第74話 街へ帰還

「「ソルスっ!!」」

「久しぶり〜!二人共そんな格好でどうしたの?ダンジョンに行くなら僕等と入れ違いだね。」



 やっと街に辿り着いた時、丁度出発する様子のセディールとスコットに会った。


 2人はこれからダンジョンかな?探索用の格好で、俺達が降りた馬車に乗り込もうとしていた。



「どうしたのじゃないよ!!帰還予定を過ぎても帰って来なかったから心配したんだぞ!」

「そうだよ!セディールと2人でダンジョンに探しに行く所だったんだ!一体どうして遅れたんだよ?」



 あ、やっぱり心配掛けてたよな。でも遅くなったのは概ね不可抗力ですから。


 1日はソルスに付き合って予定外のキノコと魚を釣りまくって潰れて、俺が4階層で魔導書が欲しくて粘って半日。そして、体力バカの5階層ボスで半日を費やして約2日は予定よりも帰って来るのが遅れたかな。

 


「あ〜心配掛けてごめんね。狩りは順調だったんだけど、カイにキノコと魚の燻製を教えて貰ってたり、後は色々あって戻るのに時間が掛かっちゃったんだ。」

「そうだったのか……。親父さん達も心配してたから組合に顔を出したら直ぐに帰れよ?」

「うん、そのつもり。組合には報告しなきゃいけない事もあるしね〜。」

「報告?また変なボスでも出たのか?」



 セディールの奴め感が良いな。


 でも、ここではあまり喋れないか。何なら一緒に組合に来て聞いてくれると助かるよ。


 そんな訳で、セディールとスコットの2人も一緒に組合へ行くことになった。


 報告って俺はした事が無いけど、直ぐに終わるのか?俺、終わったら近くの森へ木を切りに行きたいんだよな。せっかく大介が広くなったから、ピー助の止まり木と小屋を室内に作って飛ぶ練習をさせたい。


 組合に行くと、受付で順番待ちになった。まだこれから依頼の受付をする人達がそこそこ残っていたからだ。


 この隙に『乾燥』と『発酵』の魔導書を購入して、組合の方が交換率の良い素材を交換機へどんどん入れていく。


 ここで交換した分は街で買い物する時にも便利な『ニャオン(探索者プレート)』にチャージしておこう。



「お待たせしました、次の方どうぞ!」

「はい!カイ、順番だから一緒に来てよ!」

「アイアイ〜。」



 ソルスに呼ばれて交換機から受付カウンターに行くと、何やらヒソヒソと小声で受付嬢に話をしている所だった。



「………承知しました。では、別室のご用意をしますので、こちらにお越し下さい。」

「ありがとうございます。ほら、カイも嫌な顔をしてないで行くよ!」



 別室とか面倒な匂いがプンプンんだよ〜。報告書にでもまとめて提出したいよ。


 4人で案内された個室で待っていると、セグさんと一緒に眼鏡を掛けた見知らぬ人物が入って来た。誰だ??



「おう、待たせたか?この前の報告に続いてまた『特異種』に遭ったって?」

「セグさん。はっきりとは分かりませんが、確かにいつものボスとは異なってました。なので、念の為に報告します。」

「今回のドロップも違う物がでたのか?」

「はい。」



 そう言って、ソルスは女王ハチの魔石、女王の濃縮ローヤルゼリー、濃縮テルミラハニー、回復薬と魔導書、それと4階層で取得した剣豪の剣を出した。


 先ずは、一番目を引く小玉スイカサイズの黄色い魔石。それを目にした途端、全員が息を呑んだ。



「な、何だこの魔石は?!」

「5階層のボス女王ハチを倒して手に入れた魔石です。剣は4階層のボススケルトンで、左右対の双剣でした。」



 ソルスがそう説明したんで、俺も持ってた剣を出してテーブルに置いた。剣は持ってるからコレは売っても良いですよ。


 すると、眼鏡の男が出された品物を一つ一つ手袋をした手に持ち、ジッと見てはテーブルに戻して行った。


 全てを見終わると、ホッとひと息付いて眼鏡の男は話を始めた。



「………セグ、確かにこの魔石は女王ハチの魔石で間違い無い。ただ、やはり『特異種』の物だったよ。それに、他のドロップ品も見たことの無い物だ。唯一、回復薬だけは既出だけど、5階層で出る様な物じゃない。特異種を倒したからこそ出た物だろう。」

