第78話 VS野盗

「どうしよ…………って迷ってる時点で駄目だよな。向こうは既に殺る気満々なんだから。」



 俺を探してる野盗共は、俺を見付けたら躊躇いも無く殺そうとするんだろう。


 対して俺は『どうしようかな』と迷ってる状態だ。


 まあ相手が野盗とは言え一切の躊躇無く人を殺すなんて、ちょっと前まで日本のサラリーマンをしていた俺にはまず無理だ。今後の安全の為には、ギリギリ行動不能にするくらいが関の山かな。


 でも行動不能か…………単純に動けなくする、それとも物理的に動き難い状態。


 『麻痺』だと効果がどのくらい持続するか心配だし、効果が切れたら追い掛けられそうだ。


 他の魔法だと一発じゃ難しい。だとするとゴミの処分に長宝してる『腐滅』の魔法ならどうだろう。足だけ腐らせるってのは出来るか?


 ものは試しと少し窓を開けた。


 窓を開けても認識阻害は有効だって、この前ソルスが一緒にいた時にやっと検証出来た。


 ただ、窓から少しでも出てしまうと、その出た部分だけが宙に浮いて見えて、ホラーと言うか間抜けな状態になってしまう。


 顔だけ出したらソルスに『気持ち悪っ!』って、ガチで言われたしな……。


 それと、開けた窓からは普通に物は入って来た。まあ、認識を阻害してるだけだから当たり前だな。大介が頑丈に出来てるとしても、出来るだけ攻撃されない様にしないと。


 では、魔法行きますよ。



「『腐滅』」



 1人の野盗の足に向かって魔法を放った。


 『腐滅』の魔法はゴミ(主に酒瓶)を処分するのに大活躍中だ。その魔法を使うと、黒いスライムの様な粘度の高いゲル状の物体が対象(酒瓶)を覆い、最後は黒い塵となって跡形もなく掻き消えて行く。


 しかも、ちゃんと狙った対象以外には効果が及ばない安心設計だった。


 そして魔法は狙った野盗に着弾。だがその野盗は、足に付いた異物を払おうと手を使ってしまった。


 ああ!!手にまで黒いゲルが付着しちゃったじゃん!その手を振ったら更に被害が拡大するのに!



「ギャーー!!た、助けてくれ!!俺の足が!手が!」

「どうした?!ん…何か飛んで……うあぁぁっ!!」

 


 マジやべぇ……想定以上の被害になってる。


 黒ゲルが他の奴等にも飛び火してしまった。


 結果、確実に行動不能だが、予想以上のMGSマジでグロい姿になっている野盗達。


 あれ?これ、普通にやった方がまだ良心的?だったんじゃ……。そんな事を思ってしまう程、悲惨な姿で苦しんでいる。


 そして、その騒ぎを聞き付けた他の野盗も集まって来たし、血の臭いに釣られて野犬達までも群れてやって来た。



「クソッ!どうなってるんだ?!」

「一先ず野犬を倒せ!他はそれからだ!」

「おう!」



 群がる野犬に野盗が対峙する。


 これは暫く様子を見ようか。そっと窓を閉めて戦いの見学準備を始めた。


 お茶を入れて一息付こう。自分でやった結果なんだけど、思っていたより数倍のスプラッタ展開に動悸がして来た。


 はぁ〜〜。やっぱり殺して奪うのは有りなんだな。今までは街から離れた街道を歩いた事が無かったから遭遇しなかっただけなんだ。


 これからは、街道もダンジョンの中も気を付けよう。ドメンタでは騙されない様に注意しろとも言われていたし。


 野盗vs野犬は、数に物を言わせた野犬が押していたが、加勢に入った野盗の1人がとても腕が立つ男で、次々と野犬を倒してしまった。



 陽も高い内から、本当に物騒な世界だ。


 犬も人も怖いね。みんな本能に忠実過ぎやしないか?


 俺なんか本能の侭に生きたら、ただの無害な飲んだくれにしかならないってのに。


 もっと平和に行こうよ。


 そうこうしていると、とうとう野犬が全滅してしまった。俺としては、相討ちが希望だったけど手数の多さでは人間に勝てんか。


 野盗連中も負傷程度で、まだまだ悪態付ける位の余地は残ってるらしい。

 

 あーー振り出しに戻っちゃった。


 気が重い!どうしよう。


 セグさんには、野盗に会ったら必ず殺せって言われたけどさ。


 踏ん切りがつかない。やりたく無い。


 『お巡りさんこいつ等です!』って言えば捕まえてくれる世界じゃないのは分かってる。



「はぁ…俺の悪い癖が出た。愚図愚図と諦めが悪い。やりたく無い事ほど、サッサとやる!」



 よし、俺はやるぞ!

 

 残ったお茶を飲み干し、茶碗にクリーンを掛けて綺麗にしたら収納する。


 よし、本当にやるぞ!


 そろそろと、窓際に立ちゆっくり窓を開けた。今ならある程度、野盗達も固まっている。



「………セグさんから『野盗は討伐報酬が出るから、金目の物を剥いだら、忘れずに首を持って組合に行けよ!』って聞いたけど普通に無理だから。意味が分らない!首は持ち物じゃねぇーよ!」


 セグさんに八つ当たりの様な独り言を吐き、半ば自棄気味に連続して魔法を放った。


 俺に正義を語る矜持はない。


 有るのは平穏な生活を望む気持ちだけだ。


 こんな無理な事も出来ればしたくない。


 『腐滅』の魔法を食らって、のた打ち回る野盗達から目を逸らし、ベッドに腰掛けた。



「異世界辛っ!」




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