31話目 洞窟ダンジョンRTA

 ピー助が暑さでダウンしたのを見て、もう少し成長してから草原ダンジョンの5階層以降を進む事にした。

 そして一度ダンジョンを出て、向かったのは最初に行った『洞窟ダンジョン』。


 今更ながら『洞窟ダンジョン』。

 でもしょうが無い、一つ検証したい事が出来たからな。


 思った以上に魔導書が出ない原因は何か?

 

 単に俺の“引きが悪い”だけの問題じゃないよな?!って事で、街に戻って『魔導書屋』のミフ爺に聞いたら呆気なく答えが返って来た。


『そんなの『魔導ダンジョン』に行けば嫌ってほど取れるわい!しかし良い魔導書は強い敵を倒さねば手には入らんぞ?』

 

 どうやら俺がまだ行ってないもう一つのダンジョンが、その『魔導ダンジョン』らしく、同じスライムを倒してもドロップする物が『魔石かゼリー』ではなく『魔導書かゼリー』に変わるらしい。


 ただ、ミフ爺や組合での販売価格の通り、良く出る魔導書の買取価格は魔石よりも安い上に、そのダンジョンにいる魔物の攻撃が『物理プラス魔法攻撃』となる為、大抵の探索者は一度必要な魔導書を手に入れると『魔導ダンジョン』には潜らない事が多いそうだ。


 そりゃそうだよ。街で買った方がダンジョンで払う労力よりずっと安いだろうし。


 ついでに『麻痺』と『跳躍』の魔導書の販売価格を聞いたら、麻痺が『100万ゼル』、跳躍が『20万ゼル』だと言われた。

 いきなりの高額設定に一瞬ボッタクりを疑って、それをつい顔に出してしまったら、ミフ爺に『中々出無い魔導書なんじゃ!当然の価格だと思え!』と、勢い良くキレられた。


 それなら、なんで中々出無い魔導書を俺は手に入れられたのか?

 特別な事は一切していない。だから単純に同一魔物の『討伐数』でこの変化が起こったんじゃないかと仮定した。


 他の探索者が手に入れられなかったのは、チームを組んで全員で討伐した結果、一人当たりの魔物の討伐数が分散したから。まあ、いつかはあのイレギュラーが出て来るだろうけど、その頃には他のダンジョンに行ったり、スライム程度は無視して進んでる可能性もある。

 あとは、知っていても秘匿してるかもな?


 耐性を持ってない魔物に限定されるけど、『麻痺』は使ってみれば、レベル次第でかなり有効な魔法だ。


 だから検証も兼ねて『洞窟ダンジョン』のクモとコウモリ、マッパゴブリンを倒そうと思って戻ってきた。ついでにもう一度スライムから『麻痺』が出たらと期待している……俺は期待してるからな!頼むぞ!!


 苦戦する敵はいないんで、こうなったら如何いかに早く回れるか、1人RTAでもしてやろうじゃないか!


 それにこのダンジョンなら防具の必要性も薄く、回復の心配もほぼ無い。

 多分、親より先に死んで俺は異世界ここに来たんだろうから、賽の河原で小石を積む代わりに魔物の魔石を積み上げよう。



「では第一回『洞窟ダンジョン』RTAチャレンジ行きまーす!」

「イク…マース!」



 時計も相手もいないから、自己満足の体感RTAだけど、スピードに乗って走り切るぞ!


 初めて潜った時より少ないスライム達は、剣でサクサク切り飛ばし、倒し終ってから魔石拾い。貧乏なんで、ドロップ拾い有りのRTAですみません。


 続くクモは、吐き付けて来る糸に注意しながら倒しつつ、複数いた時は魔法を併用する。


 クモを捌きながら、少しは剣の腕が上達したんじゃないか?と自画自賛。


 いや、確かに剣は振れる様になったはずだ。前より疲れないからきっと多分そう。俺の心の師(暴れん坊な将軍)もそう言ってる。

 成・敗!

 

 続いてはコウモリ。流石にヤツ等は魔法を使って撃ち落とすしか無い。でも洞窟の天井にぶら下がっている状態を狙い撃てば楽勝だ。


 もし飛ばれたとしても、ハチドリより遅い動きでは外しようがない。慣れって大事だな。


 ラストのマッパゴブリン共は、剣で倒せる様になった。連係もしてこないこん棒持ちのゴブリンだから出来る事だけどさ。


 ついでに、最後の1体は『パリィ』が出来ないか少し練習した。

 何度か繰り返す内に、何となく打ち合うタイミングが合った時に、反発し合う様な力を感じた。でもそれより、剣で逸らして流した方が、良い感じにゴブリンの体勢を崩せて倒しやすかったな。


 そうして、一回目の振り返り探索をした後は、作業の如く周回し、行程を繰返す内にスピードにも乗って、夕方までには4往復して今日の探索を切り上げる事が出来た。



「最初の時は確か…2往復しか出来なかったから、単純に半分の時間で周れる様になったか」



 復路は魔物が心持ち減るんで、行きと帰りでも掛かる時間は多少は違っていたし。


 ダンジョンの外に出てから『大介』を出して、これにて今日のお仕事は終了!お疲れっした!



「フフ…ハハハーーーっ!検証成功!新しい魔導書もゲットしたぜ!」



 俺の『数撃ちゃ当たる説』が立証され、無事、クモとコウモリから新たな魔導書を取得後出来た。


 クモからは『製糸』。これで俺も手から糸を出すスパイダーな男だ!と、思ったらガチの糸を出す人間お蚕さん魔法だった……。


 魔力が続く限り糸を出せる事が知れたら面倒事になるだろうが、適度に納品すれば大丈夫だろう。それに値段によっては『等価交換』で金に変えられるしな。



 そしてコウモリからは『吸血』が手に入った……。

 もう本当に俺に何をしろって言うんだか不明な魔法。きっと誰が取っても同じ感想を得るはずだ。


 持っていたウサギ(小)を使って、試しに血抜きをしてみたら、口で吸い付かなくても、触れた所から血を抜く事が出来た。


 でも『等価交換』をすれば簡単に分けられるんだけどね?これは他の利用用途が無いか試してみないと持ち腐れが濃厚。


 あと、スライムとゴブリンからは魔導書を手に入れる事が出来なかった。スライムは2度目が無いだけかもしれない。ゴブリンは個体数が少いから、ここで討伐数を稼ぐのは無理だと諦めた。


 産毛に混じって、青みの羽根が生え始めたピー助に飯を食わせ、魔石を交換し一息付く。


 明日は朝一で街に戻って納品したら『草原ダンジョン』に行こう。


 1層目で、ハチとウサギ狙いのハンティングをしつつ、スライムとバッタは継続して倒してみよう。もしかしたら『麻痺』と『跳躍』を取れるかもしれないからな。


 足が付かずに効率良く稼ぐには『魔導ダンジョン』が一番だろう。

 でも、魔物も魔法を打って来るなら、多少なりとも防具が欲しい。それなのに俺には金が無い。


 草原ダンジョンの4層目迄でどの程度稼げるか分からないけど、安全第一で進もう。


 やっぱり、楽して稼ぐのは難しいねぇ…。





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