第66話 お花畑

 視界に広がる一面の花畑には、色とりどりの花が咲き乱れていた。


 ネモフィラの青もあれば、ケシの花の赤や黄色、それにチューリップ。コスモスも咲いている。日本で言う季節はガン無された咲き方だ。



「………おおっ!本当凄いな!!コレが見てのお楽しみって言ってたやつか!!」

「そう!凄いでしょ〜?ここは通称『お花畑』階層なんだよ。出てくるモンスターも蝶とかハチ、それにレアモンスターで言えば妖精かな?会えたら幸運に恵まれるって言われてるよ。」



 いやマジでメルへ〜ン。それにメッチャ『集蜜』出来そう。花蜜集め放題だな!!


 ……………ルルルンルンルン♫

 ルルルンルンルン♫

 ルルルンルンルンルンルー♫


 七色の花は何処?!ここにあるのは分かってるのよ!出てらっしゃい!!



「カイ、静かだけどどうしたの?感動して声も出ないとか?」

「………いや、ちょっと七色の花を探しています。それと花の蜜を集めてた。実は俺さ、『集蜜』って言う魔法が使えるんだよ。ソルスも欲しいなら分けてやるぞ?ここならたっぷり採れるだろうからな!」

「何か意味の分らない事も聞こえたけど……。でも花蜜は貰いたいな!リエラが甘い物大好きだから、お土産に欲しいよ!」



 俺の戯言をスルーする事を覚えてしまったのか……ソルス。


 そこから暫くお花畑を歩き、道々花蜜を集め、これまたけったいな色味の羽をした蝶々を倒し進んで行った。


 それに、5階層のハチはピンクと黒のストライプ柄なんだね?見慣れないせいもあるけど、神様のいたずらにとしか思えない配色だよ。


 すると、前方に何やら他の探索者達が集まって騒いでいる。あいつ等あんな所で何をやってるんだ??


 

「カイ!!あれ見てよ!結婚式やってる!」

「は?!ここダンジョンの中だぞ?!」

「今、探索者達の間で流行ってるんだよ!お花畑階層での結婚式!勿論、お互いに探索者である必要があるけどね!」



 何でだろう?俺の脳が目の前の現象に対する理解を拒む。僕ヨクワカラナイ〜。


 ケッコン式?血痕式かな?それとも尻根けつこん式??



「ん?なんだいピー助。腹減ったのか?しょうが無いヤツだなぁ。じゃあ、飯にしようか!」

「…………カイ、ピー助何も言ってないよ?」



 いや、俺には聞こえた!それに腹が減ってはいくさは出来ないからね。


 さてと……飯を食ったら出陣の準備をしますか!先ずは眼の前の敵リア充の殲滅からかな??



「もう、その目は何かな?自分がモテないからって、他人を僻むのは良くないよ?」

「僻んでません。………ちょっと目障りなだけです。他意はありません…………よ?」

「……ピー助、お前はこんなご主人を真似ちゃダメだからね?」

「ぴぇ!!」



 うるさい!俺の心は、箱根の関所の様に通りにくいんだ。え〜い、静まれ、静まれ!皆の者、頭が高い!ひかえおろう!簡単にこの関所が通れると思うなよ!



「仕方が無いなぁ。今度、リエラの女友達を紹介して貰おうか?」

「えっ?!しょ、紹介って…な、何を紹介する気だよ?!俺は良く眠れる寝具も健康になる水も神様のありがたいお言葉にも一切全く興味は無いからな?!」



 うぉぅ……過去の出来事がフラッシュバックする。


 俺は大して親しくも無いのに、急に電話して来たり、SMSを送って来たり、『久しぶり〜!』なんて馴れ馴れしく声掛けて来る女は特に絶対お断りだ!


 彼女は欲しいけどお断りするべしって、周防家の家訓になってるから!


 もし、俺に子供が出来たら絶対に語り継ぐレベルの教えなんだ!



「そんなの紹介する娘いないよ?」

「いや、いる!俺会ったもん!!!」



 何度も会っちゃったもん……………………。


 絶対、その界隈のグループに『周防はチョロいから誘えば来るよ!』とか、きっと出回ってるんだ!それで『強く押せば断れずに買うから!』って言われてるんだ……。



「カイ……。君は碌でも無い出会いをしていたんだね?」

「………大丈夫だよ、ソルス。俺にはクーリングオフがあるからね。俺を守ってくれるんだ」



 さあ、せっかくのお花畑なんだ!


 こんな暗い話題をせずに…………クソ眼の前の敵リア充め………奴等がこんな所で何かの儀式を執り行っているから、変な方向に話が逸れちゃったんだ!



「ほらほら、また怪しい目付きになってるよ?まあ、さっきはああ言ったけど、ここら辺で今日の野営地を決めよう!………カイ、あの木の側に行くよ!」

「分かった…。」



 俺はソルスに背を押され、野営にはちょっと早いけど目指す木のある場所へと向かった。


 そこには良く見慣れた、日本人なら万人が知っているあの木があった。霞か雲か……満開だよ。



「………桜だ…………………。」

「カイ、知ってるの?ソメイヨシノって木だよ?その昔、有名な探索者の人が名前を付けたって言われてるね!」



 ここにも日本人の居た形跡が……。あの交換機の機能やカードにゼルを入れた時の擬音…。


 やっぱり、以前、ここに俺以外の日本人が呼ばれた事があったんだな。



「じゃあ、テントを出して………っと!カイは夕飯の用意を頼んでも良い?僕は燻製用の木を切るからさ。」

「分かった。夕飯は何でも…………ああっ!ソルス!お前何やってんだよ!!」



 ソルスが満開の桜の木を切り出した!


 お前巫山戯んなよ!『桜を切る馬鹿、梅を切らぬ馬鹿』って言われてんだぞ?!素人が桜を切るな!



「カイ、安心して。ここダンジョン。明日には元に戻ってるからね?」

「………そうだった。忘れてたよごめんね。」



 お花畑に居るのに、未だに『森林の香り(初夏)』のせいで、栗の花の匂いを感じているからか、先ほど目にした儀式のせいか、ちょっとブルーな俺でした。


 少し景気付けたいな………花見酒で………。



「なあ、ソルス。ちょっと花見酒飲んでも…」

「………カイ…ダンジョンでお酒飲むなんて、絶対にダメだからね?分かった?」

「……はい、分かりました。」

「じゃあ、夕飯の支度よろしくね!」



 シクシクシクシク…………。


 ピー助、今度、2人で5階層来ような?


 日本ではな、4月は花見で酒が飲めるんだ。そう言われてんだ。酒が飲めるぞーって。


 俺は1月から12月までちゃんと覚えている。大切な事だ、忘れはしないさ。


 11月だって何もないけど酒は飲めるんだぞ?ちょっとくらい良いじゃん!




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