あ、ごめん。流石のりんごでも避けれると思ってた
「痛っ!?」
花香の投げたボールが鼻に当たってしまい、痛さのあまり涙が滲んでくる。最低! 普通、容赦なく顔を狙う!?
「あ、ごめん。流石のりんごでも避けれると思ってた」
犯人は私の運動神経と反射神経が悪いと言ってくる。同時に嵌められたことを察した。
そもそもボールプールに来たのは、トイレでスパッツを脱いで、ロッカーのバッグに入れて戻ってきた花香の提案だった。
「えいっ!」
私が投げたボールは明後日の方向へと飛んでいく。しかも、当たったところで大して痛くなさそうなヒョロヒョロ具合だ。
「りんごちゃん……」
可哀想なモノを見るような目を向けてくる。悔しくてもう1個投げつけた。今度は当たりそうなコースだったけど、花香が簡単に避けてしまう。
反撃とばかりに飛んできたボールが左右の胸に直撃する。ブレザーの上からだから痛みは皆無だけど普通に恥ずかしい。このボールプール……子供が遊んでいるのを親が見守れるようにって見通しの良いネットに囲まれてるんだよね。
つまり、周囲から見られ放題。案の定、外を歩いていた3人組の若い男のひとたちが私を見てコソコソ喋っている。絶対に私の胸を話題にしてるよね……。羞恥でカッと頬が熱くなってしまった。
「花香!」
恥ずかしさを怒りに変えて彼女にボール投げるけど、外れるか避けられるか。
原因はわかりきっている。私の運動神経が関係しているのも確かだけど、大部分はボールプールの造りのせいだ。
中心に向かって深くなっているのは構わない。ただそのせいで、足元が斜めになっているのが困る。しかも底はエアーマットだから踏むとヘコむし、靴下が滑ってしまう。私の場合、身長のせいか膝上までボールに埋まって歩きにくい。
この状態でバランスを崩して倒れたりしたらスカートの裾がどうなるのか不安でしかない。周囲から見られ放題の場所で、だ。結果として、思い通りに動けない私は一方的にボールをぶつけられる的になっていた。
花香は埋まっているのが膝下までなんだよね……仮にバランスを崩しても持ち直す自信があるのか、躊躇なく身体を動かしている。
ほぼ確実にこうなるってわかっていてボールプールへ私を誘ったんだと思う。だから嵌められた、だ。
「ほらほら、反撃しないと顔が真っ赤になっちゃうよ――って、おっぱいにボール当たった瞬間から赤いか。よっぽど恥ずかしかったんだ?」
ほんと最低! わかってて言うな!
「この!」
どうせ狙ったところに飛ばないなら大体の方向だけ合わせて、威力を上げることに集中する。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって言うし!
「ふふふっ、甘いよ?」
珍しく当たりそうだったボールを片手でキャッチして投げ返してきた。
「いだ!?」
おでこに直撃。手加減しろ! そう叫びたくなった。なんとかしないと……このままだと私だけが痛いくて恥ずかしい目に遭う。
なにか打開する方法はないかと花香を見て――ふと気づいた。何故に顔や胸ばかり狙われるんだ? と。いつもの花香なら「良い音がする」とか言って剥き出しの太ももにベチベチと当ててきそうなんだけど……。
それに花香……スカートの裾をやけに気にしてるような?
あ、そっか――花香ってスカートのときは常にスパッツを穿いてるから、いまの状態はレアケースなんだよね。だから落ち着かないのかも。もしかしたら、私以上にパンツを見られることを警戒している?
「ちょ――」
威力を全捨てして、下手投げでスカートを狙ってみたけど明らかに焦った声を漏らして、当たりもしないのに両手で裾を押さえる。当たったところで捲れたりしないだろうに……。
そう思いつつ納得する。上半身を狙われたのは、私の意識が下半身に向かわないようにってことだ。
「花香どうしたの?」
「なんでもない」
ハッとしたように誤魔化す花香。だけど、何年の付き合いだと思ってるのかな? ヤバいと思ってるのバレバレだよ?
決めた。自爆覚悟で行こう。きっといっぱいボールをぶつけられるだろうし、失敗すれば私だけがパンツを晒す危険もある。というか、その可能性が高い。
だけど、毎日のように顔を合わせるクラスの男子たちの前で何度もスカートを捲くられてる私だよ? 不特定の少数相手に1度くらいなら、許容できるリスクだ。精神的ダメージも教室内よりマシな気がする。
それにさっきの勝負で負けていれば、私は確実に綱の網とかに連れて行かれて下からスカートの中を覗かれ放題だったはず。
最初は私だけが恥ずかしい思いをする危険な状態で、いまはふたりとも恥ずかしい目に遭う可能性がある状態。この差は大きい。
私がいつもどんな思いをしているのか、花香にしっかりと味わってもらわないとね!
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