第15話 綺麗な物には毒がある

 あの様子明らかに夏菜が大変な目に合っている。何とかしないと。


「ごめんさい里音先輩」


 俺は寝ている里音先輩を起こさずに一人外に出ていった。


 って、いってもどこに行けばいいんだ。夏菜と麗美があうところといえば喫茶店か? いやこんな時間にはやってないだろ? まず絶対夏菜の彼氏関係が絡んでいるんだが。


「あれ? これ詰んでね?」


 勢いよく出ていったものの、いま自分の身に置かれている状況は手がかりがなく何もできないということに気づいた。


「まて、落ちつけ、麗美と夏菜の共通点を探し出すんだ」


 俺は脳をフル回転させて2人の情報を照合していった。


「中学!」


 2人は中学の同級生だ。こんな夜に合ったくらいだから夏菜が元カレについて問いただしたはずだ。集合場所は間違いなく中学に違いない!


「今行くぞ夏菜!」


 俺は自分も通っていた中学校を目指し真夜中の道路を走っていった。


「はあ、はあ、はあ。ダメだったか」


 中学校を見渡しても特に人の気配はなかった。


「とんだ骨折り損だぜ」


 確か夏菜の元カレのバーがあるとか言っていたが、そんなものは分かるわけがない。ここからどうすればいいんだ?


「ガシャ」


「うん?」


 体育館の方で音がしたのに俺は気づいた。


「夏菜!」


 俺は一目散に体育館に向かった。


「はあ、はあ、はあ、うっ」


「夏菜! よかったどうしたんだこんなところで」


 体育館の入り口では、ふらふらになりながらかろうじて立っている夏菜がいた。


「うっ、は、る、き」


「しっかりしろ! 夏菜! 熱っ」


 夏菜は凄い熱だった。虚ろな目で俺が来たことに気づくと、体をこちらによりかけて倒れてしまった。


「おい! どうしちまったんだよいったい? きゅ、救急車を呼ぶしかない」


 俺は真っ先に夏菜の容態をよくするために救急車を呼んだ。


「は、る、き、助けてくれてありがとう」


「夏菜ああああああ!」


 夏菜の意識はその言葉を境に途絶えた。


「どうしてこんなことに」


 何も見えない中学で夏菜を抱えて一人たたずむ。


 今の俺にはひたすら救急車を待つしかなかった。


「なあ、夏菜、俺実はお前のこと中学の頃から結構好きだったんだぜ」


「……」


 彼女は今意識を失っている。今の俺が何を話しても意味ないであろう。


「お前のお嬢様気質なところが凄い好きだった。でもあの時俺には麗美がいたから、お前とそんなに向き合うことが出来なかった」


「……」


「今は里音先輩が俺にはいるけど、でも夏菜が俺に連絡先を教えてくれて凄いうれしかったんだぜ? 目の前の日常が輝いていたっていうかさ、俺やっぱりお前のこと好きみたい」


「……」


「なんで、こんなことになっちまったんだよ」


 俺は夏菜が遠くへ行ってしまいそうに思えて、泣きそうになった。


「キュイイイイイイ」


 ランプの鳴る音がする。そろそろ救急車が来る頃か?もうよんでから20分が経過した気がする。


 赤いランプが見えた瞬間俺は、やっと安心感を味わうことが出来たのだ。


「君たち大丈夫か?」


「こちらの子の意識がないんです」


「分かった」


「私は警察だ。ちょっと君には事情聴取の時間を取らせてもらうよ」


「はい」


 俺は自分の周りに起きたことを警察に話した。


「ふむ、なるほど、つまり駆け付けた時には彼女の意識はなかったと」


「はい」


「この件はこれからこちらで調べさせてもらうよ。事情聴取はこれで終わりだ」


「分かりました」


 俺は夏菜に同行することもできずに、一人帰り道を歩くことになった。







「はあ、こんな虚無なことがあるのかよ」


 里音先輩の家が見えると、家の前で誰かが立っていることに気づいた。


「どうして外に立ってたんですか」


「あなたを待ってたのよ。事情は警察の人から聞いたわ。夏菜さんが意識不明だったんですってね」


「ああ」


 多くを語ることはできなかった。


「すいません今日はもう寝ます」


「いいわよ。ただし条件があるわ」


「条件?」


「今夜は私と一緒に寝なさい」


「え?」


 それ以上は何も言葉を発することはなかった。


「いいのよ、すべて吐き出して」


「く、なんでこんなことに……」


 最近色んなことがありすぎだ。もう精神はもう持たない。


 そして俺はみっともなく里音先輩の前で泣いたのだった。

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