第58話 戦略的撤退?
「え?!くっさ!!何ここの階層メッチャ臭いんだけど?!」
「ぴぇ?」
途轍もない腐敗臭がフロア全体に満ちており、階段に降り立った途端、空気が変わった。しかも全体的に薄暗い。
獣独特の臭いもするし、まるで
だが、ピー助はあまり嗅覚が発達していないせいか、『何のこと?』とばかりに首を傾げている。羨ましいぞ!
「うぇ!無理!!助けて大介さん!」
「うぇぴぇぇぇー?」
我慢出来かねる臭いに、最近やっと大きくなった次元扉の『大介』を出して避難した。
ちょっとしか居なかったのに、服にも身体にも臭いが付いた気がする…。
「連射クリーン!!」
「クリーンぴぇ!」
最初に使った『連射』がクリーンとか…。攻撃魔法じゃない所が俺らしいぜ。
思わず体内のアルコール消毒もしたくなったけど、それは流石に止めておいた。
「本当に何であんなに臭かったんだ?この中を探索しろとか、絶対無理だろ?」
「クサ?ぴぃー!」
窓から外をみると、昼間なのに分厚い雲が空を覆い、立ち枯れの森には得体のしれない鳥が無数羽を休めている。その枝々は、鈴なりの鳥達で
「俺、リアルなホラーは好きじゃないんだけどなぁ…。」
「ぷっ、ぴぇ〜。」
ピー助さんに小馬鹿にされた気配を察知したが、スルーを決め込み外の様子を観察する。
生気の無い下草が風に吹かれて揺れ動く。
木々には葉が全く無く、その代わりに雀サイズの鳥が枝を賑わせていた。
「うわ〜〜、見ろよあの雀みたいな鳥。羽は黒いのに
「ぴ?ん〜〜ぴぃ〜〜〜!」
含みを持ったピー助の返答を聞いていたら、ふと揺れた下草の間から犬が一匹出て来た。
辺りの匂いを嗅いでクンクンしてる。
あそこは……さっき俺が居た場所だな。
ハウス内に入ったせいで匂いが途切れたのを探っているのか、キョロキョロ顔を忙しなく動かしていた。
そして、見てしまった。犬の顔が、身体が、半分以上腐って崩れていたのを。
顔や肋骨の一部は骨が露出し、よく見ちゃダメな小さく白い蠢く虫達が、その腐肉を食らっていた。
「た…た……たすけてー!リック!!」
「りっ?ぴぇ?」
「ダ、ダリルでもいい!そ、そうだ!ここは呼ぶなら本職だ!ゴリラ…じゃなくてクリスを召喚!ああ!欲を言えばエイダ様がいい!」
「………ぱぁ〜ぴぇ。」
いや、だってさ、この犬にもし噛まれて◯ウイルスに感染しちゃったら、ワクチンを持って無い俺は有酸素運動とは別のウォーキングをするデッドになっちゃうかもしれないじゃんか!
ダメだよこんな危険地帯に対策無く乗り込んじゃ!セディール達はいったい、どうやって攻略したんだよ?!
ああ!そう言えば、出るって言ってた!臭いも覚悟しろって!スケルトンは兎も角、ゾンビも出るって!
これ、臭い以外に万が一の時の用意が必要だろ?!どうして、ちゃんと教えてくれてなかったんだよぉぉ!!!
「………ピー助さんや、ここは戦略的撤退をしようと思います。急がば回れっすよ。ね?!」
「ぶぶっ〜ピェ〜ん!」
何がピェ〜んだよ?!泣きたいのはこっちだ!俺の死活問題だぞ?!
しかも、犬が増えて来たよ!すぐ近くに上層への階段があるのに、これじゃ出られない!
「こいつ等……シッシッ!!あっち行けよ!」
「シーシーぴー!」
「くぉら!ピー助コノヤロウ!紛らわしい言い方すんな!真面目にしてろ!」
「ぷぇ〜ん、ピェ〜ん!」
また犬が増えた!マジかよ…メッチャグロい集団になって来た!!巫山戯んなよ!こんな場所に単身で来て乗り越えられるのは、特殊訓練を受けた精鋭だけだぞ?!
「ヤバいよ〜マジでヤバい!俺、何時の間にか変なフラグ踏んでないよな?!」
「メシ〜ぴぇ〜!」
「いや、緊張感!俺の胃部はこれまでに無い状況に悲鳴を上げてるんだよ!メシなんか食えるか!!」
「くう〜〜ぴぇー!」
ええー?!この状況で敢えてメシ?
大介さんは認識障害中だから襲われたりしないけどさぁ……。それにお約束通り、ゾンビ系は脳味噌を破壊しないと首切っても動いたり、どうせ頭だけでも元気にバウワウしちゃうんだろう?
今回は、俺のお得意『遠隔水玉』の窒息技が使えないじゃないか。それに窓を開けた途端、臭いも犬も入って来そう。
改めて索敵をしてみると、大介さんが囲まれているのが分かる。きっと、これ出た途端に俺が噛まれて終わるヤツ。
「……………ピー助、飯にするか?」
「メシーーー!ぴぃ!!」
俺は、現実逃避と言う名の、食事を取ることにした。ついでにアルコール除菌をしよう。
時間の経過が全てを解決してくれるはず。
果報は呑んで待ってよう。よし、決まった!
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