第26話 取材
「ええ、まあそうですね」
「へえ、これは凄い人物にあったわ。いくつか取材させてくれないかしら? もちろん取材料は私が払うわよ」
「取材料はいらないので、代わりに条件があります」
「うんうん、何でも言って」
「内村礼、この人物について知っていることはありますか」
「内村礼……確か、私が直観を頼りにゲームが行われたと思われる現場に訪れた時に、居合わせた男の子が自分のことをそう名乗ってたような」
「っ! なんでもいいんでそいつの情報について教えてください!」
俺の中に珍しく希望が芽生えた。内村礼、αの奴に近づくほど、麗美にも近づける気がするのだ。
「え、ええ、先ずその子は端正な顔立ちの高校生の男の子、一人称は珍しく僕だったと思うけど、ここまではあってるわよね」
「ええ、そいつで一致してます」
「ふむ、じゃあ内村礼はあいつか。私はその人物に2回あっているわ。1回目は1年前のゲームが行われたと思われる場所ね」
「1年前のゲーム……俺の知らないものだ」
「そこではその内村礼は現場に居合わせた私に軽く微笑んで、次もまた会おうといっていたのよ」
「次もまた会おう……2回あったってことは、実際そうなったってことですよね」
「ええ、2回目にあったのは私が再びゲームの現場と思われる場所に居合わせた時。そこではかなり焦った表情で内村礼君が走ってきたのよね」
「現場ってどこなんですか」
「そうね、どっちも高校だったかしら」
俺は琴音沙月が訪れた高校名を聞いた。
それは麗美の高校だった。
「もしかして数日前に内村礼にあったんですか?」
「そうよ。私は数日前に高校に訪れたら、内村礼に会ったわ」
「……そうなんですね」
この人の直観は本物だ。ゲームの痕跡は終了後記憶と共に消滅する。だからゲームの存在を普通の人は知る由もない。それを直観だけで感じ取るなんて只者ではない。
「その時の内村君はかなり興奮してたわ。何やら望んだ成果がでたらしくてね。私と会った時は、これから凄いことが起きるからあなたも見せてあげたいって言っていたわ」
凄いこと? いったいαは何を掴んだんだ。ただ、もうこれ以上は情報もないようだ。
「今日は、ありがとうございます。そろそろ帰らせてもらいます」
「ちょっと、ちょっと取材はどうしたのよ」
「俺には時間がないんですよ。ゲーム当事者の中でもゲームの記憶がある俺ではないとわからない苦しみがある。記者のあなたには理解できるはずもないでしょうね」
「ちょちょちょ、どうした、そんな取り乱して。ゲームはそんなに熾烈だったのかい?」
「もう帰ります」
これ以上余計なことを言わないように、直ぐに俺は琴音沙月から距離を置こうとした。
「なるほど、流石に部外者の私には、そこまで深くは教えてくれないか……でも私はまだとっておきの内村礼の情報を持っているのよ?」
「……それを教えてください」
「じゃあ、ゲームについて教えて欲しいな藤宮君」
「まずはその情報について教えてからです」
「はあ、そういうと思ってこれを持っておいてよかったよ」
「それは何ですか?」
琴音沙月は名刺を手にちらつかせた。
「内村礼君が私に凄いものを見せに招待したい、っていってたものでね。この名刺を渡してきたんだよ。これは紛れもなく内村礼君からのものだ。これ欲しい?」
名刺には内村礼の名前、活動拠点と住所が書かれていた。
「それをください」
「じゃあ、取材に答えてくれるかな?」
「わかりました」
俺は全てを琴音沙月に話した。
「うっ、うっ、うわああああああん」
「っ! いきなり泣き出して何がしたいんですか」
「ごめんごめん藤宮君、私こう見えて感受性が豊かなタイプなのよ。さっきまでのはビジネスモードだったんだけど、そんなことがあったなんてあまりにも可哀そうすぎるから……」
「別にいいですよ。そんなに泣かなくて、麗美が戻ってくるわけでもないですし」
「麗美ちゃんのことはとても残念だと思うわ。これは内村礼について私も許せないかもしれない」
「そういうのもいいです。実際に体験してないと俺の気持ちは分からない」
「ふーむ、あくまで藤宮君と私には心の距離があると見える。まあゲームに参加してない私が何を言おうと意味がないというわけか」
「うん?」
琴音沙月は名刺を2枚渡した。
「取材ありがとうね。君たちのことはそう悪いようには記事にしないよ。さっき言った内村礼の名刺と、こっちは私の連絡先が掛かれた名刺、何かあったら私に是非連絡してみてね」
「……はい受け取っておきます」
「ふむ、それじゃあ解散!」
琴音沙月はそういうと駆け足で帰っていった。よほどいい記事のネタが出来たのであろう。俺の仮想領域での地獄が、信じられもしないようなオカルト記事のネタにされるというのは気分が悪いが、これでまたαの奴に近づけた。
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