第2話 新入部員の挑戦状を返り討ちにしちゃった

「ふう、代り映えしねえな」


 翌日俺は普段通り学校に登校した。


 しかしいまだに昨夜の出来事が忘れられない。


 圧倒的力で相手をねじ伏せる、NPC相手にするのとはまた違った高揚感を味わえたのだ。


「よ! 春樹! 昨日はこっぴどくやられたんだって?」


「うるせえよ」


 こいつはクラスメイトの友都、俺の友達だ。


「たっく、猛将先輩に喧嘩売るなんて、お前も肝が据わってるよな」


「だっておかしいだろ、俺たちの部室をいきなり占領するなんて」


 俺と友都はゲーム研究部という部活に所属している。


 部活といっても個人で立ち上げた非公認のクラブだ。


 部員数は4人しかいない。


「だからって、言い返すのは中々できることじゃねえよ。俺感心しちゃったわ。瑠美と道安先輩もお前のこと褒めてたぞ」


「たっく、別に褒められることじゃねえよ」


 俺たち4人のクラブ活動中に猛将先輩が部室に入ってきたのだ。


 猛将先輩は学校でも名の知れたヤンキーである。


 そんなわけで、横暴な態度でこの部室は俺たちのものと言い出したのだ。


 みんな逃げようとした中で、俺もそうしようとした。


 しかし、突然MMOの無双気分になったせいか、俺は足を止めて要求を断ったのだった。


 その時猛将先輩は手を出そうとしてきたが、優しく笑顔を見せて俺の肩を叩いてその場を立ち去った。


 しかし俺は昨日ヤンキーにこっぴどく襲撃された。そうその同級生のヤンキー連中は猛将先輩の差し金だったのだ。


「面倒くさいことになったな」


「まあ、俺たちはこうして普段通り活動出来てるわけだし! 問題ねえよ」


「それもそうだな、じゃあ授業も全部終わったし早速部室に戻るか!」


「ああ!」


 俺たちは何事もなく部室に戻ろうとしていた。


「春樹君、友都君! 道安先輩が今大変なことになってる!」


「瑠美ちゃんどうしたんだ?」


 その時突然、部員で同級生の瑠美が焦った表情で駆け寄ってきた。


「突然猛将先輩とその一味が部室に入ってきたの! 私たちが作っていたゲームの構想レポートに手を出そうとしたから、道安先輩がレポートを守ろうとすると、猛将先輩が道安先輩の胸倉をつかんだのよ。私は怖くなってその場から逃げちゃったわ」


「それは大変だ! 今すぐいかないと」


 俺たちは部室に向かった。


「先輩大丈夫ですか?」


 部室に向かうと道安先輩がボロボロになって倒れていた。


「守り切ったぜ!」


「せ、先輩!」


 道安先輩の抱えていたバックにはゲームの構想が入ったレポートが無事だったことが確認できた。


 道安先輩は2年で熱い先輩だ。俺たちがゲームの部活を作ると知ると、直ぐに話しかけてきたのだ。瑠美も同様に熱いゲームオタクで、いわゆる眼鏡っ子だ。ちなみに募集を掛けたのは俺のやってるMMOの裏掲示板だ。かなりマニアックなため、それだけ熱いメンバーが集まっている。


「猛将も俺の執念深さに顔が引きずってたぜ! 今日の所はここまでにしといてやるだろうだ」


「はあ、ひとまず無事でよかったですよ」


「しかしこれからも襲撃があるとなると、これは対策を講じた方がよさそうですね」


 というか俺が襲撃されたように、他のメンバーも危険な目に合ってしまう。これって部室を明け渡さないと詰みなんじゃないか。


「対策か……先生に駆け寄るのはどうだ」


「それはダメですね。ヤンキー校のここでわざわざ、そんな対策をする先生なんていない」


「あれ? 私たち詰んでね」


 瑠美の本音で俺たちは沈黙した。


「失礼します、入部希望できたんですけど、こちらに部長さんはいらっしゃいますか?」


 こんな時に入部希望者かよ。間が悪すぎるだろ……


「うん?部長は俺だけど……えええ!?」


「どうした春樹知り合いか?」


 入部希望で入ってきた人物の白髪青目の外見を俺はよく知っていた。


「里音先輩じゃないですか!」


 そう昨夜俺の脳に衝撃を生み出した里音先輩である。


「里音先輩?こんな美少女といつの間に知り合いになってたのかよ春樹」


 友都が茶化してきた。


「さ、里音ちゃんだってえええええええ!」


 突然道安先輩が大声をだした。


「ぜ、是非入部してもらいたい、ちなみにメアド教えて?」


「いや、いきなりそれは大胆過ぎるだろ」


 そういえば道安先輩と里音先輩は二人とも2年で同級生だったか。


「道安先輩は里音先輩を知ってるんですか?」


「知ってるも何も2年の間では1番の可愛いから、みんなの憧れの存在だよ。とはいえ凄い寡黙だし、基本1人で行動しているから、近寄りがたい存在として男子からは尊敬の念で崇められているんだぜ」