「そうか………。ソルス、それにカイ。2人共良く無事に帰って報告してくれたな。滅多に出ない『特異種』がこうも頻出する様だと、一度、組合でもダンジョンに異変が無いか調べに行く必要が有りそうだ。他に気付いた事は無いか?ちょっとした事でも何でも構わない。」



 そう聞かれても、俺は4階層も5階層も初めてだったから、残念ながら違いの分らない男は黙ってます。


 なので、ソルスさんお願いしますと、目で合図を送った。そんな、ため息交じりに首を振るんじゃないよ!面倒くさいからじゃないぞ!



「先ずは4階層ですが、ボス部屋までの魔物から一度も魔導書がドロップしませんでした。他のダンジョンなら良くある事ですが、魔導ダンジョンでただの一冊も出なかった事は初めてです。更にボス部屋のゾンビ犬をスケルトンが命令している様に見えました。それと、何時もの号令が効きにくいかったです。……変わりにカイが言った『伏せ』が一番効きました。」

「『伏せ』?!」


 

 おう!『お手』、『お座り』に続く新たな方法として、組合の指南書に刻んで語り継いでくれ。


 そもそも何でゾンビ犬に『お手』をやらせようと考えたんだよ。最初にこの方法を見出した人は犬が大好きなブリーダーか何かか??普通は『伏せ』か『待て』だろ。



「そ、そうか。実地で試して有効だと判断出来たら、新しい討伐手段として組合でも周知するよ。他にはあるか?」

「あと、5階層で宝石虫の群れに遭遇しました。」

「「「「「宝石虫の群れ?!」」」」」



 ははは〜〜!みんな食い付くな〜!そりゃ、倒せば宝石をドロップする魔物だもんな!



「何匹いたんだ?倒せたのか?!」

「はい、倒せました。カイが『麻痺』で落として、僕がとどめを刺して、全部で11匹倒しました。」

「「「「11匹も?!」」」」



 凄いハモった。眼鏡の男も一見冷静そうな風貌だけど、驚きのあまりその目を見開いている。



 真面目なソルスは、自分の宝石をまだ交換せず、組合に報告してからと持っていた。



 テーブルの上には、透明な宝石、赤い宝石、青い宝石、緑の宝石、ピンク色の宝石が並べられ、輝きを放っていた。



「凄い!ピンクの宝石まで出たのか!!」

「ソルスがヤバい!金持ちになって帰って来た!」

「それを言ったらカイもだよ!」

「………カイ?お前も持っているのか?」

「俺の分はもう無いです。使っちゃいましたから。」

「「「「「使った?!?!」」」」」



 ザワザワしないでよ。だって、大介を大きくしたかったんだもん。トイレが欲しかったの!



「お前………何に使ったんだよ?!全部合わせたら1000万ゼル以上になるんだぞ?!」

「すみません。使用用途は教えられません。それに、俺は宵越しのゼルは大量に持たない主義なんです。一度、金を落とした事があって、その時とても悔しい思いをしたんで。」



 しれっと答えたら全員が唖然としていた。ソルスは、大介を増坪する時に説明したから大丈夫。



「お前、それにしたってもう少し計画的に使ったらどうだ?成人したてのひよっ子が使う額じゃないぞ?!」

「大丈夫です。俺の描いた計画通りに使ってますから。その計画もまだ道半ばなんで、これからも頑張って探索して稼ぎますよ!」

「………カイ、借金でもあるのか?ゼルは貸せないが相談なら乗るぞ?」

「借金はしてません!俺の夢のマイホームの為です!」


 借金なんかするか!リボ払いの金利だって払いたく無いわ!あ、でも内緒のつもりが、ついマイホームの為って言ってしまった。


 ま、いいか。



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