第21話 中学時代の思い出
俺は中学時代あまりうまく人間関係を構築出来ていなかった。いわゆるコミュ障だったので、そんな俺に初めて話しかけてくれたのは麗美だった。
麗美はクラスの人気者だった。誰からも好かれているのだ。とはいえ俺もクラスのみんなから嫌われていたわけではなかった。友達とまではいかないだけで、クラスメイトとしては認知されている、それくらいの存在だったのだ。特に俺のクラスは平和だった。
ただ退屈ではあった。そんな俺の退屈を麗美は忘れさせてくれた。最初は鬱々しく、そっけない対応をしていたと思う。
そんな対応をしても毎日麗美は俺に明るく話しかけてくれたのだ。
「春樹君! 今日は放課後どこに行く?」
「また、君か、今日は一人で帰るから気を遣わないでよ。他にもいっぱいいるでしょ?」
「私は春樹君と一緒に帰りたいんだよ!」
「……わかったよ。じゃあ一緒に帰るか」
俺は何回断っても、誘いをいれてくる麗美の提案に乗ってみることにした。
初めての麗美との下校は不思議な感覚だった。
近所のショッピングモールや、ゲームセンターでの遊びは、今まで感じていた退屈とは程遠いものだった。
次第に俺は麗美につられるようにクラスメイトとも仲が良くなっていったのだった。夏菜のことを知ったのもこの時であった。
「あーあ、今日も楽しかったね! 春樹君!」
「ああ、こんな日がずっと続けばいいのにな」
近場の夏まつりに、俺は麗美と一緒に訪れて花火を丘の上にて、2人で見ていた。
「続くよ、きっと」
「ありがとう」
あの退屈が再び来るという不安は、麗美が手を握って言葉を掛けてくれたことで消え去ったのだった。
「嘘だろ……」
しかしついに高校進学の時が来た。俺は麗美とは違う高校に成績の問題で進学することになるのだった。
「ぶるるるる」
「麗美……」
麗美から電話が来た。しかし俺はそれを全て無視した。
それから学校も行かずに、卒業式を終えた。
この世の中は期待するだけ無駄である。麗美のことはもう忘れよう。持たざる者と持つ者の世界は違う。俺には身の丈にあった場所があるし、麗美のことはもう嫌いだ。劣等感を感じてしまうから心を平穏に保てない。
不合格を境に俺は麗美のことが嫌いになり、連絡も無視していたら自然と疎遠になっていった。
そんな心意気からか、高校では友都という友人を作ることができた。高校の偏差値帯は同じであるという意識から、自分の中の他人へのフィルターが取れていたのだと思う。更にゲーム部や里音先輩といった仲間が今は出来たのである。それに今は夏菜も。
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「可愛かったなコミュ障の春樹君。今ではすっかりお仲間達に恵まれちゃって。しまいには夏菜もなついてるし、随分生意気になったじゃないの」
「ふう、結果的には俺のこの立ち回りは正解だったってことだな麗美! 中学の俺はまんまとお前の術中にハマっていたということか」
「術中? 私は本心でいつも動いているのよ!」
「麗美の本心がたくさんの人を傷つけてるんだよ!」
「ふーん、だから何? 他人の心なんて知らない私が満足出来ればいいの! だから春樹君も私の物になりなさい!」
麗美は再び影を伸ばし、今度は立体的に顕現させた。
「俺たち随分似た者同士だよな麗美、お互い自分のことしか考えてないし、正直クズだと思うよ」
俺は影を躱わしながら、麗美に話しかける。
「確かに私と春樹君は似てるかも。似てるから中学時代あんなに仲良くできたんだよお。でもクズっていうのはどういうことかな?」
「いや、似てるっていうのは、昔の俺の話ね。今の俺は麗美とは違うよ。仲間の思いを背負ってる」
仮想空間で消えてった同級生、記憶があるのは俺と里音先輩だけだ。だからこの記憶が消えないように、仮想空間を作り出すウイルスプログラムは絶やさないといけない。もう自分だけの問題ではないのである。
「仲間? くだらない。全ては私を満足させるための駒に過ぎないわ。今最も私を満足できるのは春樹君だけ、だから大人しくつかまりなさい!」
「麗美、お前はいったい過去に何があったんだ? どうしたらそんなに性格が歪んでしまうんだよ」
「余計な詮索はしないで、ただ春樹君は私のコレクションの一部になればいい」
「分かったよ。もう遠慮はなしだからいってやる。このクズが! 今から同じクズだったものとして俺がお前を導いてやる!」
「誰がクズだ! 私は誰からも愛される麗美ちゃん、この仮想空間では王たる存在。そんな私に向かってクズってどういうこと? 春樹君?」
「御託はいいからかかって来いよ!」
「言われなくてもそうしてるわ!」
麗美は影を増量して攻撃してきた。
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