「へえ、そんな人物だったのか」


「私も知ってます里音先輩!」


「え? 瑠美ちゃんも知ってたの!」


「はい! 私たち女子同士の情報網をなめてもらった困りますよ! 私の友達の真紀ちゃんはバレー部なんですけど、縦繋がりが強いんです。そして先輩から里音先輩は神秘的すぎて2年女子たちからも尊敬の念で崇められてるそうです。でも寡黙だから話してる姿を見たことがないとか」


「2年生全員から崇められてるじゃないか!」


 気が付けば俺たちは内輪で里音先輩の話で盛り上がっていた。




「茶番はここら辺にしましょうか」


「え……」


 寡黙であると印象の里音の言葉は空気を一変させた。道安先輩の挨拶をはねのけると、俺の方を向かって手を差し伸べてきた。


「入部希望は嘘なの、私の目的はこの部を救いにきたわ」







「どういうこと?」


「言葉のとおりよ、昨日のお礼がしたかったの」


「私はこの部を救うわ」


「本当に!それはありがと……」


「パチッ」


 里音先輩が指を鳴らすと周囲の時間が静止した。


「これはどういうことだ?」


「昨日の延長になるわね。春樹、端的に言うと君はこのままだと死ぬわ」


「え?」


 唐突に告げられた死の宣告に俺の思考は静止した。


「なんで、そんなことがわかるんだよ」


「君が相手にしている猛将はMMOギルド「ナノ」の幹部なのよ。そしてこの仮想領域ウイルスはそのギルドが開発したものなの」


「はあ? 話がまるで意味わからない」


「君たちが作ったゲームの構想が仮想領域ウイルス完成のトリガーになるってことよ」


「なんでまだ未完成のゲームの構想がウイルスのトリガーになるんだよ」


「それは君がMMOの干渉を受けているから脳裏に焼き付いた記憶がウイルスを完成させるのよ」


「は? じゃあ、俺と接触した里音先輩のせいじゃないですか」


「いや、どのみち貴方は猛将と接触した時にMMO干渉の記憶を脳に焼き付ける」


「つまり、猛将先輩が俺に仮想領域でこれから勝負を仕掛けてくるってことか?」


「ええ、私の手に入れた情報によれば、ギルドは貴方を仕留める刺客として猛将を送り出してくるわ」


「じゃ、じゃあ、その仮想領域トリガーが完成するとどうなるんだよ」


「この学校全体が仮想領域に包まれてサバイバルが始まるわ。結末は最悪だと予測できる。全校生徒が仮想領域の中で姿を消すのよ、もちろんあなたもね」


「そんなことって……でもなんで猛将先輩は最初俺に仮想領域を強いらなかったんだ?機会はいくらでもあったろ?」


「君たちが作ったゲーム構想は無意識に仮想領域を生み出してるわ。それを破壊するには君たちのゲーム部を解散させるしかないのよ」


「だから、俺たちを執拗に狙っていたのか……でもなんでそんな領域が」


「君たちの日々の活動が領域に反映されたんじゃないの?」


「そうか」


 俺たちは4人でゲーム構想完成に熱を注いでいた。それが無意識に強固な領域を創り出していたということか。


「事情は分かりました。でもなんで里音先輩はそんなにたくさんのことを知っているんですか?」


「それは私が「ナノ」の幹部だから」


「は?」


 俺はふと我に返った。なぜ里音先輩は俺に足して仮想領域を使ったのか。説明をするならみんなの前で話せばいいんじゃないか。


「春樹、私は今から貴方勝負を挑むわ」


「そんなことってありかよ」


「GAME START!」





「里音先輩は俺の敵なんですか!」


「それを今考える必要はないわ」


「そうですか」


 なんだかよく分からないが、ゲームステータスが引き継がれるこの領域で俺は戦闘で負ける気がしない。


「悪いですけど手加減はしませんよ」


 俺は一気に里音先輩のHPを削ろうと攻撃を仕掛けた。


「悪いけど私は戦闘が出来ないの。変わりに私には特殊能力が備わっているわ」


「なんだこれ、体が動かない」


「私の特殊能力はルールの書き換え、この空間において各プレイヤーが動く距離に制限を入れたわ」


「そんなのズルじゃないですか!」


「いい? 仮想領域での戦闘は、ステータスが全てじゃないのよ」


「ちくしょー!」


 俺は初めてゲームで負けそうになって、悔しさのあまり叫び散らした。


「嘘!」


「おらあああああああ!」


 次の瞬間力が溢れて、里音先輩の制限を無視して攻撃が顔を捉えようとしていた。


「あれ?」


 しかし俺の攻撃は里音先輩の顔の近くで静止した。


「もう、分かったわ!合格よ」


 気づいたら仮想領域は消えていた。

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