りんごと花香の屋内アスレチックデート
綾乃姫音真
りんごは生パンか……まぁ良いんじゃない?
放課後、私こと
「ほんとに遊ぶの?」
「もちろん、そのために来たんじゃない」
平日だけあって施設内は、小学生から高校生までの集団がいくつか遊んでいるのがわかる。1年を通して運動しやすい温度に保たれているから、冬場や夏場はありがたい場所だった。
ただアスレチックで遊ぶには大きな問題が――
「私、制服なんだけど?」
高校指定の紺色ブレザーにチェックのスカート。どう考えてもアスレチックで遊ぶ服装じゃない。場所によっては四つん這いを強いられたりするのにスカートって……じゃなくたって高低差があった場合は下から丸見えだ。
今日は体育がなかったから体操服も持ってないし、学校を出ていきなり言われたから着替えもない。
「あたしも制服だから」
そう言って私を見てくる花香。身長差が10センチあるために見下される格好となってしまう。中学から運動部に所属しているためか、すっかり定着してしまったショートヘア。校内では美人と評される整った顔立ちが羨ましい。
彼女も確かに私と同じく制服姿だった。ただ、大きな違いもある。
「花香はスパッツ穿いてるから平気だろうけど……」
「あー……りんごは生パンか……まぁ良いんじゃない?」
彼女の言葉に思わず後ずさる。良くないよ! 私に恥ずかしい思いをさせて楽しみたいって魂胆が丸見えだから!
花香の視線が私のスカートの裾に向かっているのが怖い。こんな誰が見てるかわからない場所で捲くられたりしたらたまったもんじゃない。
実際、クラスの男子にパンツを何度披露するハメになったことやら……。初回はガチ泣きしたからね……男子は盛り上がるし、女子には同情されつつも別グループの一部は「いい気味だ」なんて内心が透けていて最悪だったのをハッキリと覚えている。
それでいて私がスパッツや短パンを重ね履きすると、教室内で平然と脱がしに掛かって来るからね、この彼女様。1度、事故でパンツごと脱がされそうになった恐怖から、重ね履きを諦めた。
「良くないから! そりゃ、花香は気にしないだろうけど!」
「いや、あたしをなんだと思ってんのよ。普通に恥ずかしいって感情はあるから」
「ならアスレチックって選択肢おかしいよね?」
私、変なこと言ってないよね? 間違ってないよね?
「あたしは『りんごちゃん』がスカートの裾を気にして遊んでるのを眺めたいだけだから」
最悪! 私がちゃん付けで呼ばれるの大嫌いなのを知っていて言ってくるし! しかも言葉の内容まで最低なんだけど!
「花香って性格悪いよね」
今回のデートだって、誕生日プレゼントのおまけとして要求された「デートの服装と行き先指定券」を使って拒否権がなかったし。絶対にこの為だけに考えたでしょ!
クラスでは人当たりもよく中心に近い位置に居る癖に、私に対してはご覧の通りだ。花香の猫かぶり!
「自覚あるよ? でもりんごが可愛いのがいけないと思う。誰だってイジメたくなるでしょ。反応いいから見てて楽しいし」
「……」
実際、クラスでもイジられポジションに収まっている感はある。花香せいで。
「ほんと可愛いよね」
ジロジロと改めて見られると落ち着かない。
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど……」
実際、好きな相手にそう言われると嬉しいし、暖かい気持ちになる。
「クラスの男子がロリ巨乳って言うのもわかるわぁ」
「花香! それほんとに嫌なの! やめてってば!」
確かに胸はクラスでも大きいほうだよ? でも、高3でロリ呼びされるのは嫌過ぎる。身長だってギリ150はあるんだし、その呼び方は断固拒否したい。
「背が小さくて抱き心地が良いからあたしは好きだけどなー。クッションもあるし」
うぅーっ、怒りづらくしてくるのズルい! あとひとの胸をクッション言うな! 汗っかきだし、顔を埋められるの恥ずかしいし、緊張するんだから!
「もう……それで最初はどうするの?」
無理矢理話題を変えていく。
「りんごの好きにしてくれていいよ? あたしは見てるから」
「本当に眺めたいだけなんだ……」
3階建ての建物を吹き抜けにして作られているアスレチック。見上げると、綱の網を渡っている中学生の女子集団が居た。もちろん、制服なんてこともなくジャージ姿だ。当たり前だけど、スカートで遊んでる人物はゼロ。
チラッと花香を見ると、ワクワクしている様子を隠そうともしていない。
「後からついてくから」
なんて言うけど、下から見られる可能性がある場所はあり得ない。人が多い場所も避けたい。四つん這いになったりするのも勘弁だし……。
近くにあった案内板に目を通して――あるエリアを見つけるのだった。
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