第2話 魔界電話
リオとアリアの姉妹はそれぞれ多忙のなか、日曜の夜だけは父のためになるべく早く家に帰ろうと二人で取り決めをしていた。
夕飯は決まって父特製の椎茸入りカレーが待っていたのだった。
その頃、リオの自宅には セレモニーホールからの「間違い電話」が頻繁にあり、気味が悪く鬱屈した日々を送っていた。
「もーパパなんとかして、この電話。」
アリアが苛立っている。
父は娘たちと語らう時間が楽しいのか、
「適当に言っておきなさい」
そんな小さなことをとも言うようにまるで気にしていなかった。
「ねぇリオ、カレーに椎茸入れるなんてうちのパパくらいだよね」
「だね」
リオは苦々しく頷くとさっと椎茸を取り出してティッシュに包んだ。
食事を終えるとリオは2人分のカレー皿にスプーンを乗せてプレースマットと共に手際よく下げて、窓ガラスを磨くようにテーブルを拭き上げた。
鏡面ガラスは傷だらけになり使い込まれた痕跡が残る。
「これは、君達と同級生だ」
父はこの年季が入ったテーブルのことを大切にしていた。リオはそんな父の意向を大切にしていて
手入れをするかのようにキュッと磨いた。
その時、足下からパキッと音がして無造作に置かれたコンテのせいで足裏が真っ黒になった。
さらにそれをつまみ上げると指先まで真っ黒ににしてしまった。
「ちょっとアリアなんなの、これは」
リオが叫ぶ。
「テッシュで包んで持てば汚れないよ、さっき椎茸もそうしていたでしょ」
アリアは冷めた態度でチクリとやって、イーゼルの杭を素早く抜き取り額受けを外し重たそうに抱えて自室へと走り去った。
その時、ジリリリリーンと電話が鳴った。
「リオ君、頼むよ」
父は電話を指差しながら
冷えたフルートグラスにテタンジェを注いでいる。
リオが予想した通り、またあの間違い電話だった。
「色んな方から度々お電話がありますが、番号をお間違いになっていますので」
リオは冷たく丁寧に伝えた。
相手の返答はいつも同様だった。
このやり取りはもう何度目になるだろう。
この間違い電話こそが現在と未来をうっかり繋げてしまった原因なのではないか。
リオはこの「間違い電話」に連動するように、予知夢や予知を重ねてゆくことになる。
夢の中で自分を体験したり、空から自分自身とその周りの人や景色を傍観していることもあった。
そしてリオは夢の中に出てきた白いYシャツの男性に恋をしてしまうのだ。
夢の中であんなに魂が通じ合った彼のことを忘れることはできなかった。
夢に出てきた場所、服装、背丈、心の通じ合い方を照らし合わせたりしながらリオは
「白いYシャツの人」をいつも探し求めていた。
恋愛には様々な種類がある。
燃えさかる恋、穏やかな恋、それから初恋のような淡い恋。
しかし「白いYシャツの人」はこのうちのどれにも当てはまらなかった。
彼は夢のなかでリオを黙って強く抱きとめ、心に秘めていた苦しさを共に分かち合ってくれた。
それはリオが今まで体験したことのないロマンス溢れる感動的なものだった。
夢から目覚めてもなお、その余韻は残っていた。
(この情熱的は感情は何だったのだろう。)
夢のなかにいても、現実に戻っても彼へ対する想い変わらなかった。
恋というには軽すぎる、けれども恋ではないと言ったら嘘になる。
それは今よりももっと大人としての経験を積んだときに理解できるもののようだった。
もしこれが現実に起こり得るとするならば、まだずっと先のことである。
「白いYシャツの人」はこの世界のどこかで生きている。
果たしてリオはその彼に出会う日が来るのだろうか。
筆者もまだ夢の途中なので、お伝えすることはできない。
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