第9話 ルール書き換えの重複

「ぐはっ」

 

「黒服たちは大体倒すことが出来たわね」

 

「き、貴様ら、まさかそんなに強かったとは」

 

「猛将先輩、終わりですよ。あなた」

 

「貴様、β! 話が違うぞ。この件はボスに報告させてもらうからな」

 

「あなたにそんな時間が残されていると思う。死ぬのよあなたは」

 

「ちょっと、里音先輩それは言い過ぎですって」

 

「敵に情けなんていらないのよ。徹底的に追い詰めて、罪を追求する、そうじゃないと私の存在意義がない」

 

「や、やめろろおおおおお!」

 

 次の瞬間、里音先輩は猛将先輩に高速で接近して頭をつかんで壁にめり込ませた。

 

「く、くそが、せめて爪痕を残してやる」

 

「うわっ」

 

 猛将先輩がかろうじて指でスキルを発動すると、俺の足元から剣が出現して、こちらへ刃を向けてきた。

 

「まあ、問題ないでしょ」

 

「な、何いいい? 触れずに剣を破壊しただと?」

 

 俺は向かってきた剣をレベル100重力スキルで叩き落して破壊した。

 

「ぐはああああ」

 

 同時に里音先輩は更に強く猛将先輩を壁にめり込ませた。

 

「お、お前らその力はどうなってやがる」

 

「いい加減自分が役不足ということに気づいたかしら? わかったらとっととこの仮想領域を解除しなさいよ」

 

「ふ、ひひひひ、やだね」

 

「ちっ」

 

「ぐっはあああああ」

 

「里音先輩! やりすぎですって」

 

 猛将先輩が要求を断ると、里音先輩は更に力を強めて、壁には衝撃が走っていた。

 

 その結果猛将先輩は白目になって気絶した。

 

「まさか猛将のやつがここまで口が堅いとはね」

 

「確かに、猛将先輩を倒したものの、結局仮想領域は健在ですものね」

 

「これからどうしようかしら?」

 

「ひとまずみんなの元へ戻りましょうか」

 

「そうね、その前に猛将の脳内にアクセスして仮想領域の解除方法を見つけてみようかしら」

 

「そんなことできるんですか……」

 

「フフフフフ、彼にそんな力はないよ、勿論僕にもね。その答えは主しか知らない」

 

 次の瞬間に猛将先輩の姿が黒い霧に飲み込まれて、白髪の男が現れた。









 

「β、君はちょっとやりすぎだよ」

 

「あ、あなたはナノのボスのα」

 

「あれがナノのボス!」

 

 遂にナノのボスが現れたのである。

 

「やれやれ第二支部の拠点を粉々にして支部長まで倒すなんて君の仕業だと思ったよβ、ちょっとこれは見過ごせないかな」

 

「いままで陰に隠れていたくせに、あなたに発言権なんてないのよ。既にナノは私が手中に収めたわ。後はボスのあなたを黙らせるだけね」

 

「クフフフ、アハハハハハハ!」

 

「何がおかしいの?」

 

「ナノを手中に収めただって? わかってないな君は、ナノの人員はただの主プログラムウイルスの手足に過ぎない。僕たちもただのプレイヤーなんだよ」

 

「あなたがこの仮想領域を創り出したんでしょ?」

 

「うん、そうだよ」

 

 こいつが、俺たちの日常を壊した元凶。

 

「お前のせいで、俺の日常が崩れ去ったんじゃねえか!」

 

「君は第二支部長が言ってたトリガーか。いいよ好きに怒りをぶつけるといいさ。所詮僕もプログラムウイルスの中の一現象でしかないんだから」

 

「何言ってるかわかんないんだよ」

 

「まあ分からなくていいさ、話がそれたねβ。僕はねこのプログラムウイルスの方針に従って全ての行動を決めているんだ。つまりこの場所もウイルスプログラムが原因となって起きている場所に過ぎない」

 

「理解不能ね。あなたは自分の責任を実態のないウイルスプログラムに擦り付けているだけだわ」

 

「実態がない? αは自立したウイルスプログラムだぞ? 僕の前でαを馬鹿にするとは命知らずな」

 

「α? っ!」

 

「危ない! 里音先輩」

 

「バチバチバチ!」

 

「やるねえβ」

 

「流石です!」

 

 αの急襲を里音先輩は能力で防いでいた。これはルールの書き換えだろうか。でもなぜかいつもと違って、2人が接触した場所だけバグのようなひずみが発生していた。

 

「驚いたわα、あなたの能力は私と同じなのね」

 

「まあそうか、君の能力も僕と同じでウイルスプログラムに従う能力だものね、さながら君のプログラムにはβと名付けておいてあげよう」

 

「従う?プログラムを従えているのは私だわ。名づけも理解不能、あなたとは分かりあえないわ」

 

「同意だな、君の覚醒した能力を見るのは初めてだけど、こうも主に対する尊敬の念が足りないとはね」

 

「覚醒?」

 

「あら気づかなかったの春樹? 私の能力は君の傍にいることで日々覚醒していったのよ」

 

「そういえば、猛将先輩を一瞬で倒したのは、かなり強くなっていた気がしたけど覚醒してたのか!」

 

「ほーう、βに覚醒を促したのはトリガー君か。面白いことが起きるものだね」

 

「そうでしょ? その面白い現象にあなたはこれから葬られるのよ!」

 

「バリバリバリ」

 

 再びαと里音先輩のルールの書き換えが始まり、周囲の仮想領域にひずみが生まれていった。

 

「ほうほうほうほう! このルール書き換えの重複衝突で仮想領域が剥がれるのか! 面白いものを見た!」

 

「ちっ、仕留めきれない。悔しいけど実力は拮抗といったところね。ただ仮想領域が剥がれるのは思わぬ幸運だわ、春樹! このままいれば仮想領域から出れるわよ」

 

「やっと出れるんですか! もうどうなるかと思いましたよ。これって俺は干渉しない方がいいですかね? すっごいぶん殴りたい気分なんですけど」

 

「殴るのは仮想領域が剥がれてからだわね、こんな機会めったにないかも、しかし苦労して作った仮想領域も消滅しそうだけど気分はどうかしらα」

 

「フフフフ、今回はほんの試運転さ。もう用済み」

 

「あなたに次が来るといいけどね」

 

「楽しみにしてるよ」

 

「-」

 

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