6章  Contrarian-序

別に、プロローグのような、前置きであるこの話はあってもなくてもいいのだけど、少しだけ、これを見ている心優しい君たちの貴重な時間を借り――いや、頂こうと思う。

 時間というのは進むだけで戻ることはできないからね。故に、返却はできない。

話を戻そう。ボクの名前は『逆撫ゆかい』。

 正直、この名前は本当の名前ではないけれど、この変わった世界で使用するだけなので、まあなんというか、自分の性格をそのまま名前にしてみた。

 さて、そんな自分の性格を名前にするほど変わっているボクは、何をしているか――何をしようとしているかを勝手に語ろうと思う。

 しかし、いざ口を開こうとすると、どこから語ろうか、どこまで語っていいのだろうか、これはちょっと悩んでしまうところだ。

 ひとまず、素性を明かそうか。

 まず、ボクはこの世界の人間ではないし、そもそも人間でもない。

 『なら、なんだ』と問われれば、弱小で貧弱で階級の低い神というものだと答えるのが適切だろう。

 そんな低級の神が、なんの為にここにいるのだと言われれば、まあ、いわゆる罰のような仕打ちを受けている最中なのである。

 仕打ちと言ったが、どちらかと言えば上から命じられた責務であり、小間使いなのだ。

 先の罰の理由を明らかにしよう、自分より目上の神様を誑かしたというものだ。

 なに、神様のお想い人である子の過去を明かしただけだ。

 『成婚をするなら、身の回りの整理をしなければならないよ』と善意で教えてやっただけで、それで考えが変わるなら、そこまでの想いだったのだろう。

 他者に水を差されただけで、信念とも呼べる熱意が冷める想い。

 最後まで、他者を、己を信じる事ができなかった奴が悪いと言ってもいいだろう。

 ボクから見てあれはただのじゃれ合いで、戯れだったのだけれど、移りゆく〝ひと〟の心とは、なんとも信頼に値しないのだろうか。はっきり言って、見る目がない。

 どうしてその場のシーンだけで勝手に善悪や良し悪しを判断するのだろうか。

 見えてないところでも善悪は働いているというのに、自分だけが制裁をうけるなど、憤懣やるかたない。君たちもそんな経験はないだろうか。いや、人生は長いし、きっと経験済みだろうね。

 ああ、理不尽は嫌いだ。不幸も嫌いだ。損をするのはもっと嫌いだ。

 不条理はもっと……いいや、この上なく受け入れ難く嫌いな〝事実〟である。

 そう、愛とは時として〝残酷〟を生むものなのだ。


      

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