第20話 麗美の本性
王座には麗美が普段と何も変わらない様子で座っていたのである。
「麗美? なんだよっびっくりさせやがって、全然普通じゃねえか。てっきり洗脳とか異形の姿とかになってるんじゃってびっくりしたよ」
「えええ? 何言ってるの春樹君、冗談がうまいって」
「……」
「どうした、夏菜、麗美は別に普通だぞ」
「春樹、そいつから離れなさい」
「どういうこと?」
「ひっどーい! 春樹君との楽しい会話を夏菜ちゃんは邪魔するの?」
「いつまで猫被ってるのよこの泥棒猫! 私は中学の体育館であんたに襲われたのをおぼえているのよ」
そうだ……麗美は夏菜を襲ったと証言していた。しかしいまだに俺は普通の夏菜しか見たことがない。何も信じることができない。
「うん? 何のことかな? それより、春樹君! いっしょにお茶しようよ。こっちにいっぱいおいしいもの用意したのよ」
「お、おう」
「春樹! しっかりしなさい」
「はっ」
俺は、知らぬ間に麗美のペースに取り込まれていた。
「どうしたの? 春樹君? 一緒に行こうよ?」
麗美は俺に手を差し伸べてきた。
「ごめん麗美、俺には約束があるんだ」
「バッ」
俺は麗美の手を払いのけた。
「なにこれ、酷いよ春樹君」
「智蔵、安雪、優戸、夏菜、そしてαの言ってたトリガー。これだけの証言が揃えば、俺は麗美、お前を信じることはできないよ」
「うん? いったい? なんの話?」
「とぼけるなよ! この空間が何よりも証拠だろうが! お前は一体何を考えてるんだよ麗美!」
「……」
俺の怒鳴り声が魔王城最深部の広い部屋中に響き渡る。
「くっふふふふふふふ」
「え?」
次の瞬間、麗美は俺が今までで聞いたこともない声で笑い出した。
「春樹君、その3人だけじゃないよ」
「は?」
「男っていうのはね? 全部この可愛い麗美ちゃんの下僕でコレクションなの? だからね、この魔王城は私の城で、あなたも私の物になるべきなのよ」
「何を言ってるんだ?」
「つまりこういうこと」
「パチッ」
麗美が指を鳴らすと、男子生徒たちが後ろの扉から沢山出てきた。
「君主様のために」
「きゃあああああああああ!」
「夏菜、お前は下がってろ!」
「あはははははは! みんな、あの女を倒した後、春樹君を私の元へ送りなさい!」
「御意」
大群になって生徒たちが押し寄せてくる。
「これがお前の答えなんだな麗美」
「うん?」
「すまない、お前らは何も悪いことはしていない。くらえ! レベル100スキルの衝撃波!」
「うわああああああ」
生徒の大群は一斉にHPが付き消えていった。
「ひっどーい春樹君、そんなにひとでなしだなんて」
「分かってたくせによく言うよ」
「ふひひ、正解、あんな使い捨ての駒に期待なんかしてなかった」
「麗美お前どこまで……」
俺はもう麗美の豹変ぶりに、ただ驚くしかなかった。
「すごいねえ春樹君? レベル100スキルって強すぎじゃないの、でもね、私のレベルはもっとすごいのよ! ステータスオープン!」
ステータスの開示? 何考えてやがる麗美の奴。
「レベル0?」
麗美はゲームをしてないからレベル1のはずだ。それが0はおかしい。
「ふふふふふ、私はコードネーム「捕食者」のレベル0を持ちし者。この仮想領域はね、私の捕食のためにαが持ちだしてくれたのよ」
「どういうことだよ」
「さあ春樹君! 大人しく私のものになりなさい!」
麗美は影を伸ばしてこちらに攻撃をしてきた。
「なんだこれ!」
影は触れた物体全てを飲み込んでいく。
「この影に触れた人はレベル関係なくHPがゼロになるのよ。凄い能力でしょ? 代償に私はレベルが0になった」
「HPが0って、こんなん触れたら一発アウトな奴じゃないか!」
ひとまず触れないように回避に徹した。
「どこに逃げても無駄だよ春樹君」
「くそっ」
影は方向を変えてもこちらを追尾してくる。
「レベル100スキル加速」
俺は加速スキルで麗美に急接近した。
「ふふふ、やっと私のものになってくれるの?」
接近した俺に麗美は狂気の笑みを浮かべた。
「正直、俺は麗美のことが嫌いだ! これでもくらえ!」
「ズドーン」
俺は麗美の至近距離で衝撃波スキルを放って吹っ飛ばした。
「ふう、そういうことだ麗美、大人しくこの仮想領域を解いてもらうよ」
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、酷いよ春樹君、女の子にこんなことするなんて」
麗美は吹っ飛ばされて煙塵が舞う中で、静かに立ち上がった。
「悪いな、俺は敵に容赦はしない」
麗美のステータスはレベル0というだけあり、初心者と同じ程度だ。この一撃は致命的といえるだろう。
「私が敵ね、いつもそうよね、春樹君は、中学の時も私からアプローチを仕掛けてあげたのに、さりげなく拒もうとする」
「懐かしいな中学か」
麗美は俺の中学時代の元カノに近い存在であろう。同じ高校に通うことになれば絶対今頃付き合っていたからだ。
「そうよ、私はクラスみんなからの人気者だったの。私が声を掛ければ男女問わずみんな笑顔で友達になってくれたわ。でも春樹君はちょっと難しかったね。そこが好きだったんだけど」
「それはどうも」
俺は戦いの最中中学時代のことを思い出した。
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