第64話 4階層のボス

 薄闇に紛れてボス部屋の扉が現れた。


 結局、ここにたどり着くまで魔導書は一切出なかった。


 これは俺に課された試練なんだろう。


 ダンジョンの理不尽に晒され、不本意な結果でこの4階層がもうすぐ終わろうとしている。



「さあ、変な顔してないで、ちゃっちゃとボスを倒して5階層に行こう!とっても良いよ〜5階層は!」

「判ってるよ。行ってのお楽しみなんだろ?」

「そう!この鬱蒼とした暗い森から一転するから、カイも楽しみにしててね!」



 俺がキメ顔してボス部屋の扉に相対していたら、ソルスに素気なく言われた。このタメが分らないとは……まあ、コイツはまだ坊やだから仕方無い……。


 それに元々、ソルスの目的は5階層にある木の採取だ。


 燻製のチップ用に木を採取して、ついでに燻製の需要が上がって消費が激しくなった肉類の補充。


 俺も4階層は『乾燥』と『発酵』の魔導書以外は欲しい物が特に無かったからな。



「カイも組合で予習して来たと思うけど、4階層のボスはフィールドより大きいゾンビ犬が5匹出るからね。でも、今までの号令も有効だから基本的な倒し方は一緒だよ。」

「了解した!森での恨みを晴らしてくれる!」

「ええー?逆に恨まれてるのはこっちじゃない?カイったら、ムキになってゾンビ犬を倒しまくってたじゃん。」

「………確かに。」



 けっ、恨むだと?!上等だ!だったら魔導書の一冊でも落としやがれってんだ!ショボいぜ4階層!もう来ないよ!


 ソルスと確認しあい、ボス部屋へと入って行く。すると、扉の先には予定通りのゾンビ犬が5匹………それとスケルトンが一体。


 あれ?余分なのがおりますが??



「ソルス、俺の目には居るはずの無いスケルトンの姿が見えるんだが?」

「ええーー?またなの?!どうしてカイと一緒だといつもと違うボスが出るんだよ?!」

「俺のせいじゃねぇ!ダンジョンのせいだ!」

「そうは言っても2階層でも変なボスが出たし、カイが1人で入った3階層のボスだってそうだったんでしょ?!僕達の時の3階層のボスはトロマッシュスーパ◯キノコしか出た事無いんだよ!」 



 そう。後で確認して分かったんだ。あの大きなのっぽのイチモツキノコがイレギュラーだったと。


 それより今は目の前のボス達だ。どう見てもスケルトンがゾンビ犬を従えてる。


 これは、いつもの号令を聞くか怪しいぞ。



「スケルトンが御主人様ムーブを出している」

「なにそれ?!」

「とにかく先制攻撃だソルス!土弾連射!」

「もう、分かったよ〜。」



 こちらが魔法を放つと同時に、スケルトンが『行け』と号令するポーズで、俺達の方へと指をさしてゾンビ犬をけしかけて来た。


 5匹のゾンビ犬が一斉に走り出す。


 グレート・デンを2割増させた様な見た目で突っ込んで来たら、普通に怖いぞ!



「うわっ、迫力あり過ぎ!『待て』!!」

「やった!号令聞いて………無い!ちょっとしか止まらなかったじゃん、カイ!」

「ちょっとでも止まれば良いだろ!その隙を狙え!」

「魔法じゃ、一撃で討伐は無理だよーー!!」



 途中の遭遇時に俺も試したけど、ソルスの言う通り魔法よりも物理攻撃の方が倒しやすかったのは確かだ。


 でも、倒せない訳ではない。


 どちらにしても、頭を潰しさえすればいいんだ。速いけど攻撃自体は単調だから、集中すれば外さないはず!頭と機動力を削ぐ為に足を狙おう!



「全集中!土の呼吸・土矢連射!」

「カイ!意味不明な事ばっか言わないで!余計に集中出来ないよ!」



 速攻ソルスに怒られた。



「……すみません………。」

「まてぴーーー!!」

 

 

 怒られた俺のフォローをする様に、ピー助がゾンビ犬に覚えた号令を言った。



「止まった!ピー助の方が余っ程頼りになるね!その調子でゾンビ犬を足止めして!」

「本当すんません………。」

「まてぴーーーー!!」



 気を良くしたピー助は、断続的に号令を叫び続けた。それに反応したゾンビ犬達は、だるまさんが転んだ状態。


 まさに今がアタックチャンス!


 俺もこれ以上はソルスに怒られたくは無いんで、お口にチャックで討伐しよ。


 2人で黙々と魔法を連射して、ゾンビ犬を一体づつ倒して行く。

 そして、最後の一体は足を失くしてその場で吠えていたのをソルスが頭を潰して討伐した。



「最後はあのスケルトンか………持ってる剣もいつもと違うしぃ……。本当に勘弁してよ!」

「俺のせいじゃ無いぞ?!」



 恨みがましい目で見られても、不可抗力だろ?魔導書が出ないのもイレギュラーボスが出るのも、全てダンジョンのせい!


