第76話 ドメンタへ

 ここの所、ピー助と街の近くの草原で飛行訓練を続けている。ここは敵がいたとしても弱いんで、万一地上に降りても長時間でなければ危険も少ないから。



「行け!そのまま風になるんだ!」

「カ〜ゼ〜ぴぃーーぇーー!」



 よしよし、ピー助のフライト訓練は、順調な仕上がりだな。室内での練習の成果もあって、屋外の風がある場所でも安定した飛行が出来る様になって来た。


 部屋に作った止まり木は、段差も付けつつ縦横に渡し、ピー助のリクエストに応じた場所に巣箱も設置した。


 部屋の中に物入れがまだ無いんで、俺の服を吊るすハンガーパイプを兼用させて貰おうと思ったが、収納鞄があるからそもそも物入れは要らなかった。それに服も数着しか持ってないや。



「……………違う街かぁ。」

「ぴぇ?」



 最近の悩みである。留まるべきか、移動するべきか。



 街から伸びる街道を東に行くと、歩きで約7日程の場所にここよりも大きな街があるらしい。そこは、ここにあるダンジョンと違って鉱石やその他資源となるドロップが多いダンジョンだって話だ。食料がメインドロップのここのダンジョンよりも単純に交換率が良い。


 今の街は思った程のトラブルも無く、知り合いも増えて居やすくなって来てる。


 このままダンジョンに潜って稼ぐのも悪くないけど、イレギュラーが出ない限りは望む金額を貯めるのは至難の業だ。


 実は、あれからセディールとスコットに請われて、一緒にダンジョンへ行った。だがソルスと潜った時の様な幸運は起らなかった。宝石虫も出るには出たが1匹しか出なかったし。


 イレギュラーに遭遇するのが幸運かはさて置き、多額の儲けを追求するのであれば、今のダンジョンは不向きなんだよ。


 それに魔導ダンジョンの6階層は、雪原が広がるエリアで、試しにそこに降り立った途端、あまりの寒さに踵を返した。


 ただ、食用の美味しい氷が採取出来ると教えて貰ってたんで、必要な氷の切り出しだけはした。せずにはいられなかった。


 一言で言えば、ロックを飲むのにとても良い氷でした。お代わりが止まらなかった。ロマンティックは直ぐ止まるのにな?



「一度、他の街も行って見るか〜?」

「イクぴぃー!」



 合わなかったら戻って来れば良いだけだしなぁ。


 でも、それならこの街に『転移扉』を設置してから行きたい………増坪して金がないけど。


 まあ、魔の森を彷徨い歩いた事を思えば大した事ないっちゃ無いけど、時間の無駄だよな。


 稼ぎに行く為の通勤時間が7日とかアホだろ。


 ソルス達が一緒ならガヤガヤ楽しく道中も行けると思うけど、3人が街を出る事は無いだろうね。


 ピー助もまだ幼いけど、俺の手からでなくても自力でメシが食える様になったし、飛べる時間も増えた。


 ただ飯の催促では、アレが良いコレが良いと主張が激しい。グルメなおしゃべりインコに育ってしまったのは俺のせい。ちょっと反省。



□□□□□□




「カイ、やっぱりドメンタの街にいくの?」

「ああ、この街もダンジョンも好きなんだけど、試しに一度行ってみようと思う。合わなかったら直ぐに戻って来るからその時はまたヨロシクな!」

「そうか……。カイにはレシピを教えて貰ったり世話になったから力になりたいけど、一緒に行くにはドメンタは遠いなぁ。」

「あの街、ご飯があまり美味しく無いんだよ。何ていうか……塩辛い?鉱物の加工職人には人気らしいけど、俺の口には合わなかったな。」



 塩辛い食事って、ガテン系の仕事が多いからかね?飯はお試しして、合わなかったら自炊すれば良いな。


 幸い、食材はほとんど売らずに仕舞ってあるから、向こうに行っても材料に困る事は無い。


 作るのが面倒な時は、セディールの店のテイクアウト料理、スコットの屋台の各種サンドイッチ、お酒のお供はソルスの燻製達をしっかり買い置きしておいたから心配ナッシング。



「カイ、お前結構抜けてるから気を付けろよ?ドメンタは小狡い探索者が多いからカモにされるなよ。」



 セグさんも見送りに来てくれた。


 小狡いって言われてもアバウト過ぎるだろ。


 ここは詐欺に注意しろって事だと思っておこう。異世界には俺の味方、クーリングオフも無いし。


 もしマルチなネズミがいたら討伐して良いですか?良く分らないけどダメ?そうか…残念。


 そうして、行くと決めたら早々に準備をして、次の日にはセグさんやセディール達に見送られ、街を出発した。


 気分としては、旅行に行く様な感じだった。


 目指すドメンタは、資源の宝庫。それを加工する技術も職人もいる街だ。


 値段は張るらしいが、暑さ・寒さに耐性が付与された衣服や防具もあるって話だ。


 俺が元から着ていた服は、耐寒や耐熱の付与が付いている。ただ、手、顔、頭と足元は無防備だった。


 ダンジョン六階層の雪原は、流石に普通の靴では歩け無いから、初心者用の長靴を買ってチャレンジした。


 結果、無謀だと諦らめた。あんなに寒かったら、指先も足先も凍傷になるっての!


 それでもガッツで美味しい氷だけは採取した。けど、本当に美味しい氷だったからもっともっと欲しかった!


 だからドメンタに行ったら、少なくとも耐寒装備を整えて、また6階層に行こうと俺は心にに誓った。


 それと、同じく6階層にある神秘の泉と呼ばれる場所で、美味しい水もゲットしたい。


 その泉は、雪原の仲にポツンと現れ、コンコンと湧水が湧き上がるとても美しい泉だそうだ。水の透明度もさることながら、泉にしか生息していないと言う、清流魚がまた絶品だって話だ。


 残念な事に、その泉がダンジョンの奥にある為、泣く泣く断念したんだ。


 大介があれば何とかなると思って進んだけど、その途中に止まない吹雪エリアがあって、誠に残念だが無理は出来なかった。


 ドメンタでの目標は、耐寒装備の購入。ゼル稼ぎ。出来れば3000万ゼル稼いで転移扉を設置したい。


 交通手段が徒歩か馬車しか無いんだ。頑張って転移扉を設置しよう。


 金が幾らあっても足りない、果てしない目標を掲げ、俺は東へ向かって歩いて行った。


 小銭拾い(スライム討伐)しながら、のんびり行こうドメンタへ。





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