第3話 俺を殴ったヤンキーの末路

「春樹! お前何里音先輩の顔面に拳を入れる構えをしてるんだよ」


「友都!?」


 どうやら領域が消えても、俺の動きは同期していたようである。


「てめええ! 春樹! 里音ちゃんに向かって何やってんだ!」


「うわっ!」


 俺は道安先輩に取り押さえられた。


「違うよ、誤解だって! 俺はそんなつもりは全然なくて」


「春樹サイテー! 道安先輩ゴー!」


「ちょっ放せって!」


 道安先輩はこう見えて結構ふとやかな体格だから、フィジカルが強かった。


 俺は取り押さえられていた。


「道安君、春樹を放してあげて」


「里音ちゃん?」


 里音先輩に反応した道安先輩は俺を話していた。


「春樹の言う通り誤解だわ、ちょっと新作ゲームの予行練習をしようって、事前に打ち合わせしてたのよ」


「な、なんだよ、2人とも知り合いだったのかよ」


「春樹! おめえ里音ちゃんと、入部希望前から話し合ってたのかよ! 抜け目ない奴め!」


「は、はああ?」


 当然そんなことは嘘ではあるが、これはこれで里音先輩に助けられたというべきか。


「ふん」


「あ?」


 里音先輩が怪しく微笑んでいた。おそらくもっと早く止められたけど、さっきの勝負のし返しとしてわざと遅れて道安先輩を止めたのだろう。


「どうした? 春樹、里音ちゃんがいってることは違うのか?」


「い、いや、ま、まあ、そういうことですよ、ははははははは」


 腹が立って認めたくなかったけど、とりあえず、そういうことにしておいた。


「しかし、里音先輩と春樹は新作ゲームを作ろうと考えてたのか!」


「え? そんなことは……」


 里音先輩ににらまれていることに気づいた。


「そ、そうなんだよ。俺は里音先輩と新作ゲームを作ろうと思っていたんだ」


「もしかして、それって里音先輩がさっき言ってた部を守ることに繋がるってことですか?」


「ええ、そうよ。この部の立場が弱いのは正式的な活動がないからだわ。新作ゲームをこの公式コンテストに持ち込んで実績を出せば、学校は正式な部として認めてくれるわ。そうすれば猛将もこの部に手を出せなくなる」


「なるほど! その手があったのか!」


「中々私たちだけじゃ、やる気が出なかったですものね。でもいつかやりたいと思ってましたし、公式コンテスト、やってもいいかもしれません!」


「決まりね! それじゃあこれからよろしく!」


「は、はいよろしくお願いします!」


 里音先輩の立ち振る舞いは初部員なのに、一気にリーダーの風格を見せていて、みんなの意思をまとめていた。


「いったいどういうことなんだ、これは」


「春樹もよろしくね」


「は、はい、よろしくお願いします!」


 笑顔でそういってきたものの、裏の顔が見え透いてちょっと怖かった。





「はあ、いったいどうしてこんなことになったんだ」


 俺たち4人の帰宅ルートはみな別々である。俺は一人で帰ることになるが、この時間は虚無そのもので、まさに目が死んでいる状態である。


「相変わらず目が死んでいるわね」


「里音先輩? どうしてここに?」


「どうしても何も私の帰宅ルートは元々こっちなのよ。今まであなたは意識していなかったようだけどね」


「マジで?」


 これは意外な事実が判明したものだ。


「せっかくだから一緒に帰宅しましょうか。今後の話も少ししたいし」


 そんなわけで俺は里音先輩と一緒に帰ることになった。


 正直言って聞きたいことは山ほどあるからこれは好都合である。


「里音先輩は「ナノ」の幹部なんですよね。どうしてそんなギルドに所属してるんですか?」


「ナノへの所属は故意ではないわ。君に私が接触したように、私もナノのメンバーに強制的に仮想領域での戦いを強いられた」


「なるほど、ナノはそうして人員を増やしているのか」


「ウイルスによる強制的な仮想領域、戦う相手は傍にいる相手か、いない場合ランダムに決まる。負ければ空間と共に消滅する。こんな危険なシステムは相当な猛者じゃないと生き残れないわ」


「でもMMOをやってる人じゃないと、システムは反映されないんじゃないですかね」


「ええ? もちろんそうよ。だけど君たちのゲームの構想図が完成するとき、それは同じ学校生と全域へと広がる」


「そんな悪夢みたいなことがあるのか」


「ナノの幹部はそれを狙っている。けど私はそれを止めるわ」


「いったいそんなことをしてナノのリーダーは何を考えているのかな」


「私には見当もつかないわ。幹部の私でもリーダー、ボスの考えは理解不能」


「なるほど、でもナノの幹部なのに、ギルドの邪魔をして里音先輩は狙われないんですか?」


「ええ、私はこう見えて特別な存在なのよ。君との戦いで見せたように特異的な戦い方ができる。万に一つも私が負けることはないのよ」


「え? でも俺に負けそうになってたじゃないですか」


「……君はちょっと特別だものね」


「特別?」


「はーるき、くーん」


「!」


 里音先輩と話していると、また昨日のヤンキーに絡まれた。


「またてめえらか、何の用だ」


「あっれー? 今日は連れもいるの? まあ、いいや引き続きよろしく頼むよ」


「猛将の差し金か!」


「あっれ? 知ってたの? そうそう先輩から通達があってさ、お前らの部が正式化する前に、お前を痛めつけておけって言われてんのよ。お前もバカだよな、あんな部室さっさと明け渡せばいいのによ」


「そうわいかないわ」


「あ?」


 ヤンキーの話を里音先輩が遮った。


「君たちは猛将の雑兵といったところね。いわば使い捨ての駒、じゃなきゃ私のいるところにあなたたちをおくらないもの」


「は? 何意味わかんねえこと言ってんだこのアマア!」


「危ない!」


 次の瞬間ヤンキーが里音先輩に殴りかかっていった。


「GAME START」






「なんだこれわあああああ!」


 次の瞬間仮想領域が展開されて、ヤンキー3名は檻に閉じ込められた。


「あれ? あいつらってMMOプレイヤーだったんですか?」


「ええ、猛将は保険として、MMOプレイヤーの証のコードを取り巻きに潜ませているわ。こいつらは自覚がないだろうけど、つまりステータスは初期、レベル1相当よ」


「ふざ、ふざけんな! なんだよこれは、ここから出せ」


「うらむなら、猛将を恨みなさい。あなたたちはここでゲームオーバーよ」


「ちょっと待ってください! そいつら腐っても俺の同級生ですよ。助けないんですか」


「残念ながら仮想領域が展開されてしまったら、どちらかが消滅するまでゲームは終わらない。まあ私は別なんだけど」


「え?」


「うわあああああ!」


 次の瞬間里音先輩は躊躇なくヤンキーのHPをゼロにした。


「GAME CLEAR」


「さ、行きましょうか、春樹」


「う、嘘だろ……」


 仮想領域からでると、本当に目の前のヤンキーが消滅していた。


 俺はこの時、里音先輩に恐怖を抱いたのだった。

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