……なんで私、こんなのを好きになっちゃったんだろ?
向かった先は複数のサンドバッグが吊るされている通路だった。
一方通行で、歩きながら殴ったり蹴ってもよし。足を止めて抱きつくようにして、ぶら下がって遊ぶもよし。休日なんかは子供に人気だけど、幸いなことに私たちしか居なかった。
「花香。勝負しない?」
「どんな?」
私の「勝負」という提案に嬉しそうに微笑む花香。ついつい眺めて美人だよなぁ……なんて感想を抱いてしまう。小学校のときは私のほうが身長高かったのに、中学であっという間に抜かされて高校では更に差を広げられてしまった。
運動も得意で、勉強もできる花香。私が勝っているのは胸の大きさくらいだ。形は……個人的には花香のほうが好き。ツンと上向きなとことか。
だけど彼女的には、私の小柄な身体が羨ましいらしい。「好きな人に包み込むように抱き締めて貰えるから」と言っていた。
確かに、私も花香に抱き締められるのは大好きだけど……。
「ほら、この通路ってそれなりの幅があるしサンドバッグがぶら下がってるでしょ? 反対側まで通り抜ける前に私を捕まえられたら、次に行くエリアを花香が選んでいいよ」
恐らく、負けた場合……恥ずかしい思いをするハメになる。絶対にスカートの中が見えるような場所に連れて行くだろうし……そんなリスクを負ってでも花香に勝負を挑んだ理由は簡単だ。
このままだと、どっちにしろそうなるから。なら避けられる可能性を作りたい。花香って意地悪だけど、勝負事で決めたことはちゃんと守ってくれるからね……もっとも、運動も勉強も私より得意だから勝つこと自体が大変なんだけど。
一応、運勝負なら勝率は私のほうが高い。他にはゲームなんかは半々くらいで1番対等に戦える。
「あたしが勝った場合はわかったけど、りんごが勝ったら?」
つまり、オッケーと。
「花香がスパッツを脱ぐ」
私だけ生パン披露のリスクある状況はマズい。条件が同じになれば流石の花香でも多少は自重してくれるだろう……してくれないかな……して欲しいな……。まさか自爆覚悟で綱の網を渡ろうとか、言い出さないと信じたい。
「……」
彼女の表情の微妙な変化から、天秤が肯と否を行ったり来たりしているのがわかった。あとひと押しかな?
「まさか逃げないよね?」
見え透いた挑発。だけど負けず嫌いの彼女なら――
「いいわ。乗った。さっき居た中学生男子の集団の前でりんごちゃんのパンツを丸見えにする為なら仕方ないわね」
――案の定だった。こうなるのがわかっていて勝負を提案したんだけど……ねえ……あなた、本当に私の彼女だよね? 付き合ってると思ってるの私だけじゃないよね? 心配になってくるんだけど。
……好きな相手に意地悪したくなる人も居るらしいけど、花香って完全にその類だよね?
「……そう、なら決まりだね」
……なんで私、こんなのを好きになっちゃったんだろ? もちろん気の迷いじゃなくて、本心から好きだって断言できるけど……キッカケが思い出せない。
「ふふふっ、鬼ごっこなら自信あるし……りんごの今日のパンツは何色かな? 好きなピンク系か……水色とかもあり得る。パステルカラーなのは確実だけど……ローテーション的にやっぱピンク?」
「…………」
怖い! 怖いっ! 怖い!! なんで当たり前のように正解してるの!? 怖いから!! 私の下着のローテを把握してるとかドン引きなんだけど!?
これがお互いに知ってるなら百歩譲って、納得できなくもないよ? けど、私は花香の下着のローテなんて把握してないから!
「正解ね? どのピンクだろ……5択だけど……リボンがついてるヤツ?」
「ひっ!?」
引き攣った声が喉から漏れた。色ごとの種類と枚数まで把握してるの!? つまりは、それだけ観察されているってことで――しかも、ピンクに関しては先週、新しく買ったのまでしっかり知ってるし!? 花香に見られたことあるのは4種類のハズ! リボンのやつは今日初めて穿いたんだけど!?
まさか――私の部屋に遊びに来たときに確認してるなんてこと……ないよね? ないよね!? 信じてるからね!? 信じさせてよ!? 彼女だよね!?
「ホッ……よかった、当たりなんだ? りんごのことで外したら彼女として失格だもの」
言葉通り心底安堵しているのが声色や表情から伝わってくる。私……花香のこと、なんでもは知らないよ? 絶対に知らないことあるよ? それが普通だと思うよ? おかしいのあなただよ?
「念のため聞くけど……私が先週買った下着知ってる?」
ちなみに、1人で買いに行った。
「もちろん。今日つけてるピンクのパンツとブラのセットでしょ? リボンの可愛い系。それと、黒地に黄色と白の星柄プリントパンツ。こっちは完全に部屋着ね」
おかしいな……全部合ってる。
「怖っ」
思わず口から出てしまった。………………考えるのやめよう。うん、それが良い。
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