第22話 麗美を助ける

 俺のレベル100スキルには相手の能力を破壊するブレイクスキルがある。発動条件は敵に触れた状態を10秒続けること、実用性のなさから使ったことはない。


 麗美の能力はおそらく今の高揚状態にも関係しているはず。今の麗美は能力に飲まれて、少しの本性が肥大化した存在であるのだろう。ならばこのスキルを使うのみ。


 俺は麗美の影を全てかわして、体に触れた。


「なあに? 春樹君、私の体に興味があったの? 最初から言ってくれればよかったのに」


「そう思っておけばいいだろ麗美、俺は今からお前を助ける」


「何を、意味わからないことを……うっ」


「どうだ、俺のブレイクは、あと数秒でお前の能力は破壊される」


「この放せえええええええ!」


「うわっ」


 麗美の影が広範囲に展開されて俺を襲い直撃した。


「ちょっと、嘘でしょ」


「春樹! 嘘って言ってよね。麗美の奴も倒れてる……2人は相打ち? そんなことが」


「うっ」


「嘘でしょ?」


「はあ、はあ、はあ、春樹君は私の物になっちゃいましたああああ!」


「いやあああああああ」


「叫んだって無駄よ。私の影をじかに食らったものはHPがゼロになるもの。できれば加減して私のコレクションの一人にしたかったけど、ちょっとあの状況で加減は無理ね」


「……」


「いい絶望の表情ね夏菜ちゃん、あなたも春樹君の元に送ってあげる」


「ズ ズ ズ ズ バシャアアアアアアアア」


「な、なんですって」


「どういうこと? 麗美の影がはじけ飛んだ?」


「わ、私の能力が……うっぐはっ」


「吐血? そうか麗美の強さは能力だけだった」


「な、何見てるのよ夏菜ちゃん」


「よくも優戸と春樹をやってくれたわね」


「は、やめてよ、近づかないで」


「許さないわよ麗美」


「いやああああああ」


「ま、待ってくれ夏菜」


「春樹! よかった意識があったのね」


「あ、ああ、かろうじてな」


 レベル100スキル「HP保持」、これはHPが0になる時1だけ残すことが出来る。


「も、もうずるいわよ春樹君、そのレベル100スキルって何でもあり?」


「そういうこと! もう自分を悪者にする演技はいいんじゃないか?」


「演技? 一体何を言って、うっ」


 麗美は頭を抱えて下を向いた。



「ちょっと、麗美のやつどうしちゃったの? いきなり黙りこんで」


「そろそろ付き物は落ちたか?」


「うん、なんだか、私今まで何やってたんだろうね」


「これは、どういうことなの春樹?」


「麗美は捕食者のスキルに人格を飲まれていたんだ。スキルを破壊した今の麗美は本来の人格というわけ」


「な、なによ、だからってまだ私は麗美を許さないわよ」


「……」


 俺はもうゲームの空間に消える人を見たくない。だから麗美に消えて欲しくない。しかし夏菜の同意を強要することもしたくない。


「それはそうだよ。私はもう自分のしたことの罪を償うつもりよ。私を終わらせるのは夏菜ちゃんだと嬉しいな!」


「な、なによ。本当に普通の人格になってるじゃない。これじゃあ私にはなにも」


「麗美、いつからだよ。そのスキルを持ったのは」


「中学卒業してからだよ。私は本当に春樹君のことが大好きだったんだ。でも連絡が途絶えて凄いショックだった。学校では普通を装ったけど、家ではいっぱい泣いたんだ。私は春樹君と並べる人物じゃなかったんだって」


「ご、ごめん」


「いいよ、今更過ぎたことだし、そんな私はαと出会ったんだ。αが言うにはね、私には春樹君に並べる存在になれる潜在能力があるだって。また春樹君と仲良くなりたいと思った私はαの提案を受け入れたわ」


「やっぱり元凶はそいつだったか」


「うん、それでこの仮想領域のトリガーにされちゃった」


「じゃあ、あの人格は嘘だったってことね」


「うん? 別にそういうわけじゃないよ。あれが私の本質、私ね実は中学時代の春樹君のことが大っ嫌いだった」


「は? 何だよいきなり」


「だって春樹君だけ中々私のこと好きにならないんだもん」


「いやなったじゃん」


「全然鈍い鈍い、もっと依存するぐらいアプローチ掛けたのよ。それが浅いから私凄い気分が悪かった、正直ムカついちゃった」


「はあ、知らねえよ」


「アハハハハ、それが春樹の本質よ麗美。私も中学のアンタのこと嫌いだったもの。誰しもが自分を好きでいるのが当たり前みたいな表情が鼻についたわ。でもそんなアンタを軽くいなす春樹はとっても魅力的だった」


「おい夏菜笑うなよ」


「ふふふ、流石に私も自分でも驚いてるわ。あんなに積極的に祭りやショッピング、ゲームセンターまでありとあらゆる手で春樹君の心をつかもうとしたんだもん。やけにならなきゃできないわ」


「確かに、それもそうだな」


「はあ、ごめん、なんか中学ぶりのもやもやが解消された感じになった」


「俺も同じ」


「私は麗美と春樹の中学時代の話が振り返れて、そこそこ楽しめたわ」


「じゃあ、帰るか」


「いや私は無理だわ」


「え?」


「ごめんね春樹君、私はここで終わりみたい」

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