第7話:作戦会議、自室に九織瀬 絢莉を連れ込む、ということ
「で、世界観って何? 世界を変える、じゃなくて? それもよくわかんないけど」
次の休日。
久しぶりに俺の部屋に足を踏み入れた絢莉は物珍しそうに周りを見渡す。「おい、あんまりじろじろ見るな」「いや、エッチなものでもないかなと」「ねえよ、バカ野郎」
なぜ、俺の部屋かって? それは、いくら幼なじみで恋愛感情は皆無で、相手が絢莉だとはいえ、さすがに年頃の女の子の部屋に男が入るのはさすがに良くないような気がしたからだ。男の部屋に連れ込むのならいいのか、というのは一旦置いておこう。ずっと幼なじみとして兄妹みたいに一緒にいた俺なら耐えられるはずなんだ、その魅惑に、その呪いに。
「あら、いらっしゃい。絢莉ちゃんが遊びに来るのなんて久しぶりじゃない」
「あ、そういえばそうっすね、いつもお話しはしてたからそんな気はしないけどねー」
「ねー」
「ねー、じゃねえよ。いいから行くぞ、絢莉」
俺の母親、彼方(かなた)は、久しぶりに我が家に訪問してくれた絢莉を出迎えると、生温かい笑顔をこちらに向けた。あ? いや、何もねーぞ? 何もねーから、そのグッと力強く立てた親指と、ばちこんッときめたとびっきりのウィンクをやめろ。
35歳の専業主婦にしてはなかなか頑張っている方のスリムな体型で、身長170センチの俺や、俺よりもさらにすらりとした絢莉からしたら、背丈はやや小柄に見える。だがな、俺は知っているんだ、親父に内緒で最近女性専用のジムに通い始めたことをな。
肩にかかるくらいの長さの黒髪のボブヘアを掻き上げながら、母ちゃんは何かを聞きたそうにそわそわしている。なんもねーって。
「母ちゃんも部屋に入ってきたり聞き耳立てんじゃねーぞ、うぜえから」
「うふふ、はいはい」
「お邪魔しまーす」
「ゆっくりしていってね、絢莉ちゃん」
そんなクソほどどーでもいい母ちゃんとの不本意な遭遇を経て、なんとか無事に俺の部屋に到着したわけだが。後ろから何か、今にも俺や絢莉を刺し殺しそうな熱い視線を感じるがきっと気のせいだろう。妹の部屋のドアがわずかに動いた気もしたけど、それも気のせいということにしておこう。
「つーか、俺んちに来るのにその服は気合入りすぎじゃねーか?」
「は? なんでキミなんかのために気合い入れなきゃいけないのよ。こんなの全然テキトーだって」
「そーゆーもん?」
「そーゆーもんよ」
まるで縁のない俺に近頃のギャルの生態はわからん。なんだったらファッションセンスも思考も何もかもわからん。何もわからないのだ。
「ってゆーか、ワタシは全然ギャルじゃないって。人を見た目で判断するのは良くないと思います!」
「お前に言われると重みが違うな」
オーバーサイズの白いTシャツにはよくわからんド派手な何かが大きくプリントされていて、ゆるっとはしているけど、たわわな胸元で押し上げられて、どことなくちらりと垣間見える身体のラインがなんとなく危なっかしい。胸のあたりまでしか丈のない薄手の黒いフーディは俺の部屋に入るなりさっさと投げ捨てられていた。
ボトムスはプリーツが入っていて動くたびにふわっと広がる黒いミニスカートで、確かにカワイイとセクシーを両立させてはいると思うけど、どう考えても、男子高校生の部屋に作戦会議に来るには不適切な気もしないでもない。
家に来た時の足元には、厚底の白いスニーカーで、そのすらりとした身長をさらに高く見せていた。今はスリッパに履き替えていた気がしたけど、あ、ベッドに座るときにあっさりと脱ぎ捨てているな。
「お前、ピアスしてたんだな」
「えへへ~、どう? 似合うっしょ?」
どうやら、自称ギャルじゃないギャルはテキトーな装いの中にあってもアクセサリーのはこだわりを持っているらしい。ピアスは大ぶりでキラキラしたラインストーンが付いたものが好みらしく、耳元をきれいに彩っていた。というか、学校では外しているんだろうけど、ピアスって完全に校則違反なのでは?
手首には細めのブレスレットや数本のビーズブレスレットを重ね付けし、指にはシルバーのリングを複数付けている。いや、これ、絶対気合入ってると思うけど、え、普通なの? JKは普段からこんなに色々装備するもんなの?
俺にはメイクのことは全くわかるはずもないが、どうやら、ナチュラルに見えるようにしつつも、目元はしっかりとアイラインを引いて目を大きく見せ、薄いピンクのリップで仕上げているようだ。どう考えても絢莉がメイクするのは完全にオーバーキル過ぎるが、年頃の女の子はみんな流行りのメイクしたがるもんだろうし、そういうもんなんだろう。知らんけど。
桃色がかった金髪は、今日は毛先をゆるく巻いてポニーテールにしてリボンを結んでいた。絢莉の髪型はその日の気分で変えているみたいだけど、簡単なポニーテールってことはただ単に外が暑かっただからだろうな。
「……ねえ、じろじろ見すぎじゃない?」
「オタクに優しいギャルなんてそうそう拝めないからな、目に焼き付けてんだよ」
「キモ」
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