第13話 気まずい空間


「それで、俺が通訳係ってどんな作戦なんだ?」

 

「私感情的なタイプだからうまく冷静に麗美の奴と会話できるように誘導してほしいの。先ずは連絡先交換まで誘導してほしいわ」

 

「いや、そんな俺がいなくてもできるだろ」

 

「無理だわ。絶対その場で怒っちゃうもの」

 

「はあ、分かった。それでどう俺は夏菜の感情を抑えればいいんだ」

 

「ここをつつきなさい」

 

「は?」

 

 夏菜は自分の横腹を俺につつくようジェスチャーしてきた。

 

「麗美の奴をこの喫茶店に誘導するのよ。春樹が私のとなり、それでこの状況ができるわ」

 

「言いたいことは分かったけど、いいのかよ。その触って」

 

「……おっ! そうこういってたら早速獲物が来た来た! 行くわよ春樹」

 

「え? ちょっと、ま? 答えをまだ聞いて……」

 

 答えを聞く隙もなく、俺は夏菜に手を引っ張られて喫茶店を出ることになった。

 

「ああ、なるほど!」

 

 外にでると校門から麗美が出てきたということに気づき、一瞬で状況を理解したのだった。

 

 いや、その後すぐに、状況が混沌としてることに気づき、頭が真っ白になった。

 

「これは、どういうことよ春樹」

 

 そういえば里音先輩は麗美の調査をしてたんだった……しかしまさか学校内に入り既に本人と接触済みだとわ。

 

「へ?  なんで里音先輩が麗美と一緒に?」

 

 どう考えても混沌としているこの状況に一石を投じたのは麗美だった。

 

「春樹君と夏菜ちゃんじゃないの! どうしたの急に焦った表情でこっちに来て」

 

「え? 俺は別に」

 

 次の瞬間俺は里音先輩に手をつかまれて連れ出された。

 

「ちょっ、何するんですか急に」

 

「これはどういうことよ。あなたこの学校に来るのが嫌だから家にいたんじゃないの?」

 

「いや、俺もこんなところに来るつもりはなかったんですよ? でも夏菜にはめられたんだ」

 

「夏菜?」

 

「ちょっと春樹! 私を麗美と2人にするなんてどういうつもり?  恥をかかせたいの?」

 

「春樹は今私と話しているの。引っ張らないで」

 

「いった」

 

 俺は夏菜と里音先輩の2人に引っ張られて体が避けそうになった。

 

「ちょっとちょっと! 春樹君が痛がってるじゃない! ひとまず場所を移しましょう!」

 

 麗美のおかげで俺は一命をとりとめた。




 

「はあ、いったいどうしてこんなことに」

 

 俺たちは偶然隣の喫茶店にて4人で話すことになった。席の配置は夏菜と俺が隣、向かい側が里音先輩と麗美でまさに理想通りの展開である、が、どう考えても気まずすぎる。

 

 みんなが目を鋭くする中で、麗美だけが普段通りに微笑んでいた。

 

「まずは私と里音さんの関係から紹介するね! 私は学校で文芸部に所属しているの。文芸部では外部生の文芸部の子と交流することが多いんだわ。そして今日私の部室に外部生として里音さんがやってきたの。すっごく文芸部の活動に理解があって直ぐに打ち解けられたわ」

 

「麗美さんこそ文芸部に対する理解が深くて、こんなに会話の機会を設けてもらえて光栄だわ」

 

「いえいえ、私は里音さんのことを一目見た時から憧れていわ。気性の荒い安雪をあんな簡単に抑えてくれたんだもの。里音さんの可憐な雰囲気がなかったら出来てなかったわ。それに文芸部にも理解がある。もう私は虜になっちゃった!」

 

 そういうと麗美は里音先輩の手を強く握りしめた。

 

「ちょっとやめて頂戴よ恥ずかしい」

 

「2人はまさかそんなに仲良くなっていたとはね。俺は驚きだよ」

 

「春樹君のことも一緒に話していたのよ。そそっかしいところとか、いざというときに頼りになるところとか」

 

「ちょっと、麗美さん、それは言わない約束だったでしょ」

 

「ごめんなさい」

 

「え? 里音先輩が俺のことを褒めてくれていたのか!」

 

「別に褒めたというわけじゃなくて、ただ会話のはずみでそういっちゃっただけなのよ」

 

「きゃあああ! 里音さんのその反応凄い眩しい!」

 

「ちょっと……」

 

「ハハハハハ……」

 

 この2人は本当に仲よさそうだな。しかし弾む会話の中で夏菜は沈黙して表情が優れていなかった。

 

「それでどうして春樹君と夏菜ちゃんは私を訪ねてきたの」

 

「いや俺は別に……っ」

 

 夏菜に腕をつねられた。

 

「いやさ、麗美って夏菜のこと、中学時代から憧れてたっていってたよなあって。偶然夏菜に出会ったから麗美に合わせたくなったんだよ」

 

「へえ、春樹君が私のことをそんなに気にかけてくれるんなんて久しぶりね。いっつも怒ってる感じがしたから、すごく嬉しいかも」

 

「あ、アハハハ! 気分次第でそんなこともあるさ」

 

「ふん」

 

 里音先輩は俺の芝居を察したのか、あきれた様子で静観していた。

 

「そうそう、夏菜に久しぶりに会えてよかった! 私中学時代からずっと憧れてたんだから」

 

 次の瞬間麗美は夏菜の手を目を輝かせながらとった。

 

「ひ、久しぶりだわね麗美。先ずはありがとうと言っておくわ」

 

「ふふふ、どういたしまして」

 

「いや、私がお礼を言ったのは春樹に対してよ」

 

 何言ってんだ夏菜。先行きが不安すぎるんだが……

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