第14話 笑顔の裏

「え? ひっどーい! なんでそのタイミングで春樹君にお礼をいうのよ」


 あれ? なんか夏菜、この場で怒るんじゃないよな。セーブしないと。


「ひえっ」


 俺は夏菜のお腹をつついて、冷静になるようサインを送った。


「うん、どうしたの夏菜ちゃん」


「え? いや何でもないわよ。勿論麗美にも感謝してるわ」


「ありがとう! 憧れの存在に感謝されるんなんて光栄すぎるわ」


「じゃ、じゃあ、まずは連絡先でも交換しない?」


 早速連絡先聞くんかよ。いきなりすぎる気がするのだが麗美の反応は……。


「……」


 麗美はスマホを出す夏菜の手を見て。一瞬だけ沈黙をした。なんだか初めて見る雰囲気のような。


「だ、ダメかな」


 麗美の沈黙に流石の夏菜もかなり慌てているようだ。彼女らしからぬ弱気な発言である。


「嘘おおおおお! 夏菜ちゃんが私に連絡先交換を求めてきてくれたわ! これは春樹君のおかげかしら? 本当にありがとう!」


「お、おお」


「ほう」


 麗美はかなり嬉しそうな様子だった。夏菜もかなり安堵の表情である。


「ふう、私はそろそろ帰るわ」


 里音先輩は俺に事情を理解した視線を送ってくれた。


 流石に呑み込みの早さが天才的である。


「え? 里音さん帰っちゃうの?」


「門限が迫ってきたのよ」


「門限は大事だよね~私も帰ろうかな」


「おう、2人は帰っちゃうのか……まだちょっとここにいたい気分だな」


「じゃ、じゃあ私も」


「うん、春樹君も夏菜ちゃんもまたねー!」


  2人は喫茶店から出ていった。


「里音さんは帰りどっち?」


「こっちかしらね」


「ああ、真逆だね。じゃあ里音ちゃんもまたね」


「ええ、また会いましょう」


 ふう、無事里音先輩と麗美も帰れるようである。窓越しに里音先輩は俺を応援するような目で見て後は任せたというように手を振っていた。


「どこからどこまで完璧な人だな本当」


「え? 何が?」


「うわっ、いきなり元気になりすぎだろ?」


「だから言ったでしょ、私麗美を前にすると委縮しちゃってコミュニケーションが全然取れないのよ。だから助かったわ」


「はあ、俺も一時はどうなるかと思ったよ」


「これで連絡先を手に入れたわ。私の目的は達成したようなものよ」


「連絡先を手に入れてどうするんだ」


「麗美の男癖の悪さの真相をつかむのよ。現場で彼氏と麗美の同時に電話を入れてやるんだから」


「確かにそれなら、麗美も言い訳できないよな。でもあの麗美がそんなことしないと思うけどな」


「お客様、注文のデザートです」


「うおおお、おいしそうなケーキ」


「私からのお礼よ春樹! 今日はありがと!」


「うん! こっちからもありがとう夏菜!」


 俺は夏菜からもらったケーキを味わい、過去一の味だと感じたのだった。






「ふう、今日はいい一日だったな」


「ずいぶんとご満悦そうじゃない?」


「げ、里音先輩」


 夏菜と別れて帰宅すると里音先輩が現れた。


「私に何か言うことがあるんじゃない?」


「いや本当に里音先輩流石。何から何まで完璧な配慮でした」


「はあ、いったい夏菜って子は何者なのよ」


「俺の中学の同級生なんですよ。それで麗美に彼氏を取られそうになったから仕返しで痛い目見せてやるんだって言われて、俺も協力することになったというか」


「はあ、なんであなたが協力することになるのよ。麗美さんはあなたの元カノに近い存在でしょ?」


「俺は麗美がエリート校に行ってからそんなに好きじゃないっていうか。別にあいつがどうなってもいいって感じです。むしろ困っている女の子を放っておけない」


「ずいぶんなお人好しなことね。しかし麗美さんが夏菜って子の彼氏を奪ったって結構信憑性がある情報ね」


「え? 麗美に関してそれはないですって」


「ふっ、あなた、本当にそれ思ってるのかしら。さぞかし夏菜って子はそういうタイプが好みなのかしらね」


「うん? どういうこと?」


「まあ、いいわ帰ってから話しましょうか」


 里音先輩の家に帰宅した。






「麗美さんはいつも男の子と歩いてなかった?」


「確かに最初は智蔵って奴と一緒にいたな。その後は安雪って奴と一緒にいた」


「どうしてこう短時間に同じ男と一緒に帰宅しているの? 相当な男好きなんじゃないかしら麗美さんって」


「いやでも俺が中学の時はそんなことなかったような」


「本当にそうかしら? まあ中学の頃を私は知りはしないけど、癖というのはそう簡単に治るものじゃないわ。きっと麗美さんは中学の頃から色んな男と付き合っていたはずよ」


「え? マジで。それはちょっと許せないかも。そう考えると夏菜も怒るわけですね」


「私も少し麗美さんと間近で話してみて、彼女について分かったことがあるわ」


「何が分かったんですか?」


「彼女はどこか本心を包み隠している振舞をするのよ。あの明るさのうちに秘めた性格、私はそれが気になったわね」


「にわかに信じがたいような気がしますね」


「まあ、引き続き麗美さんについては調査を進めましょう。αについて更に情報があつまるかもだし」


「そうかαか……そっちもやらなきゃですね」









「うん? もうこんな時間か」


 気づけば夜になって途中で起きてしまった。


「いやあ、こんなに早く起きてしまったら、明日が大変だよ」


「ブルルル」


 うん? 電話、夏菜から? どうしてこんな時間に。


「もしもし?」


「春樹! 助けて麗美が……いやあああああ」


「おい夏菜どうした!」


「――――」

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