窓を開けたのが間違いだった。


 窓を開けたのが間違いだった。

 しかし当然だ。もう何年と放置されていたクローゼットをひっくり返すのだから。北と南でそれぞれ窓を開けて、風の通り道を作ってやる。

 祖母は今年で90を超える。彼女は最近、なんだか現実と過去がごちゃ混ぜになって生きていた。

 着物が盗まれた、と騒ぎ出したのはそのためだろう。

 迷惑なんて思わない。幼い頃より世話になったお礼も兼ねて、私は大学終わりにそのまま祖母の家へと向かった。

 そしてクローゼットの奥から着物を引っ張り出し、ほら、と彼女を安心させてやるのだ。

 桐箱が出てきた。

 紐で結ばれているも、ほとんど朽ちていた。

 私は興味を惹かれてぷっつりハサミでトドメを刺して、開けてみる。

 小さな御守り。しかし水風船のように膨れ上がっている。布がみちみちと悲鳴をあげている。

 何だろう、と持ち上げる。軽い。腐敗した空気が膨張したとか何とか……かもしれない。

 風──。

 北から南へ。

 私の右手から御守りを奪って、3階の窓から放り捨てた。

 ──間。

 ぱちっ、と階下より破裂音。

 そして、インターホン。

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