第2話 見極める勇者

 その日も勇者は戦士と僧侶と共に魔王討伐の旅路の途中だった。とある街のとある店で食事をして、一息ついたところで一人の人物が声を掛けてきた。


「あなたが勇者様ですか?」


 声の主は少女だった。外套がいとうにはローブ、手には杖。断定はできないがその出で立ちは魔法使いのものだ。

 落ち着いた話し方もあってか、少女というよりは女性と表現した方がいいのかもしれない。


「そうだけど、何か用かな?」


「あの、私も一緒に魔王討伐に参加させてもらえませんか?」


「君を? 気持ちは嬉しいけど、俺達はこれまで散々危ない目に遭っているんだ。できることなら巻き込んでしまう人を増やしたくない」


「大丈夫です。私こう見えても強力な魔法が使えるんですよ」


「確かに魔法使いがいれば、これからの戦いの幅が格段に広がるだろう。それでも今すぐに承諾はできないよ」


「仕方ないですねー、取っておきですよ!」


 そう言って少女はフフン! と誇らしげに指輪を見せた。


「これは破魔の指輪といって、魔王を倒せる指輪です。すごいでしょ」


「信じるわけないでしょ」


 少女は口を尖らせながら「なんでですかー」と言葉を漏らす。

 それから少女は最上級魔法が使えるやら、どうしても魔王を倒さなくてはいけないやら、ありとあらゆることを猛アピールした。


 そんなやり取りを静観していた戦士と僧侶が口を開く。


「まあまあ、いいじゃねーか。指輪のことはさておき、魔法使いとしての実力を見てから決めるのでも遅くはないんじゃないか。俺は魔法が使えないしな」


「そうですね。私も仲間は多い方がいいと思います。それに私は僧侶なので攻撃魔法が少ないですから。彼女の覚悟もみ取るべきです」


「そうか。それもそうだな」


 仲間からの言葉に感化されたのか、勇者はそう言うと少女に告げる。


「ならこれから目指す洞窟に同行してもらおうか。そこで実力を見極める」


「分かりました」


「その代わり、俺が考える水準に達していないと判断した時はキッパリと諦めてくれ。そして危険だと感じたらすぐに引き返す」


「はい。きっとお役に立ちます」



 それから少女も同行して洞窟に潜ると、少女の活躍は目を見張るものだった。


 魔物の攻撃のクセや弱点を的確に指摘し、最小限の労力で勝利できるようにする観察眼。

 周囲の状況を素早く把握し、適切な行動が取れる状況把握能力、そして魔法の威力。


「正直、驚いたな。予想以上だ。戦力として申し分ないが、もう一度だけく。本当にいいのかい?」


「はい。私はそのためにやって来たんです」


 こうして勇者達に心強い仲間が加わった。



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