最後の旅行だった。


 最後の旅行だった。

 はだけた館内着に差し込まれた手を、俺は驚きと納得で待ち構える。目を閉じているしかない。

 K君はトランクスをどうにか脱がそうと苦労していた。だが俺が寝返りでも打たなければ無理だろう。

 彼は諦めて、ゴムと腰の間へ指を潜らせた。ネズミのように這入り込む。しぼんだ陰茎の皮に冷たい指先が当たる。違和感。乾いているせいか擦られると痛かった。K君は握ったり押したりしている。20分はそうしていたと思う。結局、俺が勃起することはなかった。

 K君は下着から手を抜いて、疲れたように息をついた。

 しばらく彼の啜り泣く声がした。

 俺は少しして、寝た。


 5年後。俺と妻の間に生まれた子供をK君たちはぞろぞろ見に来た。

「かわいいな」

 赤ん坊の膨らんだ手を覗いて、彼は笑っていた。



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