第73話 地上へ
女王ハチは、既に地べたに這いつくばる格好で藻掻いていた。ケバケバした長い舌が、今は力なく水中に浮いている。そしてその腹の一部は水を飲んだせいか少し膨らんで見えた。
お陰で水玉は涎か何かで濁ってしまい、何とも言えない状態だ。
更にソルスの魔法で集中攻撃された足や羽は、チリツモで損傷し、用を成さなくなっている。
ひとおもいにトドメを刺せない不甲斐ない俺達を許してくれ。決して態とじゃないんだ。
今の俺達じゃ、火力不足でどうしても決定打に欠けている。出来るならサンダー系の魔法でドンッと一発トドメを刺してやりたかった。
きっと、水玉にサンダー落としたら効果的だったろうな。雷魔法取得出来たらやってみよ。
「ああっ!」
「あ?!」
ピー助が乗って遊べる用に、ウサギの毛皮でボールを作っていたら、不意にソルスが叫んだ。
慌てて振り向くと、女王ハチがお逝きになった様で、丁度その姿がフッと消え去るところが窓越しに見えた。
水玉に火弾を入れてグツグツやった辺りから急激に体力が減って行き、予想よりも早く討伐する事が出来た。
やっぱり、生き物とゾンビは頭を潰すのが一番確実だな。
でも、ミミズとかリビングアーマーとかデュラハンが相手の場合は、どうしたら良いんだろう?外装がアーマー系の魔物って、中身は何かか入ってたっけ?空洞??
今度、セグさんにでも聞いてみるか。そもそも居るか居ないかさえ知らないしな。
「良かったよ…………なんとか倒せたね。」
「そうだな。これなら、明日の朝には街に向かう馬車に乗れるんじゃないか?」
「うん、大丈夫だと思う。朝ご飯を食べて待ってれば、丁度馬車の出発時間だと思うよ。」
「じゃあ、宝箱を頂いたら地上に戻るか!俺、転位魔法陣に乗るの初めてだよ!」
地上に戻るだけだけど、何気に楽しみにしていたんだ!
そして、2人で宝箱を拾いに外へ出る。それよりも先に、足元に落ちていた女王ハチの魔石が、目茶苦茶デカくて驚いた。
「うわ……こんな大きな魔石、僕も初めて見るよ。」
「そうだな。確かにあの体力だけあって、魔石も流石のサイズだ。それより宝箱開けて早く地上に戻ろうぜ!」
「はいはい。カイは早く魔法陣に乗りたいだけだろうけど、僕も早くダンジョンを出たいから賛成だよ。」
帰還予定を既に大幅に超えてるし、きっとソルスの家族は心配してるだろう。
基本、探索者は自己責任でダンジョンに潜ってるから、行方不明者が出たとしても、組合が救助や捜索をする事は無い。
ただ家族がいる場合は、その家族が依頼と言う形で他の探索者に救助を頼む事はある。
勿論、タダでは無い。探しに行く場所によって金額は変わるらしいが、ダンジョンは1階層下がる毎に値段が上がって行くって聞いた。
山岳救助を頼むと、ヘリや人件費で100万円以上掛かるってのと同じだな。ま、俺の場合は頼んでくれる家族がいませんけどね。
「罠は無いな。じゃあ開けますよ?」
「どうぞ開けちゃって〜。どうせ、また変なの入ってるんだろうな………。一応言っておくと、本来のボス宝箱なら、『女王のローヤルゼリー』、『濃縮ハチミツ』、『魔力回復ポーション』と『連携の魔導書』なんだよ?」
「連携の魔導書?」
「うん。この魔導書は同行者がいれば、戦闘時の連携がよりスムーズになるんだ。」
要らない魔導書だな。だって、俺、同行者ほぼ居ないもん。今回みたいに、稀に誰かと一緒になる事はあっても基本ソロだからな。
量は違うが、ソルスの言ってた様な品物が開けた宝箱には入っていた。似て非なる物なのかは、鑑定して確かめよう。
「では、発表します!」
「お願いね〜。」
【女王の濃縮ローヤルゼリー……身体の育成に必要とされる、豊富な栄養素が含まれたゼリー。他にも老化防止、肝機能向上等がある。】
【濃縮テルミラハニー……各種回復薬に使われるテルミラのその花からのみから採取されたハチミツ。全てにおいて高い効能を持っている。抗菌、抗炎症、抗酸化、免疫力向上の作用がある。】
【魔力回復薬(高)……魔力を500回復出来る】
【体力回復薬(高)……体力を500回復出来る】
【安産の魔導書……安全な出産を促す魔導書。その効果はレベルによって変わる。】
【抱卵の魔導書……産卵後の健やかな抱卵と孵化を促す魔導書。その効果はレベルによって変わる。】
「………カイごめん。思ったより物凄い微妙だったよ。」
「特に魔導書な。絶対、俺等に売れって言ってるよな?他は等分するか………。」
「そうだね。じゃあ、さっさと地上に帰ろうか。」
「賛成ー!」
まあ、俺は『濃縮テルミラハニー』の効能(肝機能向上)に大変満足だし、回復薬も効果が高い物で嬉しいです。もしピー助が女の子だったら、念の為に『抱卵の魔導書』は貰ったかもしれないけど。
じゃ、魔法陣に乗ってみよー!
ボス部屋の奥には、階段とは別の円形の小部屋があり、そこの床が怪しく光っていた。
「あの中央の光ってる所が魔法陣だよ。乗ると陣が発動するんだ。」
「へぇ〜。」
「試さないとピンと来ないだろうから、さっさと乗って地上に行こう!」
「だな!行ってみよー!」
「イクぴぇー!」
ソルスと一緒にその光る床に乗ると、徐々に光が拡散し小部屋全体を包んだ。
「……クッ!目が!目がぁぁぁぁぁーーー!」
「カイ?!目を開けてるとかバカなの?!」
「メガーーぴぃぁ〜〜!」
床の魔法陣をガン見していたら、ネタでは無く、マジでム◯カってしまった。
そして、両手で目を押さえている内に地上へ到着した様で、空気の匂いが変わった。目がまだ復活して無いので、何処に到着したのか分らない。
「……大丈夫?もう地上に着いたよ?」
「地上のどこ?まだ眩しくて見えない。」
「ほら、回復薬使いな。」
「ありがとうー!…………あ〜〜〜ビックリした!まさか、こんな目潰し効果が魔法陣に付与されているとは思わなかったよ。」
「そんな付与は無いよ。カイがバカなだけだね。」
ソルスにバカにされながら着いて行くと、ダンジョン入口の近くに小部屋の出口があり、その扉を開けたら、もう見たことのある景色だった。
「はぁ〜〜〜やっと出られた。」
「お疲れさん!目立たない場所にテントか大介を出して朝まで休もうよ。」
「そうだね……。本当にちょっと燻製用の材料調達のつもりで来たのに、ハプニングに見舞われ過ぎた。」
「俺のせいじゃないからな?」
そう言っても、ソルスは黙って俺を見返して来た。
俺のせいじゃないだろ?不可抗力だったら。
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