 そして、ゾンビ犬がやられたのを見て、ゆるりと動き出すスケルトン。


 その立ち姿は、スケルトンの曲に威風がある。



「カイ、僕はあの剣が欲しいです!」

「はいはい、倒したら好きにしていいぞ。」



 ソルスはどうやら、あのスケルトンが持っている剣が気に入ったらしい。俺も剣を持っているし、剣術も習ったっちゃあ習った。


 だけど、場数は全然踏んでないし、素人なのには変わりない。


 なので、ここは安定の魔法攻撃から始めさせて貰おう。


 

 さっきの続きで土弾をまとめて放つ。ソルスも魔弾を打ち始めた。


 スケルトンが、黒く空いた眼窩がんかで何を見ているのかは分らない。


 だが、あいつは俺とソルスが放った魔法に対応し、土弾を剣で弾き、魔弾は避けて被弾を免れていた。



「…………ソルスさん、これヤバく無い?」

「そうだね、カイ。僕、何だかゼクさんに稽古付けて貰った時を思い出したんだけど?」

「偶然だな。俺もこの前の訓練時のセグさんみたいだなって、そう思ったところだ。…と、なると狙うは下かな?」

「だね。」



 ここは卑怯と言われようと、剣では捌きにくい足元を狙って動きを阻害し、あわよくばヤツの得物を落とそう。


 数はパワーとばかりに、2人で魔法を連射する。


 全てが当たる必要は無い。少しずつ削って結果倒せれば上等だ!


 そして、俺達の『チリツモ削り戦法』にスケルトンも徐々に被弾し始め、とうとう両足の骨を砕く事に成功した。



「おい、両足の骨が無くなったのに何でまだ立ってるんだよ?!」

「きっと、このスケルトンは、物凄い平衡感覚の持ち主なんだよ………たぶん。」



 腰骨で身体のバランスを保ち、剣を構えているスケルトンは天晴だ。


 だけど、もうさっさと次の階層へ行きたかった俺は、水玉を作ってスケルトンを水に閉じ込め、火弾をそれに投入した。



「………ねえ、何やってるのか教えて?スケルトン煮?そんなの僕は絶対食べないからね!」

「いや〜、湯がいたら骨が脆くなんないかな?って、思ったんだけど。アイツ硬いし。」



 ブクブクと煮立つスケルトン入りの水玉。


 あ〜〜なんか、見てたらラーメン食いたくなった。つけ麺でも良いなぁ…。



「それより!剣を一緒に湯がかないでよ!!」

「ああ、ごめん!ちょっとずらすよ。」



 そうだな。剣は湯がかない方が良いな。


 ソルスの指摘を受け、水玉(熱湯)をずらして剣を持ってる右手が出る様に調整した。



「………カイはその水玉が生活魔法だって言ってたけど、そんなに大きくて、しかも自在に動かせる物なの?僕は出来ないよ?」

「ええ〜?練習すれば出来るだろ?でも、俺はつい最近まで生活魔法以外の魔法を覚えてなかったら、もしかしたら皆よりは使う回数が多かったり、工夫したりで上手くなったのかもな。」



 水玉から出たスケルトンの右手を目掛けて、土弾を当てに行く。よしよし、水の抵抗で腕の振りが鈍いぞ!


 暫くして、剣を持つ骨を壊す事が出来た。


 ソルスはそれを見て、素早く魔法で剣を遠くに弾く。



「よし、もうあのスケルトンに攻撃手段は無いから、後は頭を潰すだけだな!」

「そうだね〜。あんまりスマートな倒し方じゃないけどねー。」



 ふん!スマートでスタイリッシュな敵の倒し方なんざ、ゲームの中だけだよ!


 死んだからってコンティニューは出来ないんだ。しかも、異世界生活1ヶ月にも満たない俺が慎重さを忘れたら、即エンド間違いなし。


 それでなくとも、まだ日本での生活感覚が抜け切らないから、色々ヤラカシてるし、これからも悪い意味で、ウッカリ何かやっちゃいました?が十分あり得る。


 なので、最後まで気を抜かずに倒しましょう!


 先ずは、スケルトンの頭部が出る様に水玉を小さくしてから潰します。


 続いては先程の要領で、魔法を当てて砕けば、はい!完成!!



「良かったね〜。無事倒せたよ。」

「そうだな!それにあのスケルトン、剣が上手そうな雰囲気だったから、もし動きが早かったら本当に危なかったかも…。」



 水玉をボス部屋の端で解除し、魔石やら剣やらを拾いに行く。すると、ピー助が羽をバタつかせ、騒ぎ出した。



「メシくう!ぴーーー!!!!」

「そうだな、腹減ったな。だからさっき食いもんが頭に浮かんだのか?」

「なら、せっかくだし5階層に行ってからご飯にしようよ!」



 ハラヘリ2人と1羽で、揃って宝箱を確認した後で、ちょっと早い夕飯にする事が決まった。


 何食おう?出来ればラーメン食いたいなぁ。







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