第59話 黒歴史

「あ!カイ!久しぶりだ〜!今までずっとダンジョンに潜ってたの?ずいぶん熱心に潜ってたんだね?」

「………………………………」



 今の俺は、言うなればラク◯ン・シティからのサバイバー。

 籠城戦をしのぎ勝利をもぎ取って大介に立て籠もって、隙を見て逃げて、この街に帰って来たんだ!!


 そんな俺の気持ち………ソルス、燻製屋のせがれのお前には分かるまい!



「………4階層から帰って来た。」

「うわ〜〜…行ったんだ?臭かったでしょ?でもダンジョンって、本当に変だよね!4階層で出てくるあの犬が『お手』と『お座り』で動きを封じれるなんて、どこの飼い犬だよ?!って思ったもん!流石の僕も、はじめて探索者組合で調べた時には、先輩探索者の人達に騙されてるのかと疑ったほどだからね!」

「……え?お、お手………お座……り?」

「ええ?!待ってよカイ、嘘でしょ?!知らずにあの犬達と戦ったの?噛まれなかった?!」



 俺はソルスの言った事を理解するのに、暫しの時が必要だった。


 茫然自失とする俺を見たソルスの進めで、燻製屋の屋台の席を借り、ソルス新作『燻しの極み・コッコ(鳥肉)』を噛み締めていた。



「カイ……ダンジョンの情報はちゃんと組合で確認しなきゃダメだよ?先行するベテラン探索者ならともかく、僕たちはまだ駆出しも良い所なんだからさ。」

「そうだね……。ソルス、この燻製美味い。酒飲んでもいい?」

「ダメ!駄目だよ!!今のカイからは、ダメな大人の気配がする!君はまだお酒に逃げて良い年じゃないんだ!それをやって良いのは『かみさんの尻に敷かれてから』だって、僕の父さんが言ってたよ!!」



 ソルス父ぃ!!今日から俺はお前の応援団長だ!頑張れ!頑張れソルス父!かみさんのケツ圧に負けんじゃねぇぞ!!



「全くもう……カイは強そうなのに知らない事が多いよね?でも僕たちは、若くても既に成人年齢に達しているんだよ?子供みたいにいつまでも、知りませんでしたは通じないからね?」

「はい……その通りです。」

「それより犬に噛まれて無いんだよね?あの犬に噛まれると酷い炎症を起こすから、直ぐに治療しなきゃだめだよ?!」

「え…?ゾンビになったりはしないの?」



 俺の言葉にソルスがフリーズした。

 え?しないの?!



「……待って、カイ本当にそう思ってたの?噛まれたらゾンビになっちゃうって?」

「……そうだよ!」



 ソルスが震えている。俺も違う意味でふるえていた。



「ん…おい、どうしたんだ2人共。プルプルとスライムみたいに震えて。カイは久しぶりだな!そうだ!お前に教えて貰ったサンドイッチのレシピ!早速屋台で大好評だよ!」

「……スコット久しぶり。そうですか……良かったです。ええ…はい。」

「ねえ!スコット聞いてよ!カイが可愛いんだよ!ゾンビ犬に噛まれたら、自分もゾンビになっちゃうと思ってたんだって!」



 うぉぉぉぉ〜〜!!ソルスのヴァカ野郎!何でそんな事を口にするかぁぁぁーー!!


 お前には、病に罹患した者の譫言うわごとを温かく見守るって言う慈悲は無いのかよ?!



「ぷっ!……ごめんカイ。でもね、早く気付いて良かったじゃない?」

「……ふっ…ぶふっ!そうだぞ?いや〜それにしても、頼りになるヤツだと思ってたのに、案外抜けてる所もあったんだな!」

「ね?可愛いよね〜。リエラの次の次の次くらいに可愛いよ!」

「ん?リエラ??」



 初めて聞く名前だ。しかも女の子っぽい。



「僕の妹だよ!」

「俺の彼女だ!」



 何だと?!スコット手前てめえけしからん!



 燻製屋の屋台で騒いでいたら、セグさんが来た。久しぶりです。これから、ちょーっとばかりスコットを尋問しなきゃならないんで、後にしてくれますかな?



「おお、丁度良かった。お前にも聞きたい事があったんだよ。」

「何でしょうか?今、立て込んでまして…」

「すぐ終わるよ。少し前にお前等、魔導ダンジョンに行ってたろ?その時、3階層のボス部屋が1日以上開かない現象が確認されてな。何か知らないか探索者みんなに声掛けてんだよ。」

「……それは、また不可思議な現象が発生したものですね。」


 

 知っている……とは言えない。ボス討伐後、飲んだくれてなんて!


 だが俺が口を噤んでいる隙に、ソルスが俺の黒歴史を暴露しやがった!


 ゼクさんには微笑みと共に、肩ポンされて『今度、探索者組合に来たら声を掛けろ。一般常識を教えてやる。』と優しく言われた。


 周防海、異世界年齢15歳、見た目詐欺の実質アラサー。勉強のし直しの予感に『酒量を減らそう…』と誓ってみた。


 達成されるかは誰も知らない。




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