第95話 自称日本人との遭遇

 俺が戻って来たぞ!ドメンタぁ!!

 鉱石寄越せや!オラオラオラ!!


 脳内でイキリ散らし、再びドメンタのダンジョンに潜った。ゴキルーム近くから再度進んで行くぞ。今度こそゴールドラッシュを掘り当ててやる!


 唸れ!俺の魔導がんずめ!


 ザクザク…ザク……ザクザク……ザリリ……ゴッ……サクサク……ザックザク……。


 いつの間にか取得したスキル『筋肉増強』を使っているから、前より断然堀やすい。何処の誰かは知らないけれど、便利に使わせて貰ってます、ありがとう。

 きっとガテン系の人が持ってたスキルなんだよね?可愛いウエイトレスさんがメガ盛り料理を持つ為のスキルじゃ無い…よね?


 俺の個人的な願望では、可愛いウエイトレスさんには、出来れば焼肉マウンテンじゃなくて、クリームマウンテンのパンケーキとかを持って欲しいからさ。

 それと『これだからドウテイは!』とか言わない様に。ドウテイにはドウテイなりの成長の道程があるんだよ!生暖かい視線を送って来るリア充は発破で爆発しろ!現実を受け入れるまで夢は見るもんなんだよ!


 そんな独り善がりな願望と妄想を思いながら、鉱石を掘り探っていた。うん、脳内でイキると程良い力が入るな。

 そして、残念ながらゴキルームに奴等は復活していなかった。

 誠に残念無念……。しかも、組合の『要注意エリア』にゴキルームは指定されてしまったらしく、定期的に組合員が巡回して駆除作業をするとか……。く……ちくせう。



「………む、これは?」



 掘削場所から、アボカドみたいな石ころがゴロゴロと出て来た。教えて、鑑定さん!


瑪瑙めのう 色は開けてのお楽しみ】


 ほほう…ならば開けてみましょう!

 タガネを当てて塊を半分に割ると、中からは青のグラデーションが美しい結晶が出て来た。試しにもう1個割ってみると、そっちは紫色だった。


 ふむ……中々綺麗ですな〜。研磨したら、なおよろしい感じになりそう。因みに交換した場合のゼルは……いかほどで?………ん〜…まあまあだね。そりゃ石英だもんね。


「この調子だ!どんどん掘って鉱石ゲットするぞー!おー!」

「おーぴぇー!」


 ピー助さんからの熱い声援も頂きました!

 オラ頑張んぞー!



「………ねえ、君、日本人…だよね?」

「ふへぇえ?!」



 俺は急に背後から声を掛けられて、慌てて振り向いた。飛び上がるほど驚いたのは生まれて初めてだよ!くそ〜鉱石の確認に気を取られて全然気付かなかった!


 そこには薄っすらと笑みを浮かべた黒髪ロン毛の優男と、その後ろに2mは有りそうな体格の獣人の男、あとは獣人の男の影で姿は良く見えないけど、女が2人立っている様だ。



「ねえ、聞いてる?」

「……聞いては…いる。なんか用か?」

「君1人でダンジョン潜ってるの?危ないから日本人同士僕等と一緒に探索しようよ。」

「要らない………。」

「……そう。でも君の為にも一緒の方がいいと思うよ?さっきみたいに急に背後を取られたりしたら……危ないよ?」



 う……こいつ……なんだか気持ち悪い!

 あの笑顔と話し方……昔、意味も分からず付きまとわれたヤミ女を思い出す!しかも今回は男だし、俺にはなんの得も無い!


 もし転生・転移して来た日本人だったとしても、仲良くなりたくない感じの奴等だ。



「………間に合ってる。俺には構わないで他を当たってくれ」

「そう言わずに、少しは僕に付き合ってよ」



 断ってるのに食い下がるな!それに他の奴等は無表情で傍観してるだけで一切喋んないしマジで意味分からん!転移扉でドメンタに来たばっかりなのにまたトラブルかよ!


 徐々に距離を詰めて来る黒髪の男から目を離さない様に後退し、近くの角を曲がって奴等の視界から外れたら、素早く大介の中に駆け込んだ。



「…………あれ?おかしいな……居なくなっちゃった。微かに気配はするんだけどな……。困ったなぁ……余裕かと思って魔法使ってなかったよ……」

「(ギャァーー!怖い怖い怖い!あいつ何の魔法を使う気だったんた?!もう帰る!俺もう帰るよ!チャスへ!)」



 後を追って来た奴等は、俺を見失ってはいたが気配は感じるのか、辺りを探る様に散らばった。獣人の男は鼻をヒクヒクとさせて匂いを追っているみたいだ。それにさっきまで姿が見えなかった2人の女は、何かの道具を出していた。

 そこまで見て、俺は転移扉で一目散にチャスまで飛ぶと、そのまま外へと駆け出した。幸い周りに人はいなかった。


 チャスの街に隣接している森は、俺の動悸など関係なく穏やかなままだ。それを感じて、やっと全身の緊張が解けた。



「……なんなのアイツ等!マジで意味分かんねぇ!絶対何か企んで近づいて来たんだろ?!反社か?異世界の反社組織のヤツラなのか?!」

「ぴぇ?アイアイぴぇ?」

「ああ、ピー助もう大丈夫……。でも本当怖かったよ〜!薄暗いダンジョンの中だったし、あれじゃホラーだよ!それに何だよ『君の為』って!全く為になって無いよ!」



 ドメンタはきっと相性が悪いんだ。方位が良くないのかもしれない!

 俺はもう行かないぞ!


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