第25話 一般人と体験者

「いや、はい。実際に体験したことがあります」


「ほーう、それはどんな風に」


「学校にMMO世界が展開されたんですよ。それで俺はその世界に巻き込まれた。親しい友人がその世界で犠牲になったんです」


「ふーん、それは非常に興味深い話だ」


「信じてくれるんですか?」


「いや、作り話にしてはよく出来ているなと」


「はあ、俺は真面目に言ってるんですよ。今日だって必死になって犠牲になったその子を助けるためにいろんな情報を調べてきたんだ。それでやっとここにたどりついたのに、結局これなんですか」


「ちょっちょっちょっちょっどうしたんだいきなり声を荒げて。私は君の話をしっかりと聞いていたじゃないか」


「俺と同じ体験者かと思ってたのに拍子抜けしました。あなたはただの具現化するゲームのマニアであって、ここに俺の求めるものはなかった帰ります」


「えええ? 君の話は結構面白かったんだがね」


「今日はありがとうございました」


 とんだ冷やかしだ。まあでもこれが普通だといえる。少しでも期待した俺が馬鹿だった。


「まあ、まあ、まってちょうだいよ。私は確かにこの手の分野のマニアにすぎないが、マニアはマニアなだけにそれなりの情報網というものがあるんだよ」


「どういうことですか?」


「先日うちのページを見てとある記者が現れてね。どうやら君と同じゲームが具現化する現象について心当たりがあるとか言っていた。その人物と連絡先を私は交換しているんだよ」


「本当ですか! じゃあその人物の連絡先を教えてくださいよ!」


「おっいいね、そしたらこれくらいの値段でどうかな?」


「は? 値段とかあるのかよ」


「おいおい、当たり前だろ? 君は高校生だから分からないだろうけど、世の中は金で動いているんだよ? 私がこうしていられるのもコレのおかげさ」


「はあ、分かりましたよ」


 幸い親の仕送りは潤沢にある。


「ふふっ、君とはいい商売パートナーになりそうだ。実はこの記者からも、情報料を多額にもらえそうでね。追加報酬もあるみたいだし、君みたいな人物を私は心から待っていたよ!」


「はあ……」


 堀本凜は俺の手を両手でつかみ目を輝かして、高揚感を見せていた。


「その記者の名前だけど琴音沙月という人物だ。連絡の進捗とかあったら私に聞かせてね」


「気が向いたらそうしますよ」


「あ! そういえばまだ君の名前を聞いてなかった」


「俺は藤宮春樹です」


「春樹君か、いい名前だ覚えておくよ」


「名前なんてどうでもいいです。俺は麗美が救えればそれでいい」


「麗美? ああ、さっきの話の犠牲になったっていった子? ふむふむにわかに信じがたいけどまあ頑張ってくれ」


「……」


 この人に麗美のことが理解できるわけがない。だからその言葉に何も感じない。だけどこれは信頼できる情報網を手に入れた気がする。堀本凜、そして琴音沙月、これでαに近づけたかな。


「行くか」


 俺は部屋をでると琴音沙月の連絡先へ電話した。


「もしもし沙月です」


「もしもし堀本凜さんの紹介でこちらに連絡させていただきました。藤宮というものです」


「ほう、堀本凜ね……事情は分かったわ。これから時間とかとれるかしら?」


 随分と飲み込みが早かった。


「はい、俺は大丈夫ですよ」


「藤宮君、そしたら、今日の夕方私が指定した住所に来てくれる?」


「分かりました」


「-」






 夕方か、里音先輩や夏菜が帰ってくる頃だな。でも1人の方が何かと楽に行動できる気がした。


「沙月さんですか」


 ボブショートの女性が待ち合わせ場所にいた。


「ええ、あなたが藤宮さんね。ふむ、やはり高校生だったか」


「やはりとはどういうことですか?」


「私は全国各地のゲームが具現化する痕跡を追っているのよ。今は記者として活動の幅を広げているわ。その情報を基に整理すると、これは高校生の間で起きていると推察しているのよ」


「すごい鋭いですね。でもゲームは体験してないんですよね」


「ええ、そうね。私が感じるのはそこにあった何かがなくなっている、という感覚のみよ。私は昔から直観が冴えているの。この才能を記事のネタ探しに役立てているわ」


「なるほどですね」


 記事の記者ね。この人を信用することはできない。下手な情報を拡散されないように、情報だけ引き出す。


「で? 君はそのゲームの体験者なの?」

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