第31話 敵アジトに潜入

「ここがギルドナノの新しい拠点か」


 いわゆる高層ビルという感じである。内村礼の奴、こんなに資金力を持っていたのか。


「もう、こんなに大きいビルに潜入するとなると気が引けるわ」


「私に任せてください」


 沙月は記者だ。こういうアポを取るのは手馴れているようである。セキュリティに関しては国城穂美香の案内により、よりスムーズに進むことになった。


「いくらナノといえどもここまでは普通の対応だな」


「表向きが異常集団なら、とっくに目をつけられているはずよ。これはカモフラージュ、きっと裏にとんでもないものを隠しているに違いないわ」


「ふむ沙月さんの意見には同意しかありませんね。このビルはどう考えても怪しすぎる」


 とはいっても俺たちの今の戦力は丸腰同然である。俺が戦えるようになるには里音先輩の救出をしてゲームのステータスを現実に反映しなくてはならないのだ。


 そこで組まれたのが国城穂美香の潜入作戦である。彼女の完璧なまでのセキュリティハッキングにより俺たちは見事にナノのメンバーとして建物内部に侵入することが出来た。後は里音先輩の居場所を突き止めて救出するだけである。


「確か里音先輩から緊急時の時のために持たされていたものがありました。携帯式仮想領域、里音先輩が捕まった時に、いつでも相手に展開できる代物です」


「そんなものあったなら早く出しなさいよ」


「いやあ、すっかり忘れてた。ただ回数は1回だけ、αの奴にあったら使うことになりそう」


「これでゲームの世界が具現化するのかい?」


「ええ、そうですね。沙月さんはまだ初めてでしたよね」


「いや、大丈夫だよ。私は夏菜さんが堀本凜に閉じ込められる瞬間を見たから」


「そういえばそうでしたね」


「しかしそんなものを出したところで里音先輩の場所は分からないんじゃないの?」


「いえ、実はこの携帯式仮想領域は里音先輩の能力で作られたものなんですよ。彼女の半径30m以内に接近した場合、エネルギー表記がされて使えるようになる」


「なるほど、つまり点滅さえしてしまえば里音先輩が30m以内にいるということなのね」


「そういうこと」


 俺は早速携帯式仮想領域を取り出した。


「まだ反応はないみたいだ」


「ふむ、ここはビル20階のうち17階だが、半径30mならちょうど頂上までにいないということになるね」


「そしたらここから1階ずつ降りて行ってみていきましょう」


 しかし1階に降りても反応することはなかった。


「何か怪しいわね。このビルは全てがフェイクのように思えてくるわ」


「確かに里音先輩がいないということになりますが、その場合は国城穂美香の言ってたことが間違っていたことになるね」


「あいつ天才ハッカーとか言ってて使えないんですケド」


「おーい、お前ら聞こえてるぞ」


「おっ!」


 国城穂美香の声が頭の中に浸透するように聞こえてきた。


「これはまた凄い技術ですね」


「これは電子音でお前たちの頭の中に直接話しかけている方法だ」


「もう何でもありね」


「それで? お前ら私に対して散々なことを言っていたようだが、私の言っていることは正解なんだよね」


「でも1階から20階までを捜索しても何もありませんでしたよ」


「地下だ」


「え?」


「このビルには地下の秘密空間が広がっている。先ほど私が突き止めた」


「本当に? 高層ビルに地下空間だなんて本当に怪しい建物ね」


「流石、ナノの拠点といったところだな」


「それで? その地下空間はどこに行けばたどり着けるんですか?」


「ビル1階の東側の隠し扉から入れるようだ。今から私がセキュリティを解除する」


「これは助かる」


 東方向に向かうと、国城穂美香の言った通り隠し扉があり開いた。


「急げ、ここで気づかれると面倒なことになる」


「分かってる」


 俺たちは駆け足で地下空間に侵入した。


「なるほど、どうりでここを拠点にしていたわけだね」


「ふむ、本当にそう思う」


 小ぎれいなビルの地下にはこんなに暗い空間が広がっていたとは、驚きである。


 それにナノのメンバーが着ていた黒装束の服に刻まれたマークがいたるところに描かれている。


「これだけ外装にこだわりは強いわけだから、そりゃあセキュリティが堅いビルを拠点にするよなと」


「静かに誰か来たわ」


「了解」


 俺たちは国城穂美香のプラン通り、ナノのメンバーの服装に変装した。


「ちっ、お前ら第何支部の奴らだ。こんなところほっつきやがって遊んでんじゃねえだろうな?」


「いや、そんなことはしてません」


「はあ、まあいいや。俺たちもこの忙しさからそろそろ解放されそうだぜ」


「どういうことですか?」


「長年姿をくらましていたβを捕らえることに成功したようだ。これでシステムを壊されずに済んだし、一安心できたわけよ」




 β、里音先輩に確実に近づいてると確信できたのだった。

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