第5話 学校がゲームの世界で包まれた

「どうしたんだ!この騒ぎは」


 翌日、俺は学校に行くと、人だかりができていた。


「どうしたんですか?」


 俺は騒ぎの中にいる一人の生徒に話しかけた。


「さっきから学校がおかしいんだよ。俺たち3年生がみんな学校の中に入ろうとすると、みえない何かに阻まれるんだ。逆に1~2年生はみんな学校に入れるんだけど、姿が消えて戻ってこないんだ」


「そんなの異常事態じゃないですか!」


「ああ、だから俺たちはここから来た2年生以下の生徒に学校に入らないよう注意してるんだよ。君は何年生だ?」


「俺は1年生ですよ」


「おお、そしたら学校は危険だから入らない方がいい、先生たちも今日は臨時で休校にするから帰るべき」


「はあ、分かりました」


 いったい、何が起きているのだろうか。ひとまず先輩たちのおかげで入らずには済んだが、みんな大丈夫なのか。友都、瑠美ちゃん、道安先輩、そして里音先輩は……。


「ひとまず電話を……」


 一抹の不安が頭によぎると、直ぐにその予感があったったことに気づいた。


「電話がつながらない? 見えない壁? 仮想領域!」


 確か、里音先輩は猛将先輩が俺たちの部室にあるゲームの構想図をギルド「ナノ」が手に入れて、学校全体でサバイバルを起こそうとしていると言っていた。


 その時衝動にかられ、自然と足が動いていた。


「ちょっと君! さっき危ないっていったはずだけど!」


 3年生を無視して俺は人だかりを避けて中に入ろうとした。


 途中の声からどうやら、みんな後輩を心配して呼びかけを行っているようだった。


「すいません! 俺は確かめなきゃいけないことがあるんです! 通してください!」


「うわ、ちょっと押さないでよ! 恵が消えちゃったのよ!」


「おまえらああああ! いったいどこに行ってしまったんだ、俺たち拳で語りあったなかじゃねえか!」


「すいません……」


 悲鳴を押し避けて俺は校内に入っていた。




「なんだ、これは」


 まさに仮想領域の拡大。俺の知っている学校はMMOのファンタジーゲーム世界の造形が広がっていた。これはいわゆる中世ヨーロッパの世界観である。


「みんないったいどこにいっちまったんだよおおおおお!」


 あまりに拡大しすぎた仮想領域に俺は大声で叫ぶしかなかったのだ。


「がさっ」


「誰だ!」


 背後の気配を感じたので振り向くと、同じ制服の男子生徒が現れた。


「君は1年生か? 困ったよねいきなりこんな場所に現れて」


「よかった、しっかりと他の生徒もいたんですね」


「そうそう、っていってもまだ俺は数人にしかあってないんだけどね。あっ、ちなみに俺は2年生だぜ」


「じゃあ先輩ですかね。他にあったその数人はどこに行ったんですかね」


「どうだったかな? 気づいたらいなくなっちゃってて分からないや?」


「いなくなっちゃってた? それってどういう……」


 その時俺は里音先輩の言葉を思い出した。仮想領域内では戦闘が強制的に行われる。対峙したものは戦う必要があり、負けたものは消滅する。対峙はレベルと互いの信頼で回避できるが、そして仮想領域が拡大した時学校内でサバイバルが始まるということを。


「こういうこと!」


「うわっ!」


 次の瞬間、目の前にいる2年の男子生徒がポケットから短剣を取り出して、俺に切りかかってきた。


「嘘、外した? 嘘だろお? こんなことって!」


 えらく怯えている、一体何があったんだ。


「いきなり何するんですか!」


「何ってこうするしかねえだろ! いまこの空間内でサバイバルゲームが始まってるんだよ!」


「なんでそんなことに」


「猛将ってやつが取り巻きと一緒に仕切りだして、次々と同じ生徒のプレイヤー狩りを始めたんだよ! 次々とみんな消えていって、数人消えたあと、猛将が俺たち同士で戦えっていうんだ! じゃないとプレイヤー狩りをやめないって」


「そんなだったら猛将を狙えばいいじゃねえかよ!」


「うるせえ、俺たちは訳も分からないゲームの世界に閉じ込められて、ステータスが初期状態のままなんだ! 大人しく猛将の指示に従うのが生き残る最善策なんだよ!」


「だから、他の生徒を攻撃したのかよ!」


「これしか方法がなかったんだよ! うわあああああああ」


 叫びながら俺めがけて、2年の男子生徒が短剣を向けてきた。


「よけるしかないだろこんな……!」


 目の前の生徒と対峙した時点で既にゲームは始まっていた。どっちかが相手を倒さないとこの状況は終わらない……。


「ふざ、ふざけんな!」


「ぐはあああああ」


 少し力を入れて叫ぶと、その勢いで目の前の男子生徒のHPがゼロになった。


「ま、まじか……」


「GAME CLEAR」







「俺はとんでもないことをしてしまったかもしれない……」


 この時、正真正銘のサバイバルが始まったのだと気づいてしまった。

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