第29話 天才ハッカーとヒロインに救われた

「天才ハッカー?」


「そう、このゲームにハッキングをしてプログラムで電子信号を送って君に話しかけているの」


「どうしてそんなことを」


「私はあらゆるゲームシステムのサーバーを管理してる仕事をしているのよ。そしたらこのゲームの異常性を感知して、ここにアクセスさせてもらったわ」


 そんなことが出来る人物がいるのか。だったら俺がやってるMMOの異変にも気づけよ。


「なんでそれを俺がやってるMMOでやらなかったんですか」


「MMO? ああ、私のハッキングをはじくゲームが一つあったっけ?」


「ハッキングをはじく?」


「うん? 高度なβプログラムによって私のサーバーへのアクセスははじかれるわ。不思議よね、この天才ハッカーである私を凌駕するんだから」


「βプログラム……」


 βといえば里音先輩がナノから呼ばれていた別名だ。まだ俺の知らないことがナノにあるのかもしれない。


「でも、もう全て終わったことです。どうせ俺はここから出られませんからね」


「確かに出られないね。私が来なかったらここで君は終了していたよ」


「その言い方だと出られるんですか!」


「うん、私に解けないプログラムはないわ。私の名前は国城穂美香、国に認められた最強ハッカー集団の頂点に立つ存在よ」


「国城さんここから俺を出してください!」


「うーん、分かった」


「ありがとうございます」


 絶望の闇から希望の光が見えた気がした。


「その前に質問させてね。ゲーム世界に閉じ込められた人なんてすごく珍しい。君ならあの内村礼を捕まえることが出来るかもしれないわ」


「内村礼を知っているんですか?」


「ええ、私たちハッカー集団に喧嘩をうってきたのよ。私以外のメンバーはあいつのαプログラムウイルスを前に全員太刀打ちできなかったわ。私は拮抗して見せたけどね」


 やつのαウイルスに抵抗するなんて何者だこの人。


「というわけで内村礼は私たちにとっての宿敵なわけ。あいつの痕跡を追ってたらここに来たというのも大きいわ」


「だったら、俺に協力してくださいよ。俺はあいつを倒す自信があります」


「ほうほう、それは頼もしい限りだね。私のコードを君に送ってあげるよ」


「コード?」


「うん、このコードを使えば私といつでも連絡が取れるわ。何かあった時は協力しあいましょう」


「分かりました!」


「じゃあ、よろしくね。脱出座標を教えてちょうだい」


「じゃあ、俺の家で」


「分かったわ」


「-」








「やっとゲーム空間から出ることが出来た。もう疲れた……」


 俺の意識は途絶えた。









「うん? 朝か?」


 気づいたら俺は寝ていたのだ。何かが脚に乗っている感覚がある。


「んんんん」


「夏菜! お前ここで何してんだよ」


「んんん? 春樹? よかった、アンタがいて」


 夏菜もどうやら寝ていたようだ。俺の声に応じて目を覚ましたのか意識が朦朧としている。


「ごめん、起こしちゃった」


「いいのよ、別に。私も絶望してアンタの家に訪れたら、本人がいたから驚いたのと安心しちゃった。私ずっと怖かったんだよ。春樹が捕まったって里音先輩から聞いたから、探しに行ったら里音先輩も捕まっちゃうんだもの。私一人で何しろっていうのよ」


「まてまて、里音先輩が捕まったってどういうことだよ」


「アンタが悪いんでしょ。麗美のことは分かるけど自分勝手に一人で行動して突っ込むんだもん。里音先輩は罠にかけられたんだわ」


「罠にって誰にだよ?」


「ナノよ。リーダーがα、と思わせて、実は裏リーダーがいたってわけ。その裏リーダーが堀本凜だわ」


「なんだと……」


 堀本凜、俺がホームページにつられて訪れたゲームの具現化を探求するクラブのオーナー、あいつがまさかαとグルだったのか。


「じゃあ、俺は罠にかけられたのか……」


「あいつらの目的はアンタから里音先輩を分断して一人になったところをうまく捕らえるといったところのようね。私なんかは眼中になかったみたいだけど」


「くそっ、嵌められた。直ぐに里音先輩を助けにいかないと!」


「行かないで」


「っ!」


 次の瞬間夏菜が俺の腕を強く引っ張ってきた。









「もう私は一人になりたくないの。春樹、里音先輩なら警察に捜査を頼みましょう」


「そんなんアテになるわけないだろ? αの奴内村礼は最強のハッカー集団を陥落寸前にまで追い込んだ力を持ってるんだ。俺じゃないとあいつをとめられない」


「そんな奴春樹にだってどうしようもないじゃない!」


「っ!」


 俺は同じ過ちを犯すところだった。麗美の復讐のために周りが見えずに、αの罠に引っかかり里音先輩が囚われてしまった。


 完全に俺の失態である。


「ごめん夏菜」


「やっと謝ってくれたの?」


「本当にごめん夏菜、ずっと俺の傍に寄り添っててくれてありがとう!」


「気づくのがおそすぎなのよ」


 夏菜は数少ないゲーム世界の失われた記憶を共有できる存在である。もう夏菜は俺にとって友達以上に大事な存在なのだとこの時に気づいた。


「いこう夏菜、里音先輩を救いに国城穂美香のところへ」

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