれようとしている」


「γウイルスですって」

 

「そうだよ、僕のプログラムウイルスαも君のプログラムウイルスβも超越する最強の個体の誕生だ」

 

「ふん、だから何?」

 

「死ぬんだよ君たちは。先ずは見世物として、君が信頼する元トリガー春樹君にγをあてるとしようか」

 

「春樹……」

 

「どうだい君を追ってきたんだよ。そんな彼はこれからγを前に敗北する」

 

「果たしてそれはどうしらね?」

 

「ふーん、今にわかるさ。君は意識空間のモニターで彼の敗北を眺めておくといい」

 











「こちら国城穂美香よ。もうすぐ中央制御室に到達するわ」

 

「携帯仮想領域も光を放っている。これはもう少しってことか」

 

「春樹! あれ?」

 

「里音先輩!」

 

 中央制御室のイスには里音先輩が目を閉じて座っていた。意識を失っているのだろうか。

 

「応答しない? 妙ですよこの子」

 

「きっと気を失ってるだけですって。ひとまず彼女をつれてここから出ましょう」

 

「春樹……里音先輩が立ったわ」

 

「うん?」

 

 振り返るとさっきまで座っていた里音先輩が立っていた。

 

「意識が戻ったんですか里音先輩」

 

「誰それ? 私は堀本凜、βからγへ昇格した新たな存在よ!」

 

「何?」

 

 次の瞬間、周囲の空間は仮想領域に包まれた。

 

「GAME START」





 

「里音先輩が堀本凜? ど、どういうことだ」

 

「里音先輩は堀本凜に以前、仮想領域を出して負けてしまっていたわ。おそらくそれが原因でこんなことになったんじゃないかしら?」

 

 確かに現場を見ていた夏菜がいうことなら、とても信用できると思った。

 

「じゃ、じゃあ、俺は里音先輩の姿をした堀本凜と戦わなくちゃいけないのか」

 

「戦う? なーにか勘違いしてるんじゃないかな君は」

 

「え?」

 

「君は前回αが展開したゲーム世界に閉じ込められて、ステータスが反映されてなかったでしょ? あれはαが進化したからゲームをMMO世界から変換することができたんだよ。αより上位の存在であるγになった私がそんなことが出来ないとでも?」

 

「た、確かにこの空間は俺の知ってるMMO世界にはないステージだ」

 

 視界が晴れてくると周囲には、宇宙空間が広がっていた。

 

「ずっと私はね、堀本凜としてゲームが具現化する世界を探求してたんだよ。いつかこんな世界に対面したい、そう思ってたらαの奴が私の理想をかなえてくれた。彼には感謝しかないね」

 

「なんでそんな世界を探求してたんですか?」

 

「あら? 沙月じゃないの? こないだのマージン少なかったわよ」

 

「その姿で言われても違和感しかないわね。本当に堀本凜なのね」

 

「当たり前でしょ、さっきの質問の答えだけど現実が気に入らなかったから。私の学生時代の生活は悲惨なものだった。いじめに、家庭崩壊、拠り所なんてなかったんだ。それは人格が歪むよね。まあ、これ以上はこれからいなくなる君が知っても意味のないことだからさよなら」

 

「……っ!」

 

 堀本凜は宇宙空間の破片を俺たちに飛ばしてきた。

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