僕は超能力を持っている。


 僕は超能力を持っている。

 しかしこれは”借り物”で、今夜には没収されてしまう。

「とにかく悪用されてはならない。そこで君だ。君はいい人だ。ゴミを拾う、トイレのスリッパを整える、お年寄りに席を譲る……。それを見て選出した」

 僕に超能力を与えた白衣の人はそう言っていた。

 つまり、最近の僕は”いい人”ではないと判断されたというわけか。

 どうしようかと悩みながら歩いていると、いつの間にか橋の上にいた。現在ここを渡っているのは、僕と、数メートル先を歩く親子のみ。若い母親が、一歳児ほどの女児を抱っこしつつベビーカーを押している。

 お。

 できるだけ自然に、超能力を使って母の胸元から女児を引き剥がす。不可視の糸に釣られて小さな身体が錆びれた欄干を越えていく。そして悲鳴を上げた母の手を置き去りに、憐れな女児は宙へ投げ出された。

「危ないッ!」そのタイミングに合わせて僕は叫んだ。地面を蹴って駆け出す。右手を突き出して超能力の使用をアピールする。慌てたそぶりで欄干から身を乗り出す。

 ピタッと女児の落下は止まった。やがて甲高い泣き声と、感謝の言葉が耳を騒がせた。

 僕は延長を確信した。

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