第79話 アップ&ダウン

 ようやくドメンタの街に着いた。


 本当に遠かったなぁ……。7日あれば巨神兵なら、文明崩壊させられるんだそ?!なのに馬車と徒歩以外の交通手段が発達しないのは、魔物のせいなのかね?もっとガンバれよ異世界。


 それにしても街が全体的に茶色って言うか緑が無い所だ。堅牢な建物も、街に張り巡らされた道路も、全てが石造りのせいで余計にそんな印象を強調している。


 街の緑化計画を再考した方が良いんじゃね?って程に見事に緑が無かった。


 初見の感想は、埃っぽくカサッと乾いた印象の街。約1週間の移動で、俺は砂◯惑星に紛れ込んでしまった様だ、そう思っておこう。



「う〜〜ん、住心地が悪そう……長逗留には向かない街かもな。それに茶色塗れの中で、ピー助の青がえらい目立つぞこれ。」

「ぴぇ?」



 せっかく野盗とさよならしたのに、ピー助が狙われたりしないか心配になるな…。確か、おしゃべりインコって羽の色で値段が変わるって事だし。


 この街では街の色に溶け込まない為か、原色鮮やかな服を着た人がやたら多い。空色の綺麗な羽を持っているピー助を欲しがるヤツもいそうだ。やらんけど。



 幸いなのは、湿度が低いお陰で高めの気温でもそこまでの暑さを感じずにいられた。だけど、肌に当たる陽射しは強く、何か1枚羽織らないと日焼けを通り越して火傷しそう。


 その上街にはマルチなネズミやサギも居るなんて、誰か駆除業者を呼んで一掃してくれないかー?



「ま、とりあえず組合に行ってみるか。」

「クミーアイ!ぴぃ!」

「そうだ、ク・ミ・ア・イに行くぞ。」

「クーミーアーイー!イクゼ!ぴ!」



 ダンジョンの情報と買取価格を調べて、等価交換の方が高かったら、そのままダンジョンに籠もろう。もしかしたら、ダンジョンの方が街より過し易いかもしれない。


 茶色に負けるか!気合だーー!


 俺はしこたまゼルを稼ぐんじゃーー!!




□ □ □




 そんな勢いと一縷の望みは、ダンジョンに入って直ぐに失せました。あっと言う間って、こんな場合に使うんだろう。


 残念ながら街に劣らずダンジョンの中も見渡す限り、岩、石、砂に覆われている上に薄暗い。


 1050年地下行きになった気分で、めっちゃ滅入るんだけど。とりあえず班長がいたら、1000ペリカ分の媚でも売っておこう。


 だけど、これで仕事終わりにはビールと焼き鳥に決まった!ヤッホー!!


 よし!テンション上がって来たーー!


 地下労働から脱却する為にも頑張ろう!




□ □ □




「……1つ積んでは父の為、2つ積んでは母の為、3つ………は、兄弟いないから省略〜。」

「ぴぇぇぴぃ??」

「ん〜〜?これはね、『賽の河原和讃』の一部だよ。親より早く死んだ子供が賽の河原で石を積むと鬼にいちゃもん付けられて、せっかく積んだ塔を壊されるんだって。ここの鉱石がある場所は掘りやすくなってる分、崩れやすいんだよ。掘っても掘ってもさぁ〜〜!マジで地下強制労働者になった気分が味わえる場所だね!」

「ぷぃ〜ぴぇ〜〜。」



 組合で言われた『諦めずに掘れよ!』ってこの事だったんだ。よく分かったよ!掘ったそばからボロボロ崩れやがって!少しは堪えろよ!


 途中から面倒臭くなって、『風弾』を当てながら砂塵飛ばして掘ったら、今度は埃が半端ない!



「……うっ!少し肺に入った………。」

「ぴぇ〜?」

「俺はまだ大丈夫だ、ピー助。お前はポーチの中にいなさい。」

「アイアイ!ぴ!」



 ついにピー助が『了解』の返事を覚えたか。どうせなら『かしこまりー』を覚えさせれば良かった。まあ、これからバリエーションを増やして行こうな。


 

「お、また何か出て来たぞ!」



 崩れた砂塵の中にこぶし大の塊が現れた。鑑定で確認し『水晶』と出たので等価交換にポイッとな。


 今の所、ダンジョンの浅い場所を掘ってるせいで、品質のあまり良くない鉄、銅、水晶、たまに翡翠が産出されている。


 深く潜ると、金や銀も出るって話だ。是非とも金の鉱脈に当たりたいねー。



「ピー助、このダンジョンではな『アイアイ』よりもマッチした言葉がある。それはな『ヨイヨイ』だ!」

「ヨイヨイ?ぴぇ〜?」

「そうだ!ピー助!!お前は天才だ!俺が『サノ』って言ったら、お前は『ヨイヨイ』と続いてくれ!そうしたら俺が鉱石を掘るペースがきっとアップするから!」



 かくして、異世界のダンジョン内に福岡県の民謡の一節が繰り返し響き渡り、それを聞いた組合員が『ソロ探索者が1人で怪しい歌を歌いながら鉱石堀りをしていた』と、後日話題になった事をダンジョンに籠っていた本人は知る由もなかった。





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