「もう着いた」らしい。


 「もう着いた」らしい。

 私は玄関を飛び出して、土砂降りに驚く。自室を粘着テープで念入りに掃除していたせいか、気がつかなかった。

 自転車は使えない。

 時間にルーズだと思われたくない。

 駅までは徒歩17分。

 走れ!

 立てかけてあった傘をひったくるように掴んで、バッ、と開く。

「ひっ……!?」

 ──口。

 傘の内側が口だった。ぐるりとびっしり短い牙が生え揃い、内臓然とした赤い口腔が広がっている。受骨は無く、代わりに分厚い舌がのたうっていた。

 獲物を丸呑みにしようとがっぱり開かれた丸い口……。

 私は一旦傘を閉じる。

 そして、地面に思い切り叩きつけた。

 何度も叩きつけた。

 再び開いてみる。舌はぐったり動かない。死んだらしい。

 よし、と私は傘をさして駆け出した。

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