第10話 ゲーム脱出後の歪んだ世界

「で、出れた!」


「はあ、はあ、はあ、やっとひと段落ね」


「ふふふふ、僕はここら辺でお暇させて……ぶっ」


 なんとαは高校生だった。中世的な顔立ちでかなりのイケメンである。そんなことは別として真っ先に拳をいれて吹っ飛ばした。


「ってえええええ、馬鹿がここは現実世界だぞ! そんな拳痛くもかゆくもないわ」


「お前ここから本気で逃げられると思ってんのか?」


「はあ? それ挑発してんの?」


「春樹の言う通りよ、ここは現実世界だけどあなたは仮想領域をどうせつけるのよね? そしたらまた受けて立つわ。その場合次の相手は春樹になるでしょうけどね」


「ふーん、面白いね」


 αを怪しげな笑みを浮かべて俺を見つめてきた。


「今回はもういいかな? 帰らせてもらうよ」


「させるか、何?」


 αをもう一度殴ると、フリーズしたかのようなノイズが体を覆いすり抜けた。


「言ったでしょ?  僕はαを信じてる。信じてるとこういうことが起きる。現実世界を超越した存在に僕はなったんだよ」


「嘘でしょ?  仮想領域を使わないで、この現象を起こしてるの?」


「そうだよβ、君のような思想の持主には到底理解しえない境地だろう」


「くっ」


「あ、そうだ春樹君って言ったっけ?」


「トリガーっていわねえのかよ」


「まあここは現実だからね、こっちにはこっちのコミュニケーションってものがあるだろ? 現実記憶が切り替わるっていうかね、主を心酔しきっちゃう後遺症なんだろうね。ちなみに僕の名前は内村礼、それで思い出したんだけど、麗美ちゃんっていったっけ?」


「は? なんでお前が麗美を知ってるんだ?」


「麗美ちゃんは凄い子だよ。僕は大好きかもじゃあね」


「させない」


 次の瞬間里音先輩が仮想領域を創り出そうとした。


「いない!」


「間に合わなかった」


 一瞬でαは消えていた。


「こんなにはやいだなんて驚きね」


「そうなんですか?」


「何その言い方、あなたも捕まえられなかったでしょ」


「まあ、それを言われたらおしまいですよ」


「しかしこれで無事学校に戻って来れましたね」


「そうね、やっとひと段落出来る」


「本当になんでこんなことが起きちゃったんですかね」


「今ならαの言ってたことが分かるかも。プログラムウイルスが主、今回の騒動はプログラムが自律的に起こしたのかもしれないわ」


「プログラムが自律的? 確かαが言ってましたね。プログラムが主って。里音先輩はその反対の思想なんですよね」


「あたりまえでしょ、私はウイルスプログラムをこの能力を磨いて撲滅しなくちゃいけないの」


「相反する考えを理解するって凄いですね」


「そうね、もうどうでもいいわ。それより、そろそろみんなの所へ戻りましょうか」


「そうですね」


 ゲームで負けたプレイヤーはゲーム世界で消える。これは矛盾なく現実世界でも保管される。俺たちゲーム部全員をはじめとして閉じ込められた生徒全員が無事であったことになっていた。


 しかし明らかにゲームの世界に消えた生徒もいるのである。それを覚えているのはなぜか俺と里音先輩だけだった。


「瑠美ちゃん、真紀ちゃんはどうしたの?」


「真紀ちゃん? 誰のことですか?」


「ねえ、道安君、彼女さんとは最近どう?」


「彼女?  俺にそんなんいるわけないじゃないですか! ちなみに里音ちゃん一筋です」


「え、え、そう……」


「友都! 猛将先輩から無事部室を奪還してやったぜ!」


「猛将先輩? 一体誰の事だよ」


 その後は外にいた先輩たちや大人たちも何事もなかったように普段通りになって、俺たちの日常は何事もないものに戻ったのである。


「おい春樹、ゲーム作ろうって話はどうなったんだよ」


「悪い、今ちょっとそんな気分じゃなくてさ」


「あ、そう、じゃあ瑠美ちゃんと道安先輩には俺から欠席って言っとくわ」


「お、よろしくな」

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