第11話 非日常の消えない記憶


「日常に戻ったね……こんなんで日常に戻った気になれるわけねえじゃん! いや無理、なんで俺だけ記憶が引き継がれてんの?」


 俺はいつもの帰宅道で一人そう考えを巡らせていた。


「はあ、もうヤンキーどもも現れないとなると、結構退屈だな。あいつらも今の俺にとっては退屈な日常のスパイスになってたのだと思うよ」


 何もない日常ほど、つまらないものはないということだ。


「春樹!」


 すると後ろから女子生徒が話しかけてきた。


「里音先輩! うん? 夏菜じゃん!」


「久しぶりだわね!」


 夏菜はお嬢様気質の、中学時代の同級生だ。麗美とも同じクラスだったけど、天性の人気者の彼女にお嬢様気質の夏菜はよく嫉妬をしていたようである。


「どうしたんだ、こんなところにあらわれて」


「今日はアンタに聞きたいことがあってきたのよ。麗美ってどこの学校に通ってるのかしら? あんた仲良かったでしょ麗美と」


「あ、あああ、そうだけど? どうしてそんなことを聞くの?」


「麗美の奴が私の彼氏に手を出したのよ! もう許せないんだから!」


「え? 麗美が? ないない、なんかの間違いだろ?」


「ふん鈍い男ね、まあアンタのそういうところは嫌いじゃないわ。だから教えなさいよ麗美の通ってる高校」


「麗美に何するつもりなんだよ」


「決まってるでしょ! 事情を問いただすのよ!」


「ああ、そう、まあ俺はあんまりあの学校に近寄りたくないから学校名だけいうよ」


 エリート校は超嫌いなんでな。近寄りたくもない。ということで学校名だけ教えた。正直麗美の奴が困るのは面白そうではある。


「礼を言っておくわ! ついでに私の連絡先あげる」


「え?  夏菜の連絡先くれんの? ありがとう」


 正直俺は夏菜みたいなお嬢様タイプは結構好みだった。


「アンタのこと実は中学の頃から結構高く評価してたのよ! あの麗美の奴を扱いなれてたのは私の見立てではアンタだけだわ」


「はあ? 確かに元カレみたいなものだけど、みんな麗美とは仲良かっただろ?」


「もうー鈍いんだから! まあいいわ、何かあったら連絡してちょうだい」


「了解! 今度一緒に買い物いかない?」


「悪い相談じゃないわね! ことが片付いたらいくわよ。バイバーイ」


「ふう、いっちゃったか」


 まさか夏菜が俺に話かけてくるなんてな。なんかデートに誘ったみたいになってるけど、そういえばそんな時間俺にはなかった。


「じゃあ行くか」


 俺は里音先輩の家を訪れた。


「きたわね、あがってちょうだい」


「はい」


 ここはα確保作戦会議室である。里音先輩はあの後ゲーム部をやめてα確保に注力すると言っていた。俺はやめてはいないが、正直ゲーム部に熱を避けるほど、余裕はなくほぼ幽霊部員である。まあみんなとは全てが終わった後にまた一緒に遊びたい。


「αの奴はあの後動きを見せていないわ」


「本当に形跡を残しませんね」


「流石ナノのボスといったところね。どうせまたどこかで悪さをするんでしょうけど」


「それよりウイルスプログラムが許せませんよ。僕だけなんですよ、こんな記憶が残ってるの」


「私もそうだけど」


「里音先輩はギルドの特別枠じゃないですか。なんで一般人の俺がこんな特別枠みたくなってるんですかね」


「まあ、大きいのはαと干渉しすぎたからかしらね」


「ああ、なるほど」


 確かに俺と里音先輩の共通点はαと対峙したことである。そう考えるのが妥当であろう。


「春樹の気持ちは凄い分かるわ。記憶が残るって凄く辛い、だからウイルスプログラムを撲滅するっていう私の気持ちも分かるでしょ?」


「痛いほど分かりますよ! こんな記憶があったら日常に戻れませんもん!」


「ふふ」


 なんだか、最近里音先輩が俺にとても柔らかい表情を見せてくれている。しかもさっきちょっと今まで見た中で最高の笑顔を見せてくれたような気がする。


「春樹、どうせあなた今夜も一人部屋でゲームするんでしょ」


「げ、何で知ってるの」


「最初のゲームであなたの部屋に忍び込んでたの気づかなかったの?」


「考えてみればあの場で空間にいたのはおかしいもんな」


「別にいいのよ。今夜は私の家に泊まっていなさい」


「ええええ?  里音先輩の親は許すの?」


「許すも何もあなたと同じ私の親も全国転勤でいないのよ」


「俺と同じじゃないですか!」


 まさか今夜里音先輩の家で一夜を過ごすことになった。


「はあ、眠れねえよ」


 女の子の家に泊まったことなんて初めてである。


 何度か中学時代に麗美に誘われたが、俺は柄じゃねえと断っていた。


 あの時はゲーム三昧の中二病思考だった、そんなものは流石に高校生になって切れた。


 流石に一人は寂しいのである。


「グスッ」


「うん、寝言? 里音先輩が寝言? 嘘……」


「なんで、行っちゃうのよ由愛、私はあなたのことが好きだったのに」


 その夜俺は寝言で泣いている里音先輩を見たのだった。










「何見てんのよ」


「いや、別に何も」


「そう、そしたら学校に行きましょうか」


「そうですね」

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