第86話 後始末

「やあ!俺だよ!みんな元気だったー?」

「ヤア!ぴぇ!」

「え、カイ?!もうドメンタから戻って来たの?早くない??」



 おう、久しぶりだなソルス!

 戻って参りましたとも!始まりの街へ!


 今更だけど、俺はここが異世界で初来訪した街だった。まさに『始まりの街』だったんで、脳内で勝手にそのまま『始まりの街』呼ばわりしていた。


 ドメンタから戻った時に街の外で『転移扉』の設置をしたら街の名前が『チャス』と表示されたのを見て初めてその名前を知った。


 だってしょうが無いだろ?!それよりも街に入れるか問題とそのシュミレーションで俺は頭がいっぱいいっぱいだったんだよ!


 そのチャスに3箇所目の『転移扉』の設置をして、もう合計で2億1千万ゼルも使っちゃった。6億程度はあっと言う間になくなります。


 因みに4箇所目の設置費用は、もちろん2億4千万ゼルだよ?価格設定アホでしょ?大介さんの請求が、半端無いを通り越してエグい!エグ過ぎるんだよ!!


 そして、チャス←→ドメンタの往復に時間が掛からなくなったので、拠点は過ごし易いチャスにして必要な時にドメンタに行こうと思ってます。


 速攻で帰って来たから、まだ必要な買い物も終わってないし、何だったらセディールとスコットにも『大介』の事を打ち明けて、一緒にドメンタ行かない?って誘おうかとも考えている。


 あ、でも『転移扉』はまだソルスにも教えてないんだった。ちょっと探りを入れてからにしようかな?



「あ!本当だ!もうドメンタで目標達成出来たのか?買いたい物も手に入れたか?」

「おお〜久しぶりカイ!と言ってもそんなに長くは居なかったんだな。やっぱり飯が不味かっただろ!」



 安定の3人組が屋台に立っていたんで声を掛けた。君等も相変わらず仕事熱心だね。



「あれ?ソルスの屋台……デカくなった?それに座って食えるスペースも作ったのか!いいな!」

「そうなんだよ!カイとダンジョンで稼げたから、家族と相談して屋台を思い切って改造したんだ!」



 まだ明るい時間だったけど、増設されたスペースで飲み食してる人達が賑やかに酒とツマミの燻製を食っていた。


 本当いいな〜…。俺も飲みたい………。



 俺が物欲しそうに見ていると、ソルスが『仕事が終わったら一緒に飲もうよ!』と誘ってくれたんで、先に組合へ行ってセグさんに帰還挨拶して来よう!


 そして半端な時間の組合は、人も疎らで待たずに受け付け嬢にセグさんの行方を聞けた。そうしたら、今はダンジョンに調査をしに行ってると言われ、会うことが出来なかったよ。


 ただ、そのまま帰ろうとしたら目敏いメガネに声を掛けられてしまった。



「君は……確かカイだったな?今日はセグが不在だが何か報告があって来たのか?」

「えと……ドメンタに行ってたので、帰還の挨拶に来ました。それと1つ見て貰いたい物もあったんですけど、急ぎじゃないんでまた来ます。」



 その一言が余計だった。俺氏失敗。


 結果、メガネに話を聞かせろと捕まって別室にまた連行された。でも、セグさんが連れて来たくらいだし、鑑定が出来るこのメガネでも良いか。



「俺、ドメンタのダンジョンに潜ってたんですよ。まだ浅い場所だったけど、掘っていたら地図に無い空間を見つけました。そこに居た魔物を倒してこの宝石を手に入れたんです。」

「……これは…………何ぃ?!黒金剛石ブラックダイヤモンドだと?!」



 ネタっぽく驚かれた。モチツケメガネ。


 例の如く白い手袋を嵌めてら黒金剛石ブラックダイヤモンドを汎ゆる方向からマジマジと見て唸っていた。



「これをドロップした魔物って………。」

「えと……大後気振おおごきぶりって魔物です。」

「何ぃ?!やはり大後気振おおごきぶりだったのか!まさかヤツ等がドメンタのダンジョンにいたとは!」

「居ましたよ?でも未開拓の空間にでしたが。」



 どうやらメガネは、ねじり鉢巻の芸人さんネタがお好きらしい。語尾を伸ばせば完璧だったのに。おしいぞメガネ!



「ドメンタに街食いが………。カイ、その場所に居た大後気振おおごきぶりは全て倒したのか?」

「はい。余すこと無く全部倒しましたけど?」

「そいつ等の卵は無かったか?」

「卵?倒した後に一通り見ましたけど、卵は有りませんでした。」

「天井も見たか?大後気振おおごきぶりは卵を天井に産み付けるんだ。ドメンタのダンジョンだと、中と同じ様な色の卵だから良く見ないと見落とす可能性が高い。大切な事だ良く思い出してくれ!」



 え?!天井??!!流石にそこまでしっかりと見てはいないよ。しかもドロップ品や宝箱狙いだったし……。それより、さっき気になるワードが出てたんだが。



「天井まではしっかりと見てません。あの……その『街食い』って何ですか?」

大後気振おおごきぶりの別名だよ。以前アイツ等がダンジョンスタンピードで溢れ、近くの街を襲った事があってな……。人はおろか街の建物や植物まで全てを喰らい尽くし、街そのものが消滅した。それからは魔物の間引きを徹底し、特に大後気振おおごきぶりに至っては、要注意の魔物として見かけた時は殲滅必須の魔物に指定されているんだ。『1匹いたら100匹いると思え、殲滅の時は卵も忘れるな!』と各組合でも探索者達に注意喚起と情報提供をしているんだが…。知らなかったか?」

「すみません……知りませんでした。」

「いや、これは大分前の話だから、正直知らない探索者もいるだろう。ただ、登録時に渡す手引き書には記載しているんだよ。読んで無い者が多いだろうけどね。」



 誠にその通りで…。全く記憶に無いから、俺も読み飛ばしていたと思う。


 メガネが、今回の話をドメンタに照会してダンジョンに確認に行って貰うと言ってくれたので、地図でその場所を伝えた。


 幸い、ドメンタのダンジョンには転移扉を設置してある。


 ドメンタを出る時、また来るからと俺は組合に立ち寄らずにチャスへ戻ってしまった。


 今回の件は知らなかったとは言え、俺の見落としだ。現地確認と卵があったらその後始末をしに行こう。


 早速、転移扉の出番だぞ。組合員の人より先に卵を処分しよう!(欲望まみれ)


 



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