第63話 4階層の途中〜香りセレクト

「………呪われてる。きっと俺は呪われたんだ!もう……駄目だ………!」

「そうだねー。ここまで来ると、もう本当にゾンビ犬の呪いだと思うよ?言う事聞いて伏せたら、頭を潰されたよ〜って!ねえ、今回は諦めて次の階層に行かない?僕もう4階層やだ。」


 

 ううっ……。こんなにゾンビ共を討伐してるのに、一向に魔導書が出ない!ただの一冊も出ないってどう言う事だよ?!


 『乾燥』と『発酵』の魔導書は、組合で買っても500ゼルだからって、とうとうソルスが言い出したじゃないか!



「あ!それよりポーション切れる時間だよ!どっちにしろ5階に着くまでには追加で使う予定だったから、新しいポーション飲もうか?」 

「………そうだね。時間取ってごめんね。」

「別に良いよ〜。僕も3階層では丸1日使わして貰ったからね。」

「ありがとうソルスぅー!」



 クソーー!魔導書は等価交換での換金率も良いから、出来るだけ欲しかったのに!


 言っても出ない物はしょうが無い。俺もソルスに倣って、バックから『ニオイ換えポーション』を出して『森林の香り(初夏)』を使う。


 バラの香りよ、さようなら……今度は森林の香りか。どんな香りが調合されてるのかな?



「……あ?この匂いって……初夏……初夏?」

「僕は『くゆる香木』って香りのポーションだよ!仄かに甘い香木の香りで好きなんだー!」



 ………ソルスのは良さそうな香りだな。俺の選んだ『森林の香り(初夏)』は、確かに初夏に嗅いだことのある匂いだった。


 都会っ子は知らない可能性があるけど、多少の田畑や森林がある場所に行ったことがあるなら、一度は嗅いだことのあるこの匂い。


 そう。栗の花の匂い。


 誰だよ!この匂いをチョイスしたヤツは?!これ本当に初夏をイメージして香り付けしたんだろうな?!他意は無いんだろうな?!



「…………ソルス、ポーションって飲んだら香りは上書きされるん?」

「うん、されるよ。どうしたの?嫌いな匂いだった??」

「そうだね……あまり好ましい香りではなかったよ。この『森林の香り(初夏)』は。」

「ああ〜〜、それ選んじゃったか。その香りは調香師さんのネタポーションなんだよ。まあ、みんな一回は試してるけどね?」



 クソッ!やはりか!イタズラにしてもたちが悪いぞ?!半日ずーーーーっと、この匂い嗅がせるとかアホだろ?!


 しかも無駄に『森林の香り(初夏)』なんて、爽やかな名前を付けやがって!まんまと騙されたわ!!チェンジだチェンジ!



「よし、変えよう。もう1つ買って来たのは……『ティエンダの海(夏)』ってポーションなんだけど……』」

「ええっ?!何でそれ?!……ねえ、カイは『ティエンダ』を知ってて買ったの?しかも『夏』?!」



 確定的な嫌な予感。俺は最初に使った『ガーデン(バラ)』以外のポーション購入に失敗したのか?!



「ティエンダは漁業を生業なりわいにしている街の名前だよ。新鮮な魚が豊富で、色々な街へも売りに出されてるんだ。その魚の加工品も街の特産でね、行った事のある人から聞いた話によると、夏場は特に独特の生臭さと魚の発酵臭と磯の匂いが混じって、街中に漂ってたって言ってたよ。」

「……独特の生臭さと魚の発酵臭と磯の匂い…なんてモンをポーションにブレンドしてくれてるんじゃ!アホ調香師が!!」

「でもね、その再現率がバッチリで、腕は確かな調香師なんだよ?ただ、香りのセレクトが個性的なんだ。」

「……俺はソコに確かな再現を求める人種じゃねぇ!!もっと、一般受けする香りを付ければ良いだろ?!」

「そう言っても調香師さんの好みもあるしねぇ。…………じゃあ行こうか!カイ!!」



 無情にもソルスに促され、泣く泣く『森林の香り(初夏)』のまま、先へと進んで行った。


 今度ポーションを買う時は、名前でかうのは絶対に止めようと、心に誓った。